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1章 〜我ら初心者冒険者〜
14話
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ライアスの街に戻った5人は、疲れを癒すために宿へと向かう。あまり残っていない金貨を支払い、羽美たちは部屋へと向かう。
「って、5人で1部屋なのか?」
大して広くない部屋を、宮野は棒立ちで眺める。
「そうだけど……あんまお金無駄にできないから安めの部屋にしたの」
羽美はすぐさま浴室に向かう。体にこびりつく泥を落としたいのだ。
「あ、勝手に行った」
セリカは怒りきれていない表情で、去り行く羽美の背中を眺める。
「今のうちに布団とか用意しようか」
宮野の提案通り、4人は各々の寝るための準備を始める。普段騒がしい水無月も疲れているせいか一言も言葉を発しなかった。
羽美が体を洗い終え、交代しながら5人は体を洗い終える。久しぶりの、まともな寝床のおかげか、羽美たちはすぐさま眠りに落ちてしまった。
「んっ……うぅ」
翌日、浦星は1番に目覚める。1番窓に近い場所で寝ていたので、太陽の浅い光が顔を照らしていたのだ。
浦星は眼鏡をかけて、隣で眠っている水無月の顔を眺める。
白くて滑らかな肌で、金色の髪の毛は宝石のように輝いている。
-こんなにも綺麗でお姫様みたいなのに、どうして……
浦星は、学校での水無月の数々の行いを思い出す。不純な噂はいくつも立っていて、今のところ水無月はそれを否定していない。
浦星はそれか嫌で嫌でたまらない。溢れ出てくる嫉妬と憎悪。そして好意。歯を噛み締めて、浦星は寝ている水無月の首元に触れる。
「暖かい……」
そっと手を離して、浦星は自分のことに集中した。
-そうだ。魔法をもっと覚えなきゃ。皆んなの役に立つんだ
「快調ぅぅぅぅ!!!」
羽美の雄叫びが、眠っている3人の目覚ましになった。
「うるさい……」
セリカは顔を歪めながら目覚める。宮野は一瞬だけ起きたものの、睡魔に勝てずに二度寝する。
「あ、会長も快調ですか? なんちゃって!」
羽美がしょうもないことを言っていると、起きたてイライラのセリカが、羽美の頭に手刀をかます。
「うるさい。早く朝ご飯食べるわよ」
「朝ご飯ってどこで食べるの?」
頭を押さえている羽美を無視して、水無月が尋ねる。
「この宿にはバイキングがあるらしいわ。3階に行くわよ」
宮野を放っておいて、羽美たちはバイキングに向かう。
冒険者専用の宿だけあって、3階はたくましい冒険者たちで溢れかえっている。羽美たちは近くにあるテーブル席に座って、交代しながら朝食を取りに行く。
最初は水無月とセリカが向かった。席に残っているのは羽美と浦星だ。
「そういや、今日は早起きだったね。ちゃんと回復できた?」
「は、はい」
浦星は相変わらず目を合わせずに話す。
「そっか。浦星って趣味とかあるの?」
「えぇっと……読書とか、あとドラムとかも……ですかね」
「そうだよね! デスメタル好きだし。やっぱ浦星って面白いよねー」
浦星は頬を少しだけ赤らめる。
「そう、ですかね? あはは……」
「うんうん。あとさ、好きな人のタイプとかある?」
そう質問すると、途端に浦星の表情は曇る。
「あ、なんかごめん。答えなくて大丈夫だよ!」
羽美は焦りながらそう言う。
「羽美さん……は?」
浦星は曇った顔のまま聞き返す。
「私? ここだけの話、見た目のタイプならセリカかな。性格もツンデレっぽくて、いじり甲斐のある可愛さだし、これからもっと仲良くなろうかなって」
羽美は「ふふふ」、と悪そうな笑みをしながら言う。なんの躊躇いもなく答えた羽美に、浦星は驚く。
「羽美さんって……」
「うん。同性愛者ってやつ。もしかして浦星苦手だった?」
浦星は顔を激しく横に振る。
「この世界で同性愛がどんな立ち位置かは分からないけどさ、私はセリカにいつか思いを伝えたい」
羽美は楽しそうに話す。そんな羽美を、浦星はただただ羨ましく思った。
しばらくしてセリカと水無月が戻ってきて、羽美と浦星も朝食をよそいに行く。
パン、バター、オニオンスープ、サラダ、そしてフライドチキン8本。羽美は偏ったメニューをテーブルに持ち帰る。
「え、フライドチキン8本?」
セリカは引き気味に羽美の皿を眺める。
「そうそう。1本食べる? 美味しいよ~」
羽美はこんがり焼きあがったフライドチキンを、セリカに差し出す。
「じ、自分で取るわよそんなの」
「いやいや~。ここで食べる方が効率的じゃない?」
セリカはムスッとした顔で「じゃあ、ちょうだい」と呟く。
「はい、あーん」
羽美は満面の(どこか含みのある)笑みで、フライドチキンを食べさせようとする。
「は、恥ずかしいから!」
セリカは無理やりフライドチキンを取り上げ、自分で食べ始めた。
そんな朝食の時間を過ごして、4人は部屋に戻る。その途中で、寝起きの宮野とすれ違ったりもした。
宮野がいない間、4人は布団の片付けや着替えを始める。
「ねえ羽美。帯、後ろで結んでくれるかしら」
セリカはそう言いながら羽美に近寄る。
「べつに、自分でもできるから。他人にやってもらった方が確実ってだけ」
「はいはい」
羽美は喜んで引き受ける。
その後、宮野も帰ってきた。
「いやー。フルーツが最高だった」
宮野は満足そうに語る。
「おーい、待ってまーす」、と急かす水無月。
「すまんすまん」
宮野は苦笑いで謝罪して、鎧を着始める。
ようやく5人全員が準備を終え、羽美たちは宿を出る。ライアスの街はいつも通り賑わっていて、大きな馬車が行ったり来たりしている。
「さ、次こそ街長の家に行こうか」
「って、5人で1部屋なのか?」
大して広くない部屋を、宮野は棒立ちで眺める。
「そうだけど……あんまお金無駄にできないから安めの部屋にしたの」
羽美はすぐさま浴室に向かう。体にこびりつく泥を落としたいのだ。
「あ、勝手に行った」
セリカは怒りきれていない表情で、去り行く羽美の背中を眺める。
「今のうちに布団とか用意しようか」
宮野の提案通り、4人は各々の寝るための準備を始める。普段騒がしい水無月も疲れているせいか一言も言葉を発しなかった。
羽美が体を洗い終え、交代しながら5人は体を洗い終える。久しぶりの、まともな寝床のおかげか、羽美たちはすぐさま眠りに落ちてしまった。
「んっ……うぅ」
翌日、浦星は1番に目覚める。1番窓に近い場所で寝ていたので、太陽の浅い光が顔を照らしていたのだ。
浦星は眼鏡をかけて、隣で眠っている水無月の顔を眺める。
白くて滑らかな肌で、金色の髪の毛は宝石のように輝いている。
-こんなにも綺麗でお姫様みたいなのに、どうして……
浦星は、学校での水無月の数々の行いを思い出す。不純な噂はいくつも立っていて、今のところ水無月はそれを否定していない。
浦星はそれか嫌で嫌でたまらない。溢れ出てくる嫉妬と憎悪。そして好意。歯を噛み締めて、浦星は寝ている水無月の首元に触れる。
「暖かい……」
そっと手を離して、浦星は自分のことに集中した。
-そうだ。魔法をもっと覚えなきゃ。皆んなの役に立つんだ
「快調ぅぅぅぅ!!!」
羽美の雄叫びが、眠っている3人の目覚ましになった。
「うるさい……」
セリカは顔を歪めながら目覚める。宮野は一瞬だけ起きたものの、睡魔に勝てずに二度寝する。
「あ、会長も快調ですか? なんちゃって!」
羽美がしょうもないことを言っていると、起きたてイライラのセリカが、羽美の頭に手刀をかます。
「うるさい。早く朝ご飯食べるわよ」
「朝ご飯ってどこで食べるの?」
頭を押さえている羽美を無視して、水無月が尋ねる。
「この宿にはバイキングがあるらしいわ。3階に行くわよ」
宮野を放っておいて、羽美たちはバイキングに向かう。
冒険者専用の宿だけあって、3階はたくましい冒険者たちで溢れかえっている。羽美たちは近くにあるテーブル席に座って、交代しながら朝食を取りに行く。
最初は水無月とセリカが向かった。席に残っているのは羽美と浦星だ。
「そういや、今日は早起きだったね。ちゃんと回復できた?」
「は、はい」
浦星は相変わらず目を合わせずに話す。
「そっか。浦星って趣味とかあるの?」
「えぇっと……読書とか、あとドラムとかも……ですかね」
「そうだよね! デスメタル好きだし。やっぱ浦星って面白いよねー」
浦星は頬を少しだけ赤らめる。
「そう、ですかね? あはは……」
「うんうん。あとさ、好きな人のタイプとかある?」
そう質問すると、途端に浦星の表情は曇る。
「あ、なんかごめん。答えなくて大丈夫だよ!」
羽美は焦りながらそう言う。
「羽美さん……は?」
浦星は曇った顔のまま聞き返す。
「私? ここだけの話、見た目のタイプならセリカかな。性格もツンデレっぽくて、いじり甲斐のある可愛さだし、これからもっと仲良くなろうかなって」
羽美は「ふふふ」、と悪そうな笑みをしながら言う。なんの躊躇いもなく答えた羽美に、浦星は驚く。
「羽美さんって……」
「うん。同性愛者ってやつ。もしかして浦星苦手だった?」
浦星は顔を激しく横に振る。
「この世界で同性愛がどんな立ち位置かは分からないけどさ、私はセリカにいつか思いを伝えたい」
羽美は楽しそうに話す。そんな羽美を、浦星はただただ羨ましく思った。
しばらくしてセリカと水無月が戻ってきて、羽美と浦星も朝食をよそいに行く。
パン、バター、オニオンスープ、サラダ、そしてフライドチキン8本。羽美は偏ったメニューをテーブルに持ち帰る。
「え、フライドチキン8本?」
セリカは引き気味に羽美の皿を眺める。
「そうそう。1本食べる? 美味しいよ~」
羽美はこんがり焼きあがったフライドチキンを、セリカに差し出す。
「じ、自分で取るわよそんなの」
「いやいや~。ここで食べる方が効率的じゃない?」
セリカはムスッとした顔で「じゃあ、ちょうだい」と呟く。
「はい、あーん」
羽美は満面の(どこか含みのある)笑みで、フライドチキンを食べさせようとする。
「は、恥ずかしいから!」
セリカは無理やりフライドチキンを取り上げ、自分で食べ始めた。
そんな朝食の時間を過ごして、4人は部屋に戻る。その途中で、寝起きの宮野とすれ違ったりもした。
宮野がいない間、4人は布団の片付けや着替えを始める。
「ねえ羽美。帯、後ろで結んでくれるかしら」
セリカはそう言いながら羽美に近寄る。
「べつに、自分でもできるから。他人にやってもらった方が確実ってだけ」
「はいはい」
羽美は喜んで引き受ける。
その後、宮野も帰ってきた。
「いやー。フルーツが最高だった」
宮野は満足そうに語る。
「おーい、待ってまーす」、と急かす水無月。
「すまんすまん」
宮野は苦笑いで謝罪して、鎧を着始める。
ようやく5人全員が準備を終え、羽美たちは宿を出る。ライアスの街はいつも通り賑わっていて、大きな馬車が行ったり来たりしている。
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