鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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あの日、恋に落ちました

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 恥ずかしい……ホント、恥ずかしい。
 王子がだよ(王子って気づいてないけど)、女性の前で泣くって、ありえないぞっっ!

 恥ずかしくて、目にゴミが入って……とごまかすと「ああ、痛いですよねー」クラリスはウンウンと頷いた。

 えっ? 信じたのか? 単純?
 そういえば、さっきも「ひゃー」とか言わなかった?
 
 怒ったり、笑ったり、びっくりしたり、忙しいやつだ。楽しい令嬢である。
 ハンカチを借りて涙を拭うと、フワッと幸せな香りがした。

「ゴミ、取れましたか?」

 顔を覗かせるクラリス。

 だから、近いって!! 仮にも公爵令嬢だろっ!

「ああ、ありがとう。ハンカチはきれいにして返すよ」
「そんなお気遣いなく。そのまま返してくださいませ」

 いやいやダメだ。ハンカチを返すという口実で会いに行けないじゃないか!

「いや、きれいにして後日返すよ。俺の気がすまない」
「そうですか? では、お願いします」

 クラリスがニコッと微笑む。

 屈託ない優しい笑顔、なんてかわいいんだ。

 かわいい……と思えば思うほど、さっきの言葉が気になってくる。俺は意を決して口にした。

「先ほど、王子に興味がないと言っていたのは、婚約者がいるからとか?」

 同じくらいの年齢で公爵家の令嬢とあれば、王子との結婚を考えてもおかしくないはず……なのに、王子との婚約に興味がないとは。もしかして、他に婚約しているとか? 公爵令嬢ならこの年齢でも婚約は十分ありえるからな。

「いえ? そんな方はおりません。アル様はおモテになりそうですね」

 心の底からの安堵の吐息が漏れる。

 そっか……婚約者はいないのか。そっかぁぁぁ。

「いや、俺もいないよ。まぁ、急がなくても……と思って」
「確かに、今、一生の相手を決めるには早すぎですよね」

 クスリと笑うクラリス。俺もつられて笑う。
 
 俺は、今、一生の相手を心に決めた。
 
 数時間前まで、恋だの結婚などわからないと言っていたのが嘘のようだ。
 しばらくしたら、婚約を申し込もう。魔法の発現だけが気がかりだが、それだって絶対条件ではない。
 王子だから仕方がないと諦めない。俺の人生なのだから。

 
 そう君が教えてくれた。
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