鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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クラリスが17歳になりました

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 なん……なんだよ……この展開。
 俺より先に求婚していた奴がいたなんて。
 一難去ってまた一難。急転した目の前の出来事に、俺……心臓がもちそうにない……

「貴女を好きだという事は何度もお伝えしましたが、今日こそは良い返事をいただきたい」

 そんな話……今まで知らなかった……

 バードはクラリスの手を握り、ズイッと顔を近づける。クラリスは少し困惑した様子でバードを見ていた。

「貴女が王子の婚約者なのは誰もが知っている事ですが、王子は貴女に対して酷すぎです。アルベルト王子が貴女に見せつけるようにマーガレット嬢と抱き合い、高笑いしていたところを見かけた……と父が言っておりました。婚約者の貴女に対して失礼にもほどがある」

 おーーーいっ! 抱き合いって……突進されたんだよ! 見せつけた覚えも高笑いした覚えもねぇっ! 話を盛るなぁぁ!!

「あ、それは……」
「愛がない婚約との噂ですが、愛がないとしても酷い仕打ちです。それに、アルベルト王子はご令嬢を選り好みしている女好きとの噂が……コホン、失礼。とにかく、王子との婚約は破棄し、僕との結婚を考えてください。幸せにします」
「たしかに……愛は、ないです……婚約破棄もする……予定です」

 寂しげな色が見え隠れしているクラリスの瞳はバードから視線をゆっくり外す。

 ……わかっていた事とはいえ、はっきりクラリスの口から聞くと落ち込むな……あと、できれば女好きの噂は否定して欲しいんだけど……

「でしたら……」
「あの……以前にもお伝えしましたが、私、気になる方がおりまして……その……あの……その方の幸せを見届けてから、私も結婚を考えようと思ってます」

 胸に刺さっていた小さなトゲが奥までズズズッと食い込んでくるような痛みを感じる……胸が締めつけられ、棘はどんどん奥へ進んでいく。もうこの棘は抜けないのか……

「そう……ですか……その好きな方の幸せを見届けた後は僕の事も考えてくれますか?」
「まぁ……まだまだ先ですわ。その頃にはバード様の隣には素敵なご令嬢がいますわ」
「待っているのは、自由でしょう?」

 バードのウィンクがきれいに決まると、クラリスはクスッと笑い、柔らかな微笑みを見せた。

「私、もう少し夜風に当たっていますわ。バード様はどうぞパーティーをお楽しみくださいね」

 バードは迷いながらも「風邪を引かないように」とひと言残し、パーティールームへ戻っていく。

 1人中庭に残ったクラリスはふぅと小さくため息をつき、憂いの帯びた表情で月を見上げていた。

 会話の内容からいって、クラリスの好きな男はバードではない……が、他の男に口説かれているクラリスがいつも俺の前で笑っているクラリスとは別人みたいに見え、息苦しさを感じる。

 苦しみと切なさで立っていられなくなり、顔を手でおおい、ズルズルとその場にしゃがみ込んだ。


 今、俺は求婚の答え合わせをしてしまった……

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