スキル『全職使い』の冒険者

丸々 かずきち

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12話 毒牙の大蛇

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 装備をしまって息を整えたレインたちはやっと自分たちが冒険者に囲まれているのに気付く。どうやらガディランもそのようだ。

「おい、あの二人と一匹……見たことあるか?」誰かが言う。

「無いな。でもめちゃ強いぞ」

 レインは目立つのが嫌いなのかその場を離れようとする。ガディランは逆に目立つのが好きなのか、「どうだ! 俺らは強いだろ!」と大声で言いながら斧を空にかざしていた。

「早く行きましょう!」

 レインはなんとかガディランの背中を引っ張って群衆の外へと連れていく。フェルンとセレーネも申し訳なさそうに出て行った。

 王都を反時計回りに進むレインたちは人も魔物もいない路地でちょっとした休憩を挟む。ガディランは相変わらず荒くれていて休憩もせずに大通りで戦っていた。その間、レインはセレーネとフェルンの容体を確認する。

「セレーネは大丈夫。フェルンは投げられた家を破壊した時に少しだけ打撲したな」

 レインはハンドバッグから包帯を取り出してフェルンの前足に巻こうとするが、セレーネが「待ってください」と言って止める。セレーネは何かをぶつぶつと言うと右手にピンク色の光を纏わせる。

「治癒魔法? 珍しいな」

 レインは目を見開く。セレーネは褒められて恥ずかしそうに笑顔を浮かべていた。

「治癒魔法持ってたら自分でも傷を治せたんじゃないか?」レインは言う。

「えっと……バジリスクとの戦いで魔力を使いすぎて……間抜けですよね」

 レインは決まり悪そうに苦笑する。

「まあそんなこともあるさ。けど治癒魔法は本当に稀な才能だ」

「わたし村から出たことないので分からないんですけど、治癒魔法ってそんなに珍しいのですか?」

 ヒューマンの王と結婚させられるためだけに育てられた彼女はもちろんのことまともな教育を受けられなかった。ましてや村からも出たことがない。それをレインは分かっていたので、彼女の無知さにとやかく言うつもりは一切無かった。

「人体の機能を回復させる、という点で回復魔法と治癒魔法が存在するんだ。回復魔法ってのは誰でも練習すれば使えるような呪文で、君の毒を泣いたのも回復魔法だ。回復魔法は切られた腕を戻すとかはできないんだけど、それをできるのが治癒魔法だ。打撲を治そうとして回復魔法を使えば治るのに30分はかかる。けど治癒魔法なら触れただけで戻るんだ。そんな治癒魔法を持っている人間なんてのは約150万人中1人だけ」

 その話を聞いてセレーネは驚いた表情で自分のピンク色に光る手を見つめる。セレーネはそのままフェルンの前足に触れると、青いあざは消えてフェルンはまた元気よく立ち上がる。

「ワフ!」

 フェルンは尻尾を振りながらセレーネの手をなめる。レインは早速立ち上がって剣を取り出す。

「じゃあ行くぞ」

 レインは路地から大通りに飛び出て辺りを見渡す。ガディランが民家の屋根の上でゴブリンたちを相手に暴れているが、レインは無視した。大通りの向こう側からやってくるゴブリンの群れを見つけたレインは早速そちらの方に足を踏み出す。だが、一歩めを踏み出した時、石レンガでできた大通りが微かに揺れる。

「地震……?」とレインは呟く。

――いや、地震にしてはあまりにも揺れが不規則すぎる。

 レインは、遠方にゴブリンの生首を投げ飛ばすガディランの方を振り向いて「ガディランさん!」と呼びかける。ガディランはレインに気付くと大きく跳んでレインの近くに着地する。

「揺れ、だろ? 上から見りゃ分かるさ。石レンガがピアノみたいに凸凹するからな」

 下手したらサイクロリラなど比にならないほどに巨大な魔物が王都を襲撃している。そんなのは戦闘素人のセレーネですら気付けることだ。フェルンもセレーネを庇うようにして辺りを警戒している。

 数秒経つと揺れは収まる。辺りは王都に広がる炎のパチパチとした音とレインたちの吐息だけが聞こえる。レインが緊張で溜まりに溜まった唾をごくりと飲み込んだその時だった。

 脳を内から切り裂くような金切り声を上げながら地面から巨大な大蛇が飛び出してきた。

「あっ」

 セレーネはその大蛇を見ると何かを思い出すかのように呆然と見つめていた。

「こいつはセレーネを襲ってきたやつか?」

 レインは後ろを振り返ってセレーネに尋ねる。セレーネは首を縦に振った。フェルンも恨みがあるのか眉根を寄せて大蛇――バジリスク――を睨みつけている。

「そりゃあ丁度いいぜ! ここで敵討ちと高級魔物素材の採取ができるってわけだ!」

 毎度のごとくガディランは作戦を立てずにバジリスクに突っ込んでいく。レインはため息を吐いてその背中を追いかける。フェルンも同じように着いてくる。

 ガディランはバジリスクの長い胴体を切ろうとするが、バジリスクは尾を鞭のようにしならせて横に振る。その巨体には見合わない速度でバジリスクの尾はガディランに直撃する。パァン! と音を立ててガディランは民家を破壊しながら吹き飛ぶ。

「ガディランさん!」
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