悪魔が囁く三日月の夜

桜乃

文字の大きさ
上 下
2 / 10

2

しおりを挟む
 窓もない石に囲まれた空間に1本の松明の炎だけがゆらゆら揺れていた。
 
 看守達の話し声が、石の壁に囲まれた地下に響いている。

「今夜は徹夜当番かぁ」
「まぁ、今日で終わりだ。ここの看守もさ」
「この牢獄は最も罪が重い罪人が入れられる所だからな。暗いし寒いし、気分が滅入る」
「だいたい、この女は何をしたんだ? 放り込まれ、裁判もなしに処刑なんて」
「俺も小耳に挟んだ程度だけどな、お貴族様を毒殺したらしい」
「へぇぇ、毒殺ねぇ。そりゃ、また大胆な。即、死刑なのも仕方ない」

 硬いベッドにうつ伏せで倒れ込んでいた女はピクリと身体を動かす。もう生きる気力も体力も残っていないはずの彼女だったが自分の着ているボロボロの囚人服を握りしめる。

 ――私はやってない――

「お、飯がきたぞ」

 看守が鉄格子の小窓から食事を牢獄内に差し入れたが、女は目をチラリと動かしただけだった。

「最後の晩餐だからな、少し豪華な飯だぞ」

 看守は返事はないとわかってはいたが、牢獄の女に声をかける。処刑される前夜に楽しくお喋りする奴なんてほぼいない。嫌というほどそういう奴を見てきた看守は、この女も話す力も残ってないのだろうと少しだけ憐れみの目を向ける。
 看守はそれ以上は話しかけず、黙って食事を置いた。

 夜も更け、睡魔と戦いながらも、必死に目を開け、牢獄の番をしていた看守達だったが、喋るのも疲れるのか沈黙が続く。重い空気が漂い、天井の石と石の隙間から雨のしずくが規則的にぴちゃん、ぴちゃんと落ちる音だけが際立って聞こえていた。

 ――このまま、死ねたらいいのに――

 女はそっと目をつむる。

 ――このまま眠るように死なせてほしい――

 …………ズルズルズル

 何かが引きずられている様な音が牢獄の中に響いた。

 …………ズルズルズル

 女はどうでもいいと思いながらも、ゆっくりゆっくり、まぶたを開く。

 目に映った光景は、先程まで立っていた看守達がズルズルしゃがみ込み、そのままパタンと倒れた姿とそばに立ってニヤリと笑う黒ずくめの男。


「マリア・ハリエット……貴女の望みを叶えますか?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♪イキイキさん ~インフィニットコメディー! ミラクルワールド!~ 〈初日 巳よっつの刻(10時30分頃)〉

神棚 望良(かみだな もちよし)
ファンタジー
「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」 「みんな、みんな~~~!今日(こお~~~~~~んにち~~~~~~わあ~~~~~~!」 「もしくは~~~、もしくは~~~、今晩(こお~~~~~~んばん~~~~~~わあ~~~~~~!」 「吾輩の名前は~~~~~~、モッチ~~~~~~!さすらいの~~~、駆け出しの~~~、一丁前の~~~、ネコさんだよ~~~~~~!」 「これから~~~、吾輩の物語が始まるよ~~~~~~!みんな、みんな~~~、仲良くしてね~~~~~~!」 「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

処理中です...