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1章 〜我ら初心者冒険者〜
11章
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クモAは飛び上がり、セリカへと襲いかかる。
「セリカ!!」
羽美はセリカを守りに行こうとするが、セリカは動じずにジャイアント・タランチュラを見据え、大弓を構える。
「キシャァァァ!」
クモの前脚がセリカの胴を貫こうとしたその時、セリカは最大限まで引き絞った矢を放つ。矢はクモの体内に収まることなく、胴体を貫く。
ジャイアント・タランチュラAは声も発さずに絶命する。
「やった!」
羽美は喜ぶが、すぐさまクモBの方を振り向く。
「こっちもまだ残ってる……!」
羽美はマナ・ブラストを放つ。だが生き物はピンチの時こそ強くなるもの。狙われたタランチュラは、体の中で1番硬い場所で受け止める。大したダメージにはなっていないようだ。
続いて浦星がフレイムアローを放つ。タランチュラはなんと、素早くフレイムアローを避けて、水無月に噛み付く。牙は腕に突き刺さる。
「このぉ……痛いんだよ!」
水無月が怒ると、体から赤い色のオーラが放たれる。さらに、金髪だった髪もさらに紅くなる。
「あれは……」
羽美はポカンとした表情で水無月を見る。
「でやぁぁ!」
水無月は力任せにウォーハンマーを横に振るう。タランチュラは、自身の半分ほどの身長しかない水無月に吹き飛ばされる。
「え、こんなにゴリラだったっけ」
宮野は驚いた表情で水無月を見つめる。
「宮野ぉ! まだ生きてんぞ!」
普段使わないような口調で水無月は叫ぶ。
「そ、そうか」
宮野はすぐにタランチュラの元に走っていく。だがぬかるんだ地面に足元をすくわれて、転んでしまう。
「まったく……」
それを見るや否や、セリカは大弓でタランチュラの頭を貫いた。
「はぁ……はぁ……」
水無月は息を切らしながら膝をつく。タランチュラたちを倒したが、羽美たちは喜べなかった。4人は走って水無月の元に行く。
「水無月さん!」
浦星は水無月の容体を見る。そこで、浦星は水無月の腕の噛まれた傷跡が緑色になっているのに気付く。
「毒だ……なんとかしないと……」
浦星はカバンの中を乱暴に掻き回して、治療薬を取り出す。セリカは浦星のカバンにあった包帯を切り取る。
「はい、これに薬を浸してから巻いてあげて」
「うん……」
浦星は治療薬を包帯に塗りたくり、優しく水無月の腕に巻いてあげる。浦星は息が荒いが、羽美が背中をさすってあげることで収まっていく。
「落ち着いて。水無月は絶対に助かるから」
「はい。ありがとうございます」
浦星は涙を拭き取る。
「よし、今日はあっちの方で野宿をしようか」
宮野の提案通り、羽美たちは水無月を運んで、比較的乾燥した場所に到着する。そこには、タランチュラに殺された動物の死体の匂いもないし、過酷な湿地帯の中では休める方であった。
「あーあ。散々な1日だったな」
羽美は暗くなっていく空を見ながら呟く。
「そうだな。カエルに襲われるし、やっと羽美がレベルアップをしないといけない、と言った意味が鮮明になったよ」、と宮野は言う。
「うん。世界には、きっとジャイアント・タランチュラなんか比べ物にならないくらい強くて大きな魔物がいる。けど、冒険を始めて数日間でここまで連携が取れるし、あまり心配はないかな」
羽美は嬉しそうに話す。
水無月の看病は浦星が付きっきりでやって、残りの3人は焚き火や夕食の準備をする。湿地なので、枯れ木を見つけるのが難しいが、セリカの魂の火おこしによって、明るい夜を迎えられることになった。
「じゃじゃーん。夕飯は山羊バターと、チーズパンとハム。さらにインスタントオニオンスープもあるよ」
羽美はライアスの街で買った食料を、ふんだんに使った夕食を始める。
「まさか、この世界にもインスタントスープがあるなんてな」
暖かいスープを飲みながら、宮野は顔を綻ばせる。その時、キャンプ地の隅の方にいる浦星が「あっ」と声を出す。羽美たちはそちらの方を見ると、水無月が目覚めていたのだ。
「う~ん」
水無月は呻きながら上体を起こす。
「よかった……」
浦星は、そんな水無月の手を握りながら嬉し涙を流す。
「浦星が付きっきりで看病してくれたんだよ」
羽美はスープの入った容器を、水無月の元に持っていく。
「浦星……てか、名前教えて」
水無月が言う。浦星はいきなり名前を聞かれて驚いたが、なんとか答える。
「美桜です。浦星美桜」
「うん。じゃあ美桜っちって呼ぶね! 本当にありがと」
水無月は華麗にウインクを決める。
その夜は水無月も次第に体調を回復させ、他の4人も十分、戦いの疲れを癒すことができた。魔物が多めの湿地なので、なるべく大きな声を出さないようにして5人は夜を過ごす。
翌日、5人は暗い森の中で目が覚める。朝でも夜でも、暗さは大して変わらない、というのは5人のやる気を削ぐには十分だった。
「なんかな~。朝はこう……ピカァッ! って太陽光を受けないとやる気が出ない」
文句を垂れながらも、羽美は前日の夕食の残り物を口いっぱいに詰め込む。体調が復活した水無月も、熊のように荒々しく食事をする。
「そういえば、水無月の昨日の力はなんなんだろうな」
宮野は、赤い髪の水無月を思い出す。
「あー。あれはバーバリアンの能力だね。レイジモードって言って、その名の通りワイルドになる。レイジモード中は、体がめっちゃ硬くなるし、攻撃力も増す。強いよ」
「そうなのか……凄いな水無月は。私も何か、更なる力が欲しい……ふふっ」
いつものように、宮野は不気味な笑いを発する。
「そういえば、クレリックには〈神域〉って言う特徴があるはずなんだけどね。神域っていうのは、どんな神を信仰するかによって得られるもの。様々な神域があるの」
「なるほど。日本にいた頃は宗教とは関わらなかったが、クレリックである今、新たなる力のために神を信仰してもいいだろうな」
宮野がそう意気込んでいるが、水無月は苦笑いをする。
「あの、悪いけど会長にはゴリゴリのファイターじゃなくて、補助役になってほしいの」
「えぇ……」
案の定、宮野は不満そうな顔をした。
※訂正箇所があります。5話にて羽美が契約した相手ですが、ケイオスでなく〈ヘルブレード〉になります。申し訳ございません
「セリカ!!」
羽美はセリカを守りに行こうとするが、セリカは動じずにジャイアント・タランチュラを見据え、大弓を構える。
「キシャァァァ!」
クモの前脚がセリカの胴を貫こうとしたその時、セリカは最大限まで引き絞った矢を放つ。矢はクモの体内に収まることなく、胴体を貫く。
ジャイアント・タランチュラAは声も発さずに絶命する。
「やった!」
羽美は喜ぶが、すぐさまクモBの方を振り向く。
「こっちもまだ残ってる……!」
羽美はマナ・ブラストを放つ。だが生き物はピンチの時こそ強くなるもの。狙われたタランチュラは、体の中で1番硬い場所で受け止める。大したダメージにはなっていないようだ。
続いて浦星がフレイムアローを放つ。タランチュラはなんと、素早くフレイムアローを避けて、水無月に噛み付く。牙は腕に突き刺さる。
「このぉ……痛いんだよ!」
水無月が怒ると、体から赤い色のオーラが放たれる。さらに、金髪だった髪もさらに紅くなる。
「あれは……」
羽美はポカンとした表情で水無月を見る。
「でやぁぁ!」
水無月は力任せにウォーハンマーを横に振るう。タランチュラは、自身の半分ほどの身長しかない水無月に吹き飛ばされる。
「え、こんなにゴリラだったっけ」
宮野は驚いた表情で水無月を見つめる。
「宮野ぉ! まだ生きてんぞ!」
普段使わないような口調で水無月は叫ぶ。
「そ、そうか」
宮野はすぐにタランチュラの元に走っていく。だがぬかるんだ地面に足元をすくわれて、転んでしまう。
「まったく……」
それを見るや否や、セリカは大弓でタランチュラの頭を貫いた。
「はぁ……はぁ……」
水無月は息を切らしながら膝をつく。タランチュラたちを倒したが、羽美たちは喜べなかった。4人は走って水無月の元に行く。
「水無月さん!」
浦星は水無月の容体を見る。そこで、浦星は水無月の腕の噛まれた傷跡が緑色になっているのに気付く。
「毒だ……なんとかしないと……」
浦星はカバンの中を乱暴に掻き回して、治療薬を取り出す。セリカは浦星のカバンにあった包帯を切り取る。
「はい、これに薬を浸してから巻いてあげて」
「うん……」
浦星は治療薬を包帯に塗りたくり、優しく水無月の腕に巻いてあげる。浦星は息が荒いが、羽美が背中をさすってあげることで収まっていく。
「落ち着いて。水無月は絶対に助かるから」
「はい。ありがとうございます」
浦星は涙を拭き取る。
「よし、今日はあっちの方で野宿をしようか」
宮野の提案通り、羽美たちは水無月を運んで、比較的乾燥した場所に到着する。そこには、タランチュラに殺された動物の死体の匂いもないし、過酷な湿地帯の中では休める方であった。
「あーあ。散々な1日だったな」
羽美は暗くなっていく空を見ながら呟く。
「そうだな。カエルに襲われるし、やっと羽美がレベルアップをしないといけない、と言った意味が鮮明になったよ」、と宮野は言う。
「うん。世界には、きっとジャイアント・タランチュラなんか比べ物にならないくらい強くて大きな魔物がいる。けど、冒険を始めて数日間でここまで連携が取れるし、あまり心配はないかな」
羽美は嬉しそうに話す。
水無月の看病は浦星が付きっきりでやって、残りの3人は焚き火や夕食の準備をする。湿地なので、枯れ木を見つけるのが難しいが、セリカの魂の火おこしによって、明るい夜を迎えられることになった。
「じゃじゃーん。夕飯は山羊バターと、チーズパンとハム。さらにインスタントオニオンスープもあるよ」
羽美はライアスの街で買った食料を、ふんだんに使った夕食を始める。
「まさか、この世界にもインスタントスープがあるなんてな」
暖かいスープを飲みながら、宮野は顔を綻ばせる。その時、キャンプ地の隅の方にいる浦星が「あっ」と声を出す。羽美たちはそちらの方を見ると、水無月が目覚めていたのだ。
「う~ん」
水無月は呻きながら上体を起こす。
「よかった……」
浦星は、そんな水無月の手を握りながら嬉し涙を流す。
「浦星が付きっきりで看病してくれたんだよ」
羽美はスープの入った容器を、水無月の元に持っていく。
「浦星……てか、名前教えて」
水無月が言う。浦星はいきなり名前を聞かれて驚いたが、なんとか答える。
「美桜です。浦星美桜」
「うん。じゃあ美桜っちって呼ぶね! 本当にありがと」
水無月は華麗にウインクを決める。
その夜は水無月も次第に体調を回復させ、他の4人も十分、戦いの疲れを癒すことができた。魔物が多めの湿地なので、なるべく大きな声を出さないようにして5人は夜を過ごす。
翌日、5人は暗い森の中で目が覚める。朝でも夜でも、暗さは大して変わらない、というのは5人のやる気を削ぐには十分だった。
「なんかな~。朝はこう……ピカァッ! って太陽光を受けないとやる気が出ない」
文句を垂れながらも、羽美は前日の夕食の残り物を口いっぱいに詰め込む。体調が復活した水無月も、熊のように荒々しく食事をする。
「そういえば、水無月の昨日の力はなんなんだろうな」
宮野は、赤い髪の水無月を思い出す。
「あー。あれはバーバリアンの能力だね。レイジモードって言って、その名の通りワイルドになる。レイジモード中は、体がめっちゃ硬くなるし、攻撃力も増す。強いよ」
「そうなのか……凄いな水無月は。私も何か、更なる力が欲しい……ふふっ」
いつものように、宮野は不気味な笑いを発する。
「そういえば、クレリックには〈神域〉って言う特徴があるはずなんだけどね。神域っていうのは、どんな神を信仰するかによって得られるもの。様々な神域があるの」
「なるほど。日本にいた頃は宗教とは関わらなかったが、クレリックである今、新たなる力のために神を信仰してもいいだろうな」
宮野がそう意気込んでいるが、水無月は苦笑いをする。
「あの、悪いけど会長にはゴリゴリのファイターじゃなくて、補助役になってほしいの」
「えぇ……」
案の定、宮野は不満そうな顔をした。
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