鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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ご令嬢がやってきました

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 ナクサスは俺をおとしめる作戦は埒が明かないと、別の角度から、説得にかかる。

 まず最初に俺を貶めるって、酷すぎじゃね?

「マリー様、失礼ですが、クラリス様は身分も魔道士ランクも上のご令嬢。申し訳ございませんが、ここは諦めていただけませんか?」

 格上の令嬢ならば仕方ないと諦めてもらう作戦か……ちょっと酷な言い方だけど、しょうがないな……かわいそうではあるが、これで諦め……

「身分と魔導士ランクが高いというだけで、気の利いたセリフ1つ言えない、口も悪い、言葉も足りない王子様とご婚約なんて、クラリス様が可哀想ですぅぅぅぅぅ」

 えええ……
 誰の味方? 誰目線?
 わけわからん……どうすりゃいいんだ?

 でも、すごいな。
 ナクサスの言葉、めちゃくちゃ正確に再現したじゃん。

 俺は思わず、マリー嬢の記憶力の良さに感心してしまう……って俺の悪口だけどな!

 いやいや、いかん。すっかり、マリー嬢のペースじゃないか……


 それから数時間、泣きじゃくるマリー嬢相手に、俺とナクサス、2人がかりでなだめ、説得し、マリー嬢はようやく帰っていった。

 来客の間に入室した時は明るかった空が、今はもう真っ暗だ。
 俺もナクサスもヘトヘトである。

 私室に戻り、俺はベッドに倒れ込む。
 さすがのナクサスも疲労困憊ひろうこんぱいなのか、ベッドに倒れ込んだ俺に嫌味をいう余力も残ってないみたいだ。

 そして、俺は枕に顔を埋め、ゆっくりと目をつむり、さっきのマリー嬢とのやり取りを思い出す。
 
「私の婚約はまだ発表されていないのに、なぜ、ご存知だったのですか?」

 俺はこのタイミングで乗り込んで来たマリー嬢に最初から違和感があり、帰り際に質問した。

「ええっと……なんでだったかしら? ああ……そうですわ。アルフォント家のミカエル様から早馬が来まして、今なら、クラリス様との婚約が公になっていないから、間に合うと……クラリス様は王子妃に興味がないので、ぜひ、私にアルベルト王子様の婚約者に……と」

 裏で糸を引いたのは、クラリスの義弟おとうと、ミカエルだったか……あいつめ……
 昨日の今日だぞ? 婚約を邪魔する一手いってがはえーよ!!
 しかも、俺の婚約者の立場を勝手に譲るなっ。


 次の日から王宮には『アルベルト王子は恋人を見捨てて、身分と魔力と財産に目がくらみ、クラリス嬢と婚約した』と尾ひれがつきまくりの不名誉すぎる噂が立った。
 父上、兄上にも呼び出され、使用人達も含みのある目で俺を見る。

 俺のイメージはガタ落ちだ……

 
 1週間後……


「マリー様がミドナイト伯爵のご令息とご婚約したそうです」

 ナクサスは、1週間前のあの騒動を思い出したのか疲れた顔をして、俺に報告した。

 はぁぁぁぁ!?

 いや、めでたい事だし、諦めてくれて良かったけど、切り替え早すぎじゃね?
 あの騒動は、一体全体なんだったんだ?
 俺の信用が地に落ちた。という結果しか残らなかったじゃないか!

「まぁ……人の噂も七十五日、と言いますしねぇ」

 ナクサスが珍しく俺に慰めの言葉をかけた。
 
 人の噂も七十五日。

 耐えろ、俺。
 これもクラリスと婚約を貫くためだ。
 
 あと68日…………はぁぁ。
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