鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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クラリスが17歳になりました

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 話を聞くと、娘の17歳の誕生日、結婚できる年齢になったということで、公爵は朝からナーバスになっていたらしい……しかも、社交界デビューのパーティーでは白のドレスを着るのが決まりで、今夜、社交界デビューするクラリスは白に包まれており……感極まって泣きじゃくっていたとのこと……

 アルフォント公爵がこんなに泣くなんて思わなかったな。いつも優しげで、何でもスマートにこなす人なのに……クラリスも泣き始めたら止まらないのは公爵に似たのか?

 ちなみにミカエルの壁にむかって文句を言っていた内容を総合すると、どさくさに紛れ、告白をしようとしたが、俺達が扉を開けたことにより邪魔をしたらしく、行き場のない思いを壁にむかって吐き出していたというところだろう。ふぅ、あぶねー

 そんなこんなで、やっと落ち着き、改めて今日の主役であるクラリスを見ると、大人っぽく結われた髪を花で飾り、薄化粧にピンク色の唇、斜め下を見つめている目も色っぽく……爪の1本1本までこだわってあって……とにかくとにかく、きれいだった……

 ジェスターが照れながらクラリスを褒めちぎっている間も、俺はただただ見惚れているだけで気の利いた言葉1つ言えず、クラリスに声をかけられ、ハッと我に返る無粋さで……本当に情けない。

「アルベルト様、本日は来ていただきありがとうございました」

 こぼれんばかりのキラキラ笑顔のクラリスが眩しすぎて、直視できない俺は目線を外した。

「ああ、誕生日おめでとう。その、あの……きれいだな」
「へへっ。メイド達が張り切って仕上げてくれまして……そうだ! 今朝はきれいな花束、ありがとうございましたっ」

 クラリスがペコリとお辞儀をして、声を弾ませた。

「アルベルト様、マントつけるのお嫌いなのに正装で来ていただいて嬉しいです」
「まぁ、婚約者だからな」

 公のパーティーに正装で参加するという事は、相手を大切にしている意思表示だ。誰でも彼でも正装すればいいというものではない。特に王族が正装するのは、外交の時と式典、王族の行事……そして、本当に大切な人の為だけなのだが……クラリスはこのメッセージに気がつかないだろうな……

 俺の事をまじまじと見るクラリスに、思わず「なんだよ」と言うと、クラリスはふふっと顔を綻ばせる。

「アルベルト様って、王子様だったんですね」
「は? お前、俺の事をなんだと思ってたんだよ!」
「こうして正装しているお姿が凛々しくて、ああ、王子様なんだなって……一時でも王子様の婚約者でいられること、私、鼻が高いですわ」

 クラリスが更に表情を緩め、かわいい顔で俺の目を覗き込む。

 一時でもなんて言うなよ……俺は一生、お前の隣にいるつもりなんだから……それとも……やっぱり好きな男が……

 自分の思考にズンッと落ち込んでいると「婚約者」という言葉が琴線に触れたのか、涙目のアルフォント公爵が急に俺の両手を取り「王子ぃぃぃ」と呼びながら、号泣する……って、なんだ? なんだぁぁ?

「アルベルト王子ぃぃぃ、クラリスをどうぞよろしくお願いいたしますぅぅ」

 へ? そりゃあ、まぁ……クラリスの事は大事にするけど……へ?

「結婚式じゃないんですよ!」と叫ぶジェスターとミカエル。

「もう! お父様! 花嫁の父になりきりすぎです。ごめんなさい、アルベルト様」

 クラリスは公爵をたしなめながら俺から引っ剥がし、申し訳無さそうな顔をした。俺は「花嫁」という言葉にドキドキしてしまう。

「花嫁!? いや、全然、構わないが……全然……まったく……本当に……」

 クラリスが俺の花嫁……

 満更でもない顔をしていたであろう俺を見て、ジェスターとミカエルはジトッと不満気な目つきをして、不貞腐ふてくされた口調で声を上げる。

「ダメ、絶対」

 クラリスも自分の父親がこんなにも涙もろいとは思わなかったようで、眉毛を下げ「どうしましょう……」とひとり言の後、俺に顔を寄せ、コソッと話す。

「すみません……お父様が……今でこれなら、婚約破棄しますなんて言ったら大号泣しちゃうかも……」

 うん……それ、俺が大号泣するから言うのやめてね?
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