鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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あの日、恋に落ちました

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 沈黙…………

 この沈黙の中、俺はやっちゃったかも……とあせる。仮にも貴族の令嬢だ。芝生の上に座るわけない。しかも、王子が誘うなんてもってのほかだ。

 俺は王子スマイルを保ちながら沈黙に耐え、彼女はきょとんとしたあと、少し考えていた。

 あー早く断ってくれぇ、王子スマイル……限界……

 だんだん引きつり気味になってきた俺に、彼女はにこやかな笑顔で弾んだ声を出す。
 
「よろしいのですか?」
 
 えっ!? 

 予想外の言葉に耳を疑っていると、スタスタと隣に来て芝生の上に躊躇なく座り、ニコッと嬉しそうに俺に笑いかけた。その笑顔に俺は不覚にも赤面してしまう。

「本当に気持ちいいですねぇ」
「えっと…………お名前は?」

 俺は赤い顔を隠すように、手で口元を押さえながら、モゴモゴと名前を尋ねる。

「クラリス・アルフォントと申します」

 アルフォント家の令嬢か? 公爵令嬢じゃないか!? 公爵令嬢がなんでこんなところにいるんだよ? たしか……魔力量が膨大だという噂の令嬢……このがそうなのか……

「どうしてここに?」
「ああ……空がきれいだったから」
「空が……きれいだったから?」
「はい!」

 空がきれいだったから。
 
 その言葉に親近感をもち、俺の心が踊る。
 
 でも……公爵令嬢が?
 王子である俺も同じ理由でここにいるわけで(しかも俺は招待側だ)、人の事は言えない。言えないけど……やっぱり思う、公爵令嬢が?

 俺が黙っているのを言葉足らずだったと思ってか、クラリスは話を続けた。

「お茶会に招待されたのですけど、あまりにも空が青くて、室内にいるなんてもったいないなって、フラッと外に出ちゃったんです。お庭を散策してたら、こちらにたどり着きまして……見事な中庭に見とれてて、注意を怠ってしまい……足につまずいてしまったのですわ。ごめんなさい」

 最後は思い出したのか、申し訳無さそうな顔をして謝る。

「いや、寝ていた俺が悪い。すまなかった」

 あっ、思わず素が出ちまった。
 この令嬢と話しているとなんだか調子が狂う。もういいや。彼女に王子スマイルは必要なさそうだし。

「あの……お名前伺ってもよろしいですか?」

 クラリスがおずおずと俺に聞く……って……えっ? 俺が王子って気づいてない? 
 今日のお茶会で俺を見てないのか? そんなはずは……主催者側の王子だぞ?

 うそだろ……
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