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番外編 バストリー・アルマンの事情
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しおりを挟む「ご冗談を……恋の駆け引きは殿下と2人で楽しんでください」
「わたくしは本気ですわ」
テレーゼ嬢はサファイアの瞳を光らせ、薄い唇の口角を上げた。
「本気……と言われましても」
困惑している僕を無視し、淡々とテレーゼ嬢の話が続く。
「残念な事にわたくしからは破棄はできませんの。殿下が破棄すると言わない限り、この婚姻は学園卒業と同時に結ばれてしまいますわ。時間がありません」
慣習通りならば、学園卒業した年に殿下とテレーゼ嬢の結婚の儀が行われるだろう。
この婚約は国王が熱望したにもかかわらず、ハイウォール家からは破棄できない条件だと聞いている。
まぁ、王家との婚姻を一貴族が断れるわけがないのだから、驚くほどの悪条件ではないとは思うが。
「だとしても、僕には何もできませんよ。それに、僕は殿下の側近です。殿下の意向に反する事は協力できません」
僕はにこやかな微笑みで、はっきり断りの言葉を伝えた。
テレーゼ嬢の気持ちはどうあれ、家同士で話し合って欲しい。僕には関係ない事だ。
「……優秀なアルマン家は主君を選ぶ権利がありますわ。いいえ、選ぶべきです」
穏やかな笑みを湛えながらも、凛とした声を発したテレーゼ嬢。その瞳は僕を試すような輝きを放ち、一瞬、本心を覗かれた感覚に陥った。
ドクンと僕の心臓が大きく跳ねる。
僕は慌てて首を振り、呼吸を整えた。
主君を選ぶ権利?
なぜ、殿下との婚約破棄が主君を選ぶ話になるんだ? それではまるで僕にハイウォール家につけと聞こえる。
アルマン家は宰相として代々王家に仕えている。
王家以上の主君なんてない。
「我が家門は王に仕える身。主君を選ぶなんて……」
「バストリー様、ロイ王子殿下にこれからもお仕えするのですか? 本当に? これから先も? ずっと? あの方に?」
テレーゼ嬢はいたずらっ子のような表情をし、僕に反論する余地を与えない勢いで矢継ぎ早にたたみ掛けてくる。
僕の心の奥底にある抑え込んでいた感情がドロリと漏れ出した。
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