彼氏の車に追突されて異世界にきたんだけど

mochizuki_akio

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6.宮殿に来たんだけど

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 王宮に行く日まで、俺はすげー大事に扱われた。

 今までの硬い肉が入ったお粥みたいな主食じゃなくて、ラム肉のソテーに赤ワインとか出されて、毎日風呂に入らせて貰った。

 針仕事はさせられないと取り上げられて、勉強付けの毎日。隙間時間に孤児院とかに行くと、みんな服とか新しくなっている。どうやら国王様の援助は莫大らしく、ぎりぎりの経営をしていた教会が、持ち直しているのがわかった。

『ダーナ、お元気で』

 シスター達に別れを告げた。少ない私物(この世界に飛ばされた時の服とか)を持って、王宮から迎えにきた馬車に乗る。宮殿とか見たこともなかったけど、窓から見える景色が変わり始めて、さすがに俺も背筋を正した。

『ダーナ、おかえり』

 馬車から降りると、湖上――じゃなくて、俺を見初めたと言う王様が迎えてくれた。お帰り、とは変な発言をする。笑うこともできず、固まっていると、王様は苦笑いをした。

『君の事を想い続ける時間が長くて、もう一緒にいるような気分になっていた』
『……はい』
『ちょっと長い……お出かけをしていたんだよね? ダーナ』

 熱烈なことを言われているのに、いまいち俺は喜べなかった。何回も言うけど、俺は見初められる顔じゃない。生まれた時からイケメンとかお世辞でも言われたことがない。
 それに国王様は――ああ、そうだ。宮殿に来る前、俺は最低限の勉強をさせられた。10代の子向けの教育で、国王陛下の名前はアレクセイと学んだ。

『……陛下』

 湖上律とはかすってもいない名前。

『やめてくれ、堅苦しい……アレクと呼んでくれ』

 はい、そうですかと頷けるわけがない。湖上じゃないの? こんな美形、異世界にそっくりさんがいていいの?

『ダーナ、君の部屋を用意したから』

 国王陛下様――アレクに連れられて、俺は宮殿に入った。

 手入れされた広大な庭に、何体も置かれた彫刻。大理石の殿堂がある庭を抜け、ヴェルサイユ宮殿みたいな場所で俺は歓迎された。

 ヴェルサイユ宮殿みたいっていうのはイメージで――すごい城って言えばヴェルサイユ宮殿じゃん? 俺は世界史選択じゃないし、観光名所にも詳しくないからそれっぽいのを上げた。
 なん十個もある部屋と、俺の住んでたワンルームマンションより広い廊下を歩いていく。その間、メイド長だ、給仕人をずらずら紹介されて最後、金髪のイケメンを紹介された。

 あ、この人

『護衛騎士のイリヤ・アバカロフだ。これから君に仕える』

 陛下が教会訪問した時に、影のように付き従っていた男。国王陛下に視線が集中してたけど、よく見たらかなりの美形。年はまだ二十代前半ぐらいで、若そうだった。

『貴方様のお傍を決して離れません、ダーナ様』

 後で知ったけど、イリヤは「王の騎士」と呼ばれる、誉れ高い騎士だった。
 そんな名誉ある人が、ついさっき、教会でこき使われていた底辺に跪いた。俺はこの国の階級がよく分かってないんだけど、騎士って、貴族階級の子息がなるんじゃ……

『君を守る騎士だよ、ダーナ』

 俺の肩に両手を置いた、国王が囁いた。怖じ気づく美貌を見ると、上品な笑みを浮かべていた。目を細めて、まるで自分の子を見つめるような目。見守られてるって――俺が昔、湖上から確かな愛情を感じた視線と同じ。
 顔が同じだから、錯覚してるのか。混乱していると『疲れた?』と体を労わられた。

『長旅だったもんね……もう休もう』
『ぅおっ?!』

 俺の膝裏に腕を回して、国王が抱きかかえる。吹き抜けになった廊下で、俺は同性にお姫様抱っこをされていた。
 騎士のイリヤは、無表情で後を付いて来る。

『ちょ、っと!』
『今日は休もう……可愛いダーナ』

 ――大輔、今日はもう寝よう

『ぁ……』
『どうした? ダーナ、やっぱり気分が悪いの?』

 抱き込まれて、額をくっつけられる。

 ――可愛い大輔……おやすみ

 俺が疲れてると、ベッドまでお姫様抱っこで運ぶような男だった。おやすみ、可愛いねと繰り返し、囁かれる言葉。くすぐったくて、俺は背中を向けていた。

『……こじょう』
『? どうしたの』

 部屋まで運ばれて、でかいベッドにそっと降ろされた。教会のベッドはシングルサイズで二段ベッドだったのに。上を向くと、天蓋の模様はレース編みされた、贅沢な寝台だった。
 馬車に初めて乗った緊張も吹っ飛び、俺は問いかけた。

『っ……湖上、でしょ?』
『?』

 王様は不思議そうな顔をしていた。俺が発する「こじょう」という単語が、摩訶不思議な言語って顔をしていた。

『ダーナ、どうしたんだい?』
『湖上律、でしょう? 湖上じゃないんですか?!』

 俺をずっと甘やかしてくれた男。だけど俺はあいつの愛情に胡坐をかいて――同性として、湖上に張り合いたい気持ちが消えなかった。

 目の前にいる王様は、湖上じゃないのか。だったら、そうだよと頷かれた時、俺は――

『こじょうりつ、というのは何かの……固有の単語かい?』
『……ぁの』
『ダーナにとって、大事な単語?』

 王様――アレクは痛ましい者を見る目で、頭を撫でてきた。表情から嘘をついているようには見えない。
 やっぱり他人なのか――ほっとする気持ち半分、残りは絶望する気持ちで、俺は酷い顔をしていたと思う。

『大事な……単語、です』
『そう……じゃあ、私も大事にしたいな。伴侶が大切にしているものだからね』

 アレクの包み込むような、優しい声が降ってくる。この時、もしかしてやるのかなって、そんな考えもチラリと浮かんだ。でも王様は俺をベッドに寝かしつけると、頭を撫でるだけ。どうやら俺が寝付くまで、傍で見守るつもりらしい。

 そういえば、湖上も俺が疲れていると、セックスを求めてこなかった。かなり性欲が強いやつで、くっついて寝たら、半勃ちのちんこが分かるくらいだったのに。
 我慢してるのに、必死なところは絶対に出さない。どこまでも優しい王子様だった。
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