10 / 16
1章 〜我ら初心者冒険者〜
10話
しおりを挟む
セリカが目覚めたのは、羽美たちの笑い声が聞こえた時だった。夢もない、ただ真っ暗な世界にいたセリカは、ハッと瞼を開く。
「あ、起きた! ほんっと心配したんだよー」
水無月はセリカの前にしゃがんで笑顔を見せる。浦星や宮野も嬉しそうにしていた。ところが、いつもおちゃらけている羽美だけは何故か恥ずかしそうにしていた。
「無理に……助けなくてよかったんだけどな……あはは……ごめん」
羽美は苦笑いをする。
そう言われたセリカはムッと頬を少しだけ膨らませる。
「助けたいって思っただけよ。言うべきは、謝罪じゃなくて感謝よ」
羽美は「うん。そうだよね、ありがとう」とお辞儀をする。
「セリカっちはファッション興味ないの? 今その話してたんだよね~」
水無月は相変わらずのフレンドリーさでセリカに寄っていく。セリカも、初めて会った頃よりは少しだけマシな反応をするようになった。
「きょ、興味ないわ」
「ほんとにー?」
水無月は悪そうに微笑む。
「本当よ」
すると羽美が水無月とセリカの間に入る。
「私がセリカをコーディネートしようか。ふふふ……」
「いつもの調子に戻るの早いな」、と宮野がツッコむ。
この調子で、5人は雑談をしながら2時間ほど過ごす。時刻は昼を過ぎて15時頃になっている。
「もう動ける?」
羽美はセリカに聞く。
「うん。けど、今日は刀の出番は無さそう。ちょっと体力がないの。だから大弓で戦うわ」
セリカは矢筒を確認して、矢の状態を確かめる。
「前衛は私と水無月に任せろ。村で盾を買ったから、ガッチリ守ってやる」
宮野は右腕で盾を掲げて、もう片方の手の親指を立てる。
「ありがとう。恩に着るよ」
そして5人はソレイヌ湖に向けての旅を再開する。道中、羽美たちはセリカに旅の目的の話をした。最初は「異世界なんて馬鹿げている」、と言われるかと思いきや、セリカは案外すんなり受け入れたのだ。
「信じるの?」、と羽美は聞く。
「うん。世界っていうのは何層にも連なっているとモーグさんが話していた。同じ時間軸で進んでいる、別の世界。それを異次元界と呼ぶの。
神が住まう大地、地獄の魔物たちの楽園。他にも妖精だけが暮らす世界もある。あなたたちが異次元界から来たというのは、大して変な話ではないわ」
羽美はその話を聞きながら、ぼんやりと地球での最期の景色を思い出す。生きているかのような謎の炎。
ーあれは、もしかしたら人為的なものなのだろうか……
そんなことを考えていると、羽美は宮野に肩を叩かれることによって意識が戻る。
「羽美。どうやら湖が近いようだ。だが、それと同時に危険そうでもある」
羽美は周りを見る。そこらにはたくさんの蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
中には生き物を巻きつけたものがぶら下げられてある。
「うぅ……気持ち悪い」
水無月は、カビの生えた、ぶら下げられている鹿の死体を見ながら口を抑える。
「この大きさ、ジャイアント・タランチュラのようだな」
セリカは表情変えずに、周りを警戒している。5人はなるべく固まって移動して、ついに目的地を発見した。
ソレイヌ湖。とても湖と呼べる景色ではなかった。水面には巨大な蜘蛛の巣が張ってあり、その中心には卵がある。さらに、その卵には例の赤い宝石が突き刺さっている。
「うかつに近づかないようにしよう。けど、どういうことなの。蜘蛛が赤い石の元凶?」
羽美は小声で言う。
「分からない。けど、倒さないといけないことには変わりないだろうな」
宮野は奇襲されないかを確認しながら言う。
「それにしても、親がいないな……どうやって確認しよう」
そこで浦星が「あの……」と手を挙げる。
「私、ドルイド・クリエイトって言う呪文があります。動物の幻とか、天気とか作れます。小規模ですが」
「そっか。その手があるか」
羽美はポンと手を叩く。
「浦星、リスを作って蜘蛛の巣まで送ってくれない?」
浦星は頷いて、右手からリスの幻を生み出す。幻とはいえ、重さ、声などがある。
幻のリスは走っていき、湖の上にある蜘蛛の巣へと歩いていく。リスが卵近くまで行ったその時、湖の中に隠されていた巣から、巨大な蜘蛛が現れる。高さは2mほどもある。
「でか……」
宮野はよく蜘蛛の姿を見るために前に出る。
「宮野!」
セリカが叫ぶがもう遅かった。なんと、宮野の右隣の木からもう1匹のジャイアント・タランチュラが現れたのだ。
そのクモは口から大量の糸を宮野に向かって吐き出す。
「くっ」
宮野は左腕に装着している盾で、糸の攻撃を防ぐ。
「前方にいるクモはA、宮野のすぐ右にあるやつはBって呼ぼう。戦闘体制に入って!」
羽美の掛け声と共に、他の4人はそれぞれのジョブの適した位置へと向かう。
「遠距離組は湖の上のクモをやるから、頑張って持ち堪えて!」
セリカはそう言いながら、大弓を構えて矢を放つ。
幻のリスに気を取られていたクモAは、矢に体を貫かれてやっと敵の存在に気付く。
「キシャァァァ!」
クモAは8本の足を滑らかに動かして羽美たちの元へ走って来る。
「マナ・ブラスト!」
羽美は紫色の閃光を放つ。見事にクモに命中すると、足を1本吹き飛ばした。
だが、クモAの勢いは減るどころが増している。そして、前衛に立っている水無月に向かって糸を吐き出す。
「よゆー!」
水無月はウォーハンマーを振り回して、糸を弾く。その隙を狙った浦星は、呪文の詠唱を始める。
浦星は人差し指で、空中に炎の弓を描く。浦星はその弓を持ち、火の矢を引っ掛ける。
「フレイムアロー」
浦星は魔法の火の矢をクモAに向かって放つ。火の矢はクモの腹に直撃する。矢が刺さった場所からは、火による煙と、クモの緑色の体液が流れる。
その間、クモBは宮野に向かって鋭い牙を剥き出す。
「受けて立つ!」
宮野は仁王立ちをして、もろにクモの攻撃を受ける。だが、クモの牙は宮野の鎧を貫通しなかった。
宮野と共にクモBを抑えている水無月は、ウォーハンマーを振り下ろす。攻撃は直撃し、クモBの顔は歪む。
「ふはは! 次は私が攻撃だ!」
宮野も攻撃に参加する。
「キシャァ!」
だが、クモBは宮野の腕を前脚で振り払う。
「くそっ……だが!」
宮野はもう一度スピアを振り下ろす。クモの硬い皮膚には大したダメージにはならなかったが、刃の先だけは貫通する。
そして、遠くにいたクモAはすでに羽美たちの目の前までやってきた。
「あ、起きた! ほんっと心配したんだよー」
水無月はセリカの前にしゃがんで笑顔を見せる。浦星や宮野も嬉しそうにしていた。ところが、いつもおちゃらけている羽美だけは何故か恥ずかしそうにしていた。
「無理に……助けなくてよかったんだけどな……あはは……ごめん」
羽美は苦笑いをする。
そう言われたセリカはムッと頬を少しだけ膨らませる。
「助けたいって思っただけよ。言うべきは、謝罪じゃなくて感謝よ」
羽美は「うん。そうだよね、ありがとう」とお辞儀をする。
「セリカっちはファッション興味ないの? 今その話してたんだよね~」
水無月は相変わらずのフレンドリーさでセリカに寄っていく。セリカも、初めて会った頃よりは少しだけマシな反応をするようになった。
「きょ、興味ないわ」
「ほんとにー?」
水無月は悪そうに微笑む。
「本当よ」
すると羽美が水無月とセリカの間に入る。
「私がセリカをコーディネートしようか。ふふふ……」
「いつもの調子に戻るの早いな」、と宮野がツッコむ。
この調子で、5人は雑談をしながら2時間ほど過ごす。時刻は昼を過ぎて15時頃になっている。
「もう動ける?」
羽美はセリカに聞く。
「うん。けど、今日は刀の出番は無さそう。ちょっと体力がないの。だから大弓で戦うわ」
セリカは矢筒を確認して、矢の状態を確かめる。
「前衛は私と水無月に任せろ。村で盾を買ったから、ガッチリ守ってやる」
宮野は右腕で盾を掲げて、もう片方の手の親指を立てる。
「ありがとう。恩に着るよ」
そして5人はソレイヌ湖に向けての旅を再開する。道中、羽美たちはセリカに旅の目的の話をした。最初は「異世界なんて馬鹿げている」、と言われるかと思いきや、セリカは案外すんなり受け入れたのだ。
「信じるの?」、と羽美は聞く。
「うん。世界っていうのは何層にも連なっているとモーグさんが話していた。同じ時間軸で進んでいる、別の世界。それを異次元界と呼ぶの。
神が住まう大地、地獄の魔物たちの楽園。他にも妖精だけが暮らす世界もある。あなたたちが異次元界から来たというのは、大して変な話ではないわ」
羽美はその話を聞きながら、ぼんやりと地球での最期の景色を思い出す。生きているかのような謎の炎。
ーあれは、もしかしたら人為的なものなのだろうか……
そんなことを考えていると、羽美は宮野に肩を叩かれることによって意識が戻る。
「羽美。どうやら湖が近いようだ。だが、それと同時に危険そうでもある」
羽美は周りを見る。そこらにはたくさんの蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
中には生き物を巻きつけたものがぶら下げられてある。
「うぅ……気持ち悪い」
水無月は、カビの生えた、ぶら下げられている鹿の死体を見ながら口を抑える。
「この大きさ、ジャイアント・タランチュラのようだな」
セリカは表情変えずに、周りを警戒している。5人はなるべく固まって移動して、ついに目的地を発見した。
ソレイヌ湖。とても湖と呼べる景色ではなかった。水面には巨大な蜘蛛の巣が張ってあり、その中心には卵がある。さらに、その卵には例の赤い宝石が突き刺さっている。
「うかつに近づかないようにしよう。けど、どういうことなの。蜘蛛が赤い石の元凶?」
羽美は小声で言う。
「分からない。けど、倒さないといけないことには変わりないだろうな」
宮野は奇襲されないかを確認しながら言う。
「それにしても、親がいないな……どうやって確認しよう」
そこで浦星が「あの……」と手を挙げる。
「私、ドルイド・クリエイトって言う呪文があります。動物の幻とか、天気とか作れます。小規模ですが」
「そっか。その手があるか」
羽美はポンと手を叩く。
「浦星、リスを作って蜘蛛の巣まで送ってくれない?」
浦星は頷いて、右手からリスの幻を生み出す。幻とはいえ、重さ、声などがある。
幻のリスは走っていき、湖の上にある蜘蛛の巣へと歩いていく。リスが卵近くまで行ったその時、湖の中に隠されていた巣から、巨大な蜘蛛が現れる。高さは2mほどもある。
「でか……」
宮野はよく蜘蛛の姿を見るために前に出る。
「宮野!」
セリカが叫ぶがもう遅かった。なんと、宮野の右隣の木からもう1匹のジャイアント・タランチュラが現れたのだ。
そのクモは口から大量の糸を宮野に向かって吐き出す。
「くっ」
宮野は左腕に装着している盾で、糸の攻撃を防ぐ。
「前方にいるクモはA、宮野のすぐ右にあるやつはBって呼ぼう。戦闘体制に入って!」
羽美の掛け声と共に、他の4人はそれぞれのジョブの適した位置へと向かう。
「遠距離組は湖の上のクモをやるから、頑張って持ち堪えて!」
セリカはそう言いながら、大弓を構えて矢を放つ。
幻のリスに気を取られていたクモAは、矢に体を貫かれてやっと敵の存在に気付く。
「キシャァァァ!」
クモAは8本の足を滑らかに動かして羽美たちの元へ走って来る。
「マナ・ブラスト!」
羽美は紫色の閃光を放つ。見事にクモに命中すると、足を1本吹き飛ばした。
だが、クモAの勢いは減るどころが増している。そして、前衛に立っている水無月に向かって糸を吐き出す。
「よゆー!」
水無月はウォーハンマーを振り回して、糸を弾く。その隙を狙った浦星は、呪文の詠唱を始める。
浦星は人差し指で、空中に炎の弓を描く。浦星はその弓を持ち、火の矢を引っ掛ける。
「フレイムアロー」
浦星は魔法の火の矢をクモAに向かって放つ。火の矢はクモの腹に直撃する。矢が刺さった場所からは、火による煙と、クモの緑色の体液が流れる。
その間、クモBは宮野に向かって鋭い牙を剥き出す。
「受けて立つ!」
宮野は仁王立ちをして、もろにクモの攻撃を受ける。だが、クモの牙は宮野の鎧を貫通しなかった。
宮野と共にクモBを抑えている水無月は、ウォーハンマーを振り下ろす。攻撃は直撃し、クモBの顔は歪む。
「ふはは! 次は私が攻撃だ!」
宮野も攻撃に参加する。
「キシャァ!」
だが、クモBは宮野の腕を前脚で振り払う。
「くそっ……だが!」
宮野はもう一度スピアを振り下ろす。クモの硬い皮膚には大したダメージにはならなかったが、刃の先だけは貫通する。
そして、遠くにいたクモAはすでに羽美たちの目の前までやってきた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる