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王命 ―オウメイ―
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しおりを挟む「座れば?」
ミカエルに素っ気ない口調で促され、アルベルトはバツが悪そうに空いている席に座る。僕ら3人の視線に耐えられなかったのか、明後日の方向を見ながら、紅茶をクイッと勢いよく飲み、ティーカップを空にした。
「アルベルト様、あの、婚約の件ですけど……」
「ああ……」
落ち着いたのを見計らい、クラリスが口火を切る。アルベルトは真顔になり、僕は背筋を伸ばした。
あまりクラリスの前で強引な事はしたくないが、状況次第では、今、この場で婚約内定を潰す。
僕は腕を組み、アルベルトとクラリスを交互に見る。まずい展開になりそうになったら、すぐ横やりを入れられるよう注意深く空気を読みつつ、黙って成り行きを見守る事にした。
「なぜ、婚約の話になったのかご存知ですか?」
アルベルトはへっ?と素っ頓狂な声を出し、当惑の色を見せる。
ああ……驚くのも無理はない。
クラリスは公爵令嬢。
たとえ魔道士にならなかったとしても、公爵家が強く望めば、王子妃になってもおかしくない立場。王家と婚約の話になるのが当たり前の家柄なのに、なんで婚約の話になったんですか? 不思議ですよね? おかしいですよね? という顔で聞かれてもアルベルトもなんて言っていいのやら……というところだろう。
まぁ、それだってまだマシな質問だぞ、アルベルト。なんてったってクラリスはお前との婚約、忘れてたんだから。
「それは、父上が……魔力量の……」
たじたじとアルベルトがなんとか答えていると、クラリスは物知り顔をし、うんうんと頷いた。
「アルベルト様にも選ぶ権利はございますわ」
「えっ?」
「そうです! 恋愛は自由です」
「自由……」
「魔力量が多い。という理由のみで私と婚約をしなくてはならなかった、アルベルト様が不憫でなりません」
「不憫……」
クラリスの言葉をオウムの様にただ繰り返すだけのアルベルトを見て僕はニヤニヤしてしまう。
そして、クラリスの勢いはまだまだ止まらなかった。
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