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番外編 バストリー・アルマンの事情
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しおりを挟む「バストリー様」
1年前、ほとんどの学生が帰宅してしまった夕刻の学園で、僕を呼び止めた女性がいた。
クラス委員の仕事で遅くなり、早く帰ろうと足早に歩いていた僕は一瞬怪訝な顔をしてしまう。
そこに立っていたのは、ハイウォール公爵家唯一のご令嬢であり、ロイ王子の婚約者のテレーゼ嬢。
「どうされました? テレーゼ嬢」
僕はすぐにニコリと笑みを作って、彼女を見た。
亜麻色の髪を1つに束ね、口をへの字に曲げているいつもと変わらない無表情。相変わらず感情が読めない。
ロイ王子と行動を共にしている事が多い僕はテレーゼ嬢とも顔見知りではあった。が、挨拶程度しか言葉を交わしたことがなく、個人的に声を掛けられたのは初めてのことである。
「少しお話がありますの。お時間いただけますか?」
今までお互い無関心だったのに何の話があるというのか……テレーゼ嬢の不可解な行動に僕は警戒しながら聞き返した。
「話……ですか? 僕に?」
「ええ…………バストリー・アルマン様に。…………です」
テレーゼ嬢の含みある物言いに内密の話であることが伺える。
「では……殿下を交えて」
相手の出方を観察する為、わざと殿下の名を出してみると、ふいにテレーゼ嬢は頬を柔らかく緩ませ、ふわりと微笑みを浮かべた。
「あら……それは困りますわ」
初めて見るテレーゼ嬢の笑顔に僕は息を呑む。
……あ……れ? こんなに可愛らしい人だったか?
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