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窓もない石に囲まれた空間に1本の松明の炎だけがゆらゆら揺れていた。
看守達の話し声が、石の壁に囲まれた地下に響いている。
「今夜は徹夜当番かぁ」
「まぁ、今日で終わりだ。ここの看守もさ」
「この牢獄は最も罪が重い罪人が入れられる所だからな。暗いし寒いし、気分が滅入る」
「だいたい、この女は何をしたんだ? 放り込まれ、裁判もなしに処刑なんて」
「俺も小耳に挟んだ程度だけどな、お貴族様を毒殺したらしい」
「へぇぇ、毒殺ねぇ。そりゃ、また大胆な。即、死刑なのも仕方ない」
硬いベッドにうつ伏せで倒れ込んでいた女はピクリと身体を動かす。もう生きる気力も体力も残っていないはずの彼女だったが自分の着ているボロボロの囚人服を握りしめる。
――私はやってない――
「お、飯がきたぞ」
看守が鉄格子の小窓から食事を牢獄内に差し入れたが、女は目をチラリと動かしただけだった。
「最後の晩餐だからな、少し豪華な飯だぞ」
看守は返事はないとわかってはいたが、牢獄の女に声をかける。処刑される前夜に楽しくお喋りする奴なんてほぼいない。嫌というほどそういう奴を見てきた看守は、この女も話す力も残ってないのだろうと少しだけ憐れみの目を向ける。
看守はそれ以上は話しかけず、黙って食事を置いた。
夜も更け、睡魔と戦いながらも、必死に目を開け、牢獄の番をしていた看守達だったが、喋るのも疲れるのか沈黙が続く。重い空気が漂い、天井の石と石の隙間から雨のしずくが規則的にぴちゃん、ぴちゃんと落ちる音だけが際立って聞こえていた。
――このまま、死ねたらいいのに――
女はそっと目をつむる。
――このまま眠るように死なせてほしい――
…………ズルズルズル
何かが引きずられている様な音が牢獄の中に響いた。
…………ズルズルズル
女はどうでもいいと思いながらも、ゆっくりゆっくり、瞼を開く。
目に映った光景は、先程まで立っていた看守達がズルズルしゃがみ込み、そのままパタンと倒れた姿とそばに立ってニヤリと笑う黒ずくめの男。
「マリア・ハリエット……貴女の望みを叶えますか?」
看守達の話し声が、石の壁に囲まれた地下に響いている。
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看守が鉄格子の小窓から食事を牢獄内に差し入れたが、女は目をチラリと動かしただけだった。
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――このまま眠るように死なせてほしい――
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何かが引きずられている様な音が牢獄の中に響いた。
…………ズルズルズル
女はどうでもいいと思いながらも、ゆっくりゆっくり、瞼を開く。
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