グリム・リーパーは恋をする ～最初で最後の死神の恋～

死神 ―シニガミ―

2

　男を見据えた僕の瞳に熱が帯びてくる。

　見上げていた男の顔からは血の気が引き、息苦しいのか呼吸が荒くなっていた。

「あう……め……めが……あか……あ……あ……」

　男が苦しそうに呻うめく。

　魂を刈る時、僕の瞳の色は変化する。フードの奥にある血紅色ブラッドレッドの瞳を見てしまったターゲットは言い知れない恐怖に支配され、震えを止めることができない。

「この化け物！！　助けてくれぇぇ！　やめろーーやめてくれっ！　化け物め！　この化け物！！　化け物っ！　化け物っ」

　狂ったように男の口から叫ばれるのは、僕がこの力を発現させてから言われ続けた化け物という罵ののしり。

　僕は黙って大鎌を振り下ろした。

　男は静かになり、体がユラリと揺れる。ゆっくりゆっくり前傾になり、時間をたっぷりかけながら、最後にバタンと床に倒れた。同時に僕の手のひらに魂がコロンと現れる。

「子供達を生贄に捧げていた君の方が、よっぽど化け物じゃないか」

　うつ伏せに横たわっている体を見下ろしながら呟き、大鎌を消す。手のひらに乗ったこの男の魂を見ては小さく溜息をついた。

　真っ黒で歪いびつな形の魂……これは浄化するのに時間がかかるな。

「終わりましたか？」
「はい」

　さっきから気配を感じていたザラの声が背後から聞こえ、僕は返事をする。

　いつもの事だが、本当にタイミング良く現れる……もう驚きもしない。

「では」

　ザラがパチンと指を鳴らすと、僕の手のひらにあった魂と男の体が消えた。

　魂は浄化の空間へ、体は氷漬けにされ保存したのだろう。魂の浄化が終わった時の為に。

「あの魂はなかなか浄化できませんよ。13人の魂を吸ってますから」
「そうですね……」

　僕は少し疲れを感じながら、ぼんやり答えた。