グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~

桜乃

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王命 ―オウメイ―

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「まて。まて、クラリス。えっと……今回の婚約は、その……あの……お、王命だから、昨日の今日でやめます。は、父上の顔を潰す……というか、なんていうか……」

 一生懸命考えを巡らせながら、しどろもどろクラリスを説得しているアルベルト。

「王命……それもそうですわね」

 クラリスは王命という単語に動きを止める。椅子に座り、手元の紅茶をコクリと飲み、ポツリと声を出した。

「たしかに、国王様のお顔を潰すわけにはいきませんわ」
「だろ? だから、婚約破棄は……」
「アルベルト様を解放して差し上げたかったのですけど、仕方ありません」
「そ、そうなんだよ、仕方ないんだよ」

 この話を終わらせたくて仕方ないであろうアルベルトがホッとした顔で頷き、クラリスも頷き返す。

「今すぐでなければ、良いわけですよね?」
「えっ?」
「では、時がきましたら……」

 再びアルベルトの両手をしっかり握り、クラリスはにっこりと最高にかわいい笑顔を見せた。

「婚約をぶっ壊しましょう!」
「……お、おう」

 笑顔と勢いに負けたアルベルトは返事をしてしまい、僕とミカエルは顔を見合わせ、目で会話を交わす。

『やっぱりな』
『やっぱりね』

 予想通りの展開に僕は笑ってしまった。

 アルベルトを不憫で可哀想と思っているクラリスが、王命ごときで諦めるわけ無いだろ。クラリスは優しくて情に厚く、人の為に一生懸命になる女の子だ。お前の為にきっと頑張る。

 婚約をぶっ壊す……言質げんちはとった。

「婚約破棄に協力するよ」
「もちろん、僕も」
「ありがとうございます。2人とも! アルベルト様、2人が協力してくれるなら心強いですわね!」

 クラリスは顔を明るくし、アルベルトに向かって無邪気に「良かったですね!」と微笑む。

「アルベルト様、2人はいつでもアルベルト様の味方でいてくれますよ。アルベルト様も大船に乗ったつもりでご安心ください! 必ずや、婚約破棄を勝ち取ってみせますわ!」
「任せろ。アルベルト」
「安心してね。アルベルト」
「おう……」

 僕とミカエルで婚約破棄の協力申し出を畳みかけ、逃げ場がなくなったアルベルトはがっくり肩を落とし、捨てられた子犬のような悲しげな目で幼馴染の僕を見る。

 いやいやいや、お前、王子なんだから泣くなよな。
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