鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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お出掛けすることになりました

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 クララスが一瞬ショックを受けたように見えたが、すぐにいつもの微笑みに戻り、興味深そうに質問をする。
 
「いつも抱き合っているのですか?」
 
 ぶっ……なんだ、その質問。そんなことあるわけ……

「んなわけ……」
「はいっ」
「おまっ……」

 クラリスに変な事言うなよぉぉぉ。

「まぁ、仲がよろしいのですね」
「ま、まて、クラリス。勘違いするなよ?」
「クラリス様ぁ、兄様と婚約破棄した後は私にお任せくださいっ」
「マーガレット、なんでその事……」
「ジェスター様に聞きましたわっ」

 ジェスター……余計な事を……

「あ、お父様が呼んでますぅ。では、アルベルト兄様、クラリス様、御機嫌よう」

 マーガレットは1人で勝手に喋り、俺達が返事をする間もなくサッサと行ってしまう。嵐のような娘だな……さすがのクラリスも呆気に取られたのか、マーガレットが去った方向を眺め続けていた。

「いつも、お元気ですよね……」
「だな……」
「アルベルト様が大好きなんですね」

 目を細めてふふっと笑うクラリス。

 おっと……こうしちゃいられない。誤解は早く解かねばならぬ。

「俺はマーガレットとはなんでもないし、抱き合ってなんかいない。お前が思っているような好きな令嬢もいない」
「そうなんですか?」
「いや、いるが……」

 クラリスは振りむき、俺の顔を見てクスクス笑い始めた。クラリスの様子がおかしく感じたのは気のせいだったのか、いつもと変わらない笑顔だった。

「……矛盾してますよ?」
「いや、だから! 俺はお前が」

 もうここで気持ちを伝えるしかないと覚悟を決め、再度、クラリスの腕を掴み軽く引き寄せた。クラリスはそのまま俺の胸にトスンと顔をうずめる形になり、俺はそっと抱きしめ……

 ヒュン

 得体の知れぬ物体が凄いスピードで俺の顔スレスレを飛んでいき、風を切る音だけが俺の耳に残る。
 
 ヒュン?
 
 物体の正体を確認する為、飛んでいった方向に目をやると、鋭利に尖った氷柱つららが壁に刺さっている。
 
 はっ? 氷柱? この時期に氷柱? 王宮内に氷柱? 壁に突き刺さる程、鋭利で固い氷柱? 

 嫌な予感が押し寄せてくる。
 ゆっくり氷柱が飛んできた方向に視線を動かすと、予感は見事的中……無表情のザラが大きめの氷柱を魔法で手のひらから出し、空中でクルクル回していた。

「ああ、外しましたか」

 辺り一面を凍らせてしまいそうな冷たい声色のザラの言葉を聞いてゾッとする。

 俺を殺す気かぁ!?
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