鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

桜乃

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婚約者の優しさがずれてました

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「魔力量が多い。という理由のみで私と婚約をしなくてはならなかった、アルベルト様が不憫です」
「不憫……」

 不憫?
 あれれ……?
 流れがおかしな方向になってきたぞ。

「アルベルト様だって、綺麗でおしとやかなご令嬢がよろしいですよね?」
「あ……いや、別に……」
「現国王様は情に深いお方と伺っております」
「あ、ああ……」
「国王様はアルベルト様のお気持ちをわかってくださる方」
「う、うん、だからさ……」
「今や、恋愛結婚されてる方も多いです! 王子様だからといって、仕方なく婚約する必要はありませんわ!」
「えっ……仕方なく……」
「そんな、仕方ないなんて諦めないでください。なんでしたら、私が今から婚約内定取消を懇願……」
「ま、待てぇ!」

 今すぐにでも、父上に謁見を求める勢いのクラリスを慌てて止める。
 
 なんだなんだ?
 どうして、こうなった!?

「ま、待ってくれ」

 俺は頭を抱えた。
 クラリスは俺が父上の命令に逆らえず、婚約を受け入れたと思っている……ってことか?

「とりあえず……とりあえず、クラリス、落ち着こうか」
「あら? 私は落ち着いておりますけど?」

 いやいや、落ち着いてないだろ! 少し、俺にも考える時間をくれ。

「アルベルト様! 善は急げ。ですわっ!」 

 じっとしていられないのか、クラリスはガッツポーズをし、すぐに王宮に行く準備を始めた。

 俺に時間もくれないのかぁぁぁぁ!

「まて! 今日は父上は忙しい」
「……まぁ、そうですね。さすがに今日の謁見は難しいですよね。私が早急すぎました」
「そ、そうだぞ。急ぎすぎだ」

 俺はクラリスの暴走を止め、どうどうと馬を落ち着かせる為の掛け声を心の中で唱える。

 お願いだ。
 これで一旦、落ち着いてくれ。
  
「大変、失礼いたしました。では、明日……」
「……へっ!? いや、明日も、明後日も、明々後日も、そのまた次の日も……とにかく、しばらく忙しい!」
「そうですか……そうだわっ! では、本日、国王様にお会いできずとも、側近の方にお伝えすれば……」

 ナイスアイデアが浮かびました! と喜び勇んで俺の手をギュッと握り、ブルーの瞳をキラキラさせるクラリス。

 お前、昨日、落馬して意識を失っていたんだろ!? 
 なんで、そんなに元気なんだよっっ!

「まて。まて、クラリス。えっと……今回の婚約は、その……あの……お、王命だから、昨日の今日でやめます。は、父上の顔を潰す……というか、なんていうか……」

 俺はこの状況……今にもクラリスが内定取消懇願に王宮に行きそうな状況……というか、もう行く気満々な状況をなんとかする為、手っ取り早く王命だからで押し通すことにした……あとで考えたら、これもまずかった。

「王命……それもそうですわね」

 クラリスは言葉を噛みしめるように、ゆっくりとつぶやいた。

 ふぅ……やっと、動きが止まった。
 なんだ、この疲労感は……

 クラリスは椅子に座り、手元の紅茶をコクリと飲み、ポツリと声を出す。

「たしかに、国王様のお顔を潰すわけにはいきませんわ」

 落ち着いたか?
 良かったぁぁぁ……

 クラリスが婚約を受け入れてくれた事にホッとし、確認する。

「だろ? だから、婚約破棄は……」
「アルベルト様を解放して差し上げたかったのですけど、仕方ありません」
「そ、そうなんだよ、仕方ないんだよ」

 えっ? まだ、話が続くのか?
 俺を解放? そ、そんな大事おおごとじゃあ……
 いや、もう、この話は終わりにしようよ、クラリス。
 
 俺の願いもむなしく、話は続いた。

「今すぐでなければ、良いわけですよね?」
「えっ?」
「では、時がきましたら……」

 クラリスは再び俺の両手をしっかり握り、にっこりと最高にかわいい笑顔を見せた。


「婚約をぶっ壊しましょう!」
「……お、おう」

 
 クラリスの笑顔と勢いに負け、俺は返事をしてしまった……
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