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29.不安
しおりを挟む料理長による、奥方への暗殺未遂――城ではすぐさま箝口令が敷かれた。マルベーの廊下には騎士が待機し、できるだけラファイエットが近くにいるように、配慮された。
マルベーは大いに使用人達に同情された。良からぬ噂はあるが、実際は侍女達などに物腰柔らかく、親しみやすい奥方なのだ。
そっとしておこうと、最低限マルベーの部屋には近づかなかったが……
「許さーーーーん!!!!」
「……」
マルベーは部屋のクッションを、壁に投げつけた。ぼすっと音がして、ラファイエットが黙ってクッションを拾う。
「おい」
「死んでたまるかーーー!!!」
感情のままバタバタと暴れる。料理長へショックを受けたのはその日だけだった。後日、怒りのあまり部屋をうろうろしていた。
「子どももいるんだぞ!?」
マルベーは怒りに震えていた。料理長はマルベーの命を狙っていたらしいが、子どもが道連れになるところだったのだ。(しかもそれが分かっていて、毒殺しようとしたのだ。怒りが収まらなかった。)
マルベーは気づいていなかったが、妊娠してから変わった。死亡フラグへの恐怖よりも、腹の子を守ろうと神経が鋭敏になっていた。
(俺には子どももいて、それにティメオもいて……!)
あの時、スープなんか飲ませようとしなければよかった。マルベーの心に渦巻くのは、あの日の自分の行動。わざわざ早く帰ってきてくれた夫にはしゃいで、周りが見えていなかった。最終的に料理長が乱入して、ティメオは飲まずに済んだが……
(最悪、全部最悪……)
暴れたり落ち込んだり、主人は忙しい。ラファイエットは頭を掻きながら、クッションをソファに置いた。
「そうだよ……だから、母胎に悪いから大人しくしてくれ」
「……うん」
大人しく書斎の醜聞紙をたたむ。最近の日課は、城の不祥事が漏れていないかの確認だった。
幸い、醜聞紙に情報を売る不届き者はいなかった。代わりに一面には、北で災害が発生し、村の救助が行われているのが連日のニュースになっていた。
引きこもっていたマルベーはすぐさま、支援物資を北の辺境伯に送っていた。ティメオが以前、滞在して手紙を送っていたからだ。心配半分、評判アップのために、親にまでお願いして支援金を出させた。
「……料理長、なんか言っていた?」
騎士が無言で首を振る。尋問に押し黙り、食事にも手を付けないとは以前から聞いていた。
(ティメオに忠義心があったじゃないのかよ……)
料理長が単独で実行するとは思えない。主犯がいるはずだが、決して口を割らないらしい。またムカつきが再熱していると、ドアをノックされた。
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