鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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ご令嬢がやってきました

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 俺は着替えをすませ、部屋を出るとナクサスが待っていた。

「マリー嬢が待ってる部屋に案内してくれ」
「かしこまりました」

 俺は来客の間にむかいながら、ナクサスに話しかける。

「なぁ、マリー嬢は何用で来たんだ?」
「さぁ、私からは何も……」

 と一見控えめな素振りを見せるが、ナクサスの口の端が上がっているのを俺は見逃さなかった。
 
 お前、知ってるだろ?
 なんか面白がっているだろ?
 何なんだよ、一体。
 嫌な予感しかしないんだが。

「こちらの部屋です」
「おい、マリー嬢の用件、お前知っているんじゃないか?」

 俺は部屋の扉を開ける前にナクサスの方を向き直り、再度聞いてみる。

「さぁ……」

 ナクサスのすっとぼけた顔が憎たらしい。
 ナクサスは俺のこと1番に考えてくれているのは事実だが、だからといって、俺を甘やかすことはしない。自分でなんとかしろ。ということだ。

 あの様子をみても、厄介事なんだろうな。
 へいへい。
 自分でなんとかしますよ。

 俺は諦めて、扉をノックする。

「失礼、マリー・クラレンド嬢ですね」

 部屋に入ると、金髪のとても美しい令嬢がすくっと立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。
 
 ああ、見覚えがある。
 パーティーとかで、よく話しかけられていた気がする。
 
 俺は、ナクサスに『ほらほら、ちゃんと思い出したぞ』と得意気な顔を見せると『はよ、話をしろ』と言わんばかりの呆れ顔を見せる。

 たしかに……
 
 咳払いを1回して、俺は外面用の王子様スマイルをむけ、少し高い位置に設置された王族用の椅子に座り、話しかける。

「ああ、座って下さい。今後、来訪の際は連絡を下さい。で、なにか、私に急ぎの用事でも?」

 マリー嬢は顔を上げ、緊張した面持ちで話す。

「婚約の件で伺いました」
    
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