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23.朝の二人
しおりを挟むマルベーが目を覚ますと、頬に柔らかいものが当たった。寝ぼけた目を擦ると、だんだん視界がはっきりしてくる。
(わ~、モコモコのフワフワ……)
クリームパンみたいな手足に、むき出しの歯と立派なたてがみ……熟睡したティメオが、ベッドで完全に獣型になっていた。
(でかいぬいぐるみ……)
マルベーはもふもふの胸元に、頬を寄せる。すうすうと聞こえる寝息と、穏やかな心臓の音に包まれて、再度目を閉じた。
(ティメオが起きてないってことは、まだ早いな。二度寝しよ……)
大きな背中に、腕を伸ばす。その拍子に「マルー?」と寝ぼけた声。城の主人を起こしてしまったらしい。
「悪い、起こした?」
「いえ……もうすぐ起床の時間です……」
まだ完全に起きていないのか、声が頼りない。だんだん頭がはっきりしてきたのか、人型になった。
「な~、また俺が寝てる時に跡付けてたな」
気がつくと、体はあちこちに赤い点が付いていた。行為が終わると、だいたい先に寝てしまうマルべーに、ティメオが体中にキスをするからだ。薄くなったと思ったら、上書きするみたいに、しつこくキスをされるのが日課になっていた。
「……だって」
ティメオは不服そうに、頭を掻いた。筋肉質な裸体が露わになり、蜂蜜色の金髪が乱れている。寝起きから絵になる年下の夫は、唇を尖らせた。
「娼館に行かないで欲しい……から」
「行かないよ」
何回このやり取りを繰り返しただろう。最初の発情期、マルベーが脅して以来、何度も念押しされる。
がばりと覆い被さるようにして、押し倒された。
「起きるんじゃないの~、旦那様」
「私が貴方のものであるように、貴方は私のものでしょう?」
ティメオは体中に行為の跡を残せば、妻が娼館に行かないと思っているらしい。
(マーキングみたいだな)
「ん……っ」
有無を言わせぬ瞳が、迫ってくる。マルベーは大人しくキスを受け入れた。最初は何をするにもマルベーの許可を取っていた年下は、最近は当たり前のようにキスをするし、押し倒してくる。
天蓋の下、妻を抱き込むようにして、ティメオは熱心に口づけをする。心地よい腕の力と、のしかかってくる重みに、マルベーは眠りに誘われた。
「どこにも行かないで」
「行くってどこに! どこにも行かないよ~……娼館にも行ってないし」
「……」
返ってきたのは、熱い舌だった。マルベーの頤を掴み、舌を入れてくる。寝ぼけたマルベーから、快感を引き出すような舌の動きだった。
息が上がる頃にやっと、唇が離れた。
「マー、愛しています」
「……俺もだよん、旦那様♡」
また繰り返すやり取り。だけど最近、ティメオは不満そうだった。
「……私の方が貴方の事が好きです」
「同じくらいでしょ」
「いいえ、私の方が好きです」
またキスをされる。苦笑しながら、マルベーは受け入れた。最初はキスを覚えたてだから、キスばかりするのだと思っていた。
でも体を重ねても変わらない。というか、それ以上にキスをされる。ティメオは口づけが好きなのだと受け入れた。
「マルー……私だけの人」
「俺だけの旦那様♡」
侍女が起こしにくるまで、二人はキスをしていた。
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