鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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隣国王子がやってきました

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 セドニー王子、見送りの場


 玉座に座る父上の横に並び立ち、セドニー王子を待っていると隣に立っていた兄上が「アル、クラリス嬢の事、良かったな」と小声で言った。
 俺は兄上をチラリと見て「ええ、兄上」と返事をする。

 兄上もセドニー王子の来訪理由を察していたのだろう。
 セドニー王子からもアルフォント家からも打診がないという事は、クラリスを妃にというインパルドの思惑は阻止したわけで……兄上も気にかけてくれていたんだな……

 扉が開いた音がし、王子が側近と守護騎士とともに入室した姿を目が捉え、俺はセドニー王子を真っ直ぐ見据えた。

 王子は父上、兄上に帰国の挨拶後、俺の前に立ち、相好を崩す。

「もう体調はよろしいのですか?」
「はい、ご心配をおかけ致しました」

 俺も負けじと王子スマイルで返答をし、セドニー王子の碧い瞳を見続ける。王子は笑顔のまま、コソッと俺に話しかけた。

「昨日の件は誰にも言いませんよ」
「そうですか……申し訳ないが、私は謝罪もお礼も言いません」

 俺は掟を破ったかもしれない。でも婚約者が目の前で他の男に口説かれているのに、黙っているなんて男じゃないだろ。

「そんなもの求めてませんから大丈夫です。クラリスは良い子ですね。良い女性と出会えて、有意義な1週間でした。今度は本気で求婚をしにきます」

 え? 来るなよ。来なくていいよ。しつこいな。

 俺は王子スマイルを維持したまま「もう来るな」と視線に強い意思を込めるが、すっとぼけた様子でセドニー王子は語りだす。

「あ、そうそう……昨日、クラリスがデートの時に言ってましたよ? 気になる男性がいると。自分の恋心に、最近気がついたらしく……しかし、その人との恋は叶わないそうで。心の整理ができないから今は結婚は考えられないとのことでしたので、クラリスに合わせ、ゆっくりとアピールしていくつもりです」

 にこやかに語るセドニー王子の話の内容が驚愕すぎて、王子スマイルは崩れ、瞬きすらも忘れるくらい王子を凝視した。

 なんだ……その話……は……

 俺は必死で言葉を絞り出したが、口から出てきた声はかなりかすれたものだった。

「……その……男……は誰……ですか?」
「僕は教えてあげるほど親切ではありませんので。では、アルベルト王子、また会いましょう。我が国にも来てください。インパルドも良いところですよ」

 俺は頭の中がパニックのまま、セドニー王子を見送り、フラフラと自室に戻った。そして、そのままベッドに倒れ込み、目をつむると、セドニー王子の話が何度もガンガンと頭の中で響き渡る。


 クラリスに……好きな男が…………いる?
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