上 下
31 / 47

29.不安

しおりを挟む

 料理長による、奥方への暗殺未遂――城ではすぐさま箝口令が敷かれた。マルベーの廊下には騎士が待機し、できるだけラファイエットが近くにいるように、配慮された。
 マルベーは大いに使用人達に同情された。良からぬ噂はあるが、実際は侍女達などに物腰柔らかく、親しみやすい奥方なのだ。
 そっとしておこうと、最低限マルベーの部屋には近づかなかったが……

「許さーーーーん!!!!」
「……」

 マルベーは部屋のクッションを、壁に投げつけた。ぼすっと音がして、ラファイエットが黙ってクッションを拾う。

「おい」
「死んでたまるかーーー!!!」

 感情のままバタバタと暴れる。料理長へショックを受けたのはその日だけだった。後日、怒りのあまり部屋をうろうろしていた。

「子どももいるんだぞ!?」

 マルベーは怒りに震えていた。料理長はマルベーの命を狙っていたらしいが、子どもが道連れになるところだったのだ。(しかもそれが分かっていて、毒殺しようとしたのだ。怒りが収まらなかった。)
 マルベーは気づいていなかったが、妊娠してから変わった。死亡フラグへの恐怖よりも、腹の子を守ろうと神経が鋭敏になっていた。

(俺には子どももいて、それにティメオもいて……!)

 あの時、スープなんか飲ませようとしなければよかった。マルベーの心に渦巻くのは、あの日の自分の行動。わざわざ早く帰ってきてくれた夫にはしゃいで、周りが見えていなかった。最終的に料理長が乱入して、ティメオは飲まずに済んだが……

(最悪、全部最悪……)

 暴れたり落ち込んだり、主人は忙しい。ラファイエットは頭を掻きながら、クッションをソファに置いた。

「そうだよ……だから、母胎に悪いから大人しくしてくれ」
「……うん」

 大人しく書斎の醜聞紙をたたむ。最近の日課は、城の不祥事が漏れていないかの確認だった。

 幸い、醜聞紙に情報を売る不届き者はいなかった。代わりに一面には、北で災害が発生し、村の救助が行われているのが連日のニュースになっていた。
 引きこもっていたマルベーはすぐさま、支援物資を北の辺境伯に送っていた。ティメオが以前、滞在して手紙を送っていたからだ。心配半分、評判アップのために、親にまでお願いして支援金を出させた。

「……料理長、なんか言っていた?」

 騎士が無言で首を振る。尋問に押し黙り、食事にも手を付けないとは以前から聞いていた。

(ティメオに忠義心があったじゃないのかよ……)

 料理長が単独で実行するとは思えない。主犯がいるはずだが、決して口を割らないらしい。またムカつきが再熱していると、ドアをノックされた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,659pt お気に入り:794

雇われオメガとご主人様

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:203

人気アイドルと恋愛中です

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:44

俺は兄弟に愛されすぎている…

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,598

【完結】断罪必至の悪役令息に転生したけど生き延びたい

BL / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:2,840

追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

BL / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:1,965

四角い世界に赤を塗る

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:251

処理中です...