鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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お出掛けすることになりました

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 2人が言い争う事で、結果、俺が傷つくという状況に気がつき、仲裁に入ろうと試みたが……

「あの……」
「王子は黙りなさい!」
「アルベルト様は黙っていて下さい!」
「…………ハイ」

 ヒートアップした2人にクワッと怒られ……俺、この国の王子……なぜ、怒られたのか……?

「あのアホ王子はいつ理性が吹っ飛ぶかわかりませんよ」
「アルベルト様は紳士です。そんな事にはなりません」

 何度も言うが、俺、この国の王子。今、アホ呼ばわりされた気が……しかも、クラリス、否定せず流したな……

「雪兄……ザラ様、過保護ですわ。私、今度の誕生日で17歳ですよ。17歳は社交界デビューの歳ですし、結婚できる年齢になりますわっ」
「結婚なんてまだまだですよ」
「むぅ……」

 クラリスはぷぅと頬を膨らませ、プイッと横を向く。その姿がまるで甘えている子供みたいで……俺達には決して見せたことがないクラリスの新たな一面を目の当たりにし、俺は驚くのと同時にザラに対する嫉妬心が更に強くなる。ザラはそんなクラリスがかわいくて仕方ないという様子だ。
 それに、ちょいちょいクラリスの口から出てくる「ユキニイ」ってなんのことだ?
 
「まぁ、結婚なんてものは、またゆっくり考えたら良いでしょう。とりあえず婚約破棄することが先決ですよ」
「そう、ですね……」

 いつもの顔に戻り「ふむ」と頷く、クラリス。

 あれ? 急に話が婚約破棄に移行したぞ!?

「ちょうど、仕事も一段落したところです。お茶を淹れてあげますよ」

 ザラはクラリスに優しく微笑み……あのザラが微笑むのはクラリスにだけだがっ! クラリスの頭をポンポンと軽く叩く。さっきまで子供のようにムーとしていたクラリスの顔はぱぁと華やぎ、ザラを見上げた。

 おいおい、喧嘩、終わったのか?

「いいのですか? ザラ様の淹れてくださるお茶は美味しいですから。アルベルト様もご一緒に……」
「ああ、王子、ナクサス卿が探してましたよ? 早く自室に戻ったほうがよろしいのでは?」
「はぁ……」
 
 なんだこの状況……俺の事で喧嘩が始まり、俺は怒られ、アホ呼ばわりされ、婚約破棄の件で意気投合し、仲良くお茶する2人……っていうか、さっきまで「男を信じるな」と言っていたのに、ザラはクラリスと2人でお茶するのか?

 あまりにも早い事の成り行きに頭の中は疑問符でいっぱいだが、確実なのは婚約破棄で仲直りしたという事実だ……解せぬ。

「アルベルト様、今日はお付き合いいただき、ありがとうございました」

 クラリスは微笑み、俺にお辞儀をする。俺は次に繋げたくて、今度のデートの約束を取りつけるべく、返事をした。

「あ、ああ。また、デートしよ……」
「クラリス、行きますよ」
「はい、ザラ様。では、アルベルト様、また学園で……」

 俺の言葉は見事に吹き消されてしまい、クラリスとザラが仲良さそうに執務室に入っていくのをただ呆然と眺め、俺は1人立ち尽くす……ザラは執務室に入る間際、こちらをチラリと見るとクラリスに気づかれないよう、さっきから宙に浮かべていた氷柱を投げつけ、俺の喉元をかすめ……おいっ、本気で亡き者にする気かっ。

 
 こうして俺とクラリスの初デートは無事に終わった……無事……って言えるのかは、甚だ疑問だが。
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