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終了
月子さん
しおりを挟む「その……応援してくれるのは嬉しいけど……マネージャーとして応援してくれれば良くない?」
「それじゃあ違うんですよぉ」
そう、マネージャーはあくまでお仕事。
私がしたいのは、推しごとなのだっ。
きぃくんは不機嫌そうにムスッとしていたけれど、ふと何かひらめいたのか、急にアイドルスマイル、キラッキラの笑顔で私の手を取った。
うぎゃぁ、何をなさるの!?
「月子さん、推し活ってさ。推しているアイドルの幸せを願うものでしょう?」
キュルリンと子犬のようなかわいい顔で見つめてくる。
ま、眩しくて直視できないよぉ。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいぃぃ。
意味もなく、心の中で謝罪を繰り返す私。
「だからさ、僕の幸せは月子さんにマネージャーについてもらう事なんだよね。これも、推し活だよね?」
「ち、ち、ち……」
必死に否定しようと頑張るも、言葉が出てこず、なんとか絞り出した声は「ち」だけで……ダメだ……何かが崩壊していくぅ。
きぃくんは最高の微笑みで首を傾げ、私の手をキュッと握り、甘えた声を出した。
「ね?」
ぐふぉぉ、この笑顔の破壊力っ。
この笑顔に勝てる人はいるのか? いるのか? いや、いない!
くっ……苦しい……推しがあまりにも神々しすぎる。でも、私は推しごと、辞めたくない!
「ひ、卑怯、卑怯ですよ! そのパーフェクトスマイルにスイートボイス!!! 私を殺す気ですか!?」
「いや、殺す気はないけど……」
「私、尊死しますよ!!」
きぃくんは私の言葉にポカンとするも、次の瞬間、お腹を抱えて笑い出した。
「尊死って! 尊死ってぇ! ちょっと月子さん、面白すぎ!!」
私はぷぅと頬を膨らませ、プイッと横を向く。
だいたい、推しを目の前にして「貴方のせいで死にます!」と宣言するファンがどこにいる!? しかも、めっちゃ本人に笑われてるんですけど!!
「私にとっては死活問題です!」
「死亡届の死亡理由欄に『尊死』は役所の人、さすがに笑うよ?」
ゔぅぅ……たしかに。死んだ後だからといって、笑われるのはちょっと嫌。
「だからさー、僕は月子さんを尊死させるつもりはないよ? 僕はただただ、わがまま言ってるだけ」
にっこり笑うきぃくんに、私は卒倒しそうになる。
なんだ、その甘えっ子キャラはっ!? お姉さんはそんな風に育てた覚え…………ある……覚えがあるよぉぉ。
『年上の大人の女性には、ちょっと甘える感じだといいかもですね』
私は自分が言った言葉を思い出し、頭を抱えた。
因果応報。自業自得。
そんな四字熟語を頭に浮かべ、私の戦略は間違ってなかったという事をこの身をもって証明した事に嬉しいやら、悲しいやら……何やってるの……私。
それでも負けじと私はきぃくんに反論をする。
「そ、そんなわがまま……聞けません!!」
「どうして?」
漆黒の瞳が寂しそうに光り、眉尻を下げ、悲しみいっぱいの顔をしたきぃくんに、私は耐え切る事ができず、推し活終了の鐘がなる。
五十嵐月子、35歳。本日、白旗を上げました。
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