グリム・リーパーは恋をする ～最初で最後の死神の恋～

懸念 ―ケネン―

3

「きましたよ」

　一瞬なんとも言い難い間があったが、すぐに無表情になり、ザラは早口で言い放った。表情はいつもと変わらない……変わらないのだが、怒りのオーラが僕にまとわりつき、ゾクリと体を震わせる。

　魔道士のトップに立つザラを怒らせるのは危険だ。だが、僕の何がザラの逆鱗に触れたのだろうか？　どうしてザラが激怒しているのか……さっぱりわからない。

　ザラが感情を露あらわにするなんて、天地が引っくり返ってもありえないと思っていた。それほどに今、稀有けうな状況である。

　いくら考えても身に覚えがない僕は、ザラの激怒理由を探るべく、素知らぬ振りして話を続けた。

「先生がここにいるという事は、クラリス……」

　クラリスの名前を出した途端、背筋がピキンと凍った気がし、僕の頭では危険信号が点滅する。慌てて口を閉じたが、ザラの視線が鋭すぎて、氷柱つららを突き刺されたような痛みが体中を走った。

　本当に何が起こってるんだー！？

「あの……クラリスは屋敷に戻ったんですか？」

　極寒の空気にも重圧にも耐え、必死に質問すると、ザラはほんの少し……よく見ないと気がつかないくらい、小さくピクリと眉を動かす。

　もうザラの感情がダダ漏れすぎて、天変地異でも起こるのではと心配になってしまう。

　逃げ出したいほどの不機嫌が漂う空間で、ザラが淡々と言葉を発した。

「王子が連れていきましたよ」

　その返事の内容にザラの怒りの理由なんて一瞬でどうでもよくなり、僕は唇を噛みしめ、宙を睨む。

　くっ……アルベルトか！