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11.好き

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 引っ越しの話をせずに済んだと安心から二週間。文彰は別れ話をしなかった。まだタイミングではないと、自分に言い訳をして、先延ばしにしていた。だけどその場しのぎの延命など、長く続かない。
 そのうち、天外はまた引っ越しだとか、やっぱりベッドが狭いとか言い始めて、それも面倒だった。

 文彰はのらりくらりと、話題を変えた。それができたのは、天外の出張が増えたことも大きい。国内の支社のみならず、海外の現地法人への出張が増えたが、当の本人は首を傾げていた。

『別に俺が無理に行かなくてもいいんだけどね』

 先のことを話さずに済んだと安堵する文彰の耳には、聞こえていなかった。このままずるずると、全てが有耶無耶になったらいいのに――そんなことを考えながら、会社に向かうと、珍しく話しかけられた。
 普段はツチノコ並みに遭遇しない幽霊部長が、朝からデスクに座っていた。

「沖倉くん」

 あと二年で退職する部長は――文彰にとって、理想的なワークライフバランスを叶えた人は、後頭部を掻いていた。

「営業部長が呼んでるよ」
「はい?」

 何の件ですかと聞いても、部長は頭を掻くだけだった。釈然としないまま、営業部を訪ねた。追い出し部屋に飛ばされて以来、久しぶりに顔を合わせた部長は、腕を組んでいた。

「出張、行って貰えるかな」

 日帰りで親会社に行けと言う。あり得ない。情報整理課の文彰が、親会社に何しに行くというのか。出張内容を聞いても、部長は腕を組んだまま、眉間の皺がきつくなった。直帰、日報はいらないととんでもないことまで言われ、ますます訳が分からなくなる。

 ただ一言、「先方の機嫌を損ねるなよ」と言われたところで、文彰は胸騒ぎを覚えた。営業部の冷たい視線を感じながら、情報整理課に戻ると、幽霊部長は姿を消していた。溜息をついて、鞄を手に取った。
 天外が、作り置きしていたおかずを詰めた弁当箱が入っている。ほのかに温かみを感じながら、のろのろと電車に乗った。

 ソノザキグループホールディングスの受付で名乗ると、にこやかな受付スタッフが「少々、お待ちください」と言う。大きくなる胸騒ぎに、心臓当たりをぎゅっと握りしめていると、いつか会った、香園会長の秘書がやってきた。
 胸騒ぎが確信に代わり、文彰の額から汗が噴き出す。秘書の後を付いていくと、地下の駐車場に行き着いた。

「どうぞ」

 後部座席のドアが開くと、滑らかなスーツの袖口から覗く、真っ白なシャツの袖に、カフスボタンが見えた。ぞっとして視線を上げると、ネクタイピンにピアジェの腕時計――逃げ出したくても、そんな勇気はない文彰は、立ち尽くしていた。

「何をぼさっとしている。早く乗りなさい」
「……はい」

 ぎくしゃくとしながら、車に乗る。座席のシートが、呼び出されたホテルのソファと同じくらい、柔らかい。また場違いな場所に来てしまった。

「適当に走らせてくれ」
「かしこまりました」

 隣に座り、できるだけ章太郎から距離を取ろうと、文彰はドアに張り付くように座った。堂々と息を吸うのも躊躇う車内で、文彰は体を丸めた。出張とは名ばかりの呼び出し。きっと天外との別れ話だろう。ここにきてやっと、どうして二週間の間に話をしなかったのか、悔やんだ。
 ここを脱するためにと、言い訳を捻りだしていたところ、「何が食べたい」と言われた。

「……はい……?」
「昼食だ、何が食べたい?」

 食べたくない。息が詰まるだけの相手と、食事なんかしたくない。だが文彰にはNOと言う資格もなく、かといって、あれこれ食べたいと言える度胸もなかった。

「……会長の、食べたいもので、あの、自分は特に」

 ぼそぼそ返事をすると、殿上人はため息をついた。下っ端として、相手に合わせただけなのに。どうしてか、車内の空気が一気に張り詰めた。
 助手席に座った秘書が、フォローしてくれたらいいのに。文彰とそう年が変わらない秘書は、無言で前を見ていた。

「――和食でいいか」
「は、はいっ、あの、なんでも、大丈夫ですっ、はい」

 章太郎が運転手に命じたのは、輝石屋だった。文彰も、ニュースで時々、名前を聞いたことがある。国賓レベルの人間を迎える場所として、名前が上がる料亭。

 予約もなしに入れるのかとか、天外との話をするなら、この車内で十分じゃないのかと、文彰はぐるぐると考え込んでいた。無言の車内、ちらっと殿上人の方を見ると、膝に置かれた右手が気になった。

 ホテルに呼び出された時は、緊張で気が付かなったが、傷跡がある。白っぽい、古傷のようなそれが、文彰は不思議だった。

「――どうした?」
「あっ……いや、え、っと……すいません」

 ぺこぺこ謝るが、章太郎の追求は止まなかった。

「なんだ、どうした、何が気になるんだ」
「……あの……右手の……」

 傷、とまで言わなくても、章太郎は直ぐに察した。「ああ、これか」と傷と親指で摩る。

「昔、宿題を間違えてね、父親から定規で躾けられたんだ」
「……」

 父親の愛情だよ。章太郎は誇らしい気持ちで、傷を撫でる。可愛い男に自慢する気持ちだったが――文彰は絶句していた。

 富裕層ではないが、埼玉県に一軒家を構える、平凡な家庭に生れ育った文彰は、体罰を受けたことがなかった。定規で?傷が残るほど叩かれた?

 ショックで言葉が出なくなったが、格上の相手。すぐに「そうなんですね!」と無理矢理、明るい声を出した。

「それは……あの、お父上様の、その、愛情を感じ、ます、ね……」
「君にも分かるか。そう、父の愛情なんだ」

 満足そうに頷く章太郎を横目に、文彰は天外のことで頭がいっぱいになっていた。あまり家庭環境の話はしないが、まさか天外は殴られて育った――?

 傷が残るほどの折檻を、愛情だと勘違いしている男に育てられたのだ。だからあんな情緒が不安定なのか?感情のコントロールがきかないのは、抑圧されて育ったから……妄想逞しく、年下の男が「可哀想」な存在になっていく。

 出張中の天外を憐れんでいたら、車が輝石屋に入っていった。へこへこしながら、文彰は男の後を付いて行く。

 玄関先で店の女将に迎えられ、曲がりくねった廊下を歩く。輝石屋の離れにある個室は、母屋から距離があり、プライベートが守られる部屋のつくりになっていた。 

 檜のローテーブルに、分厚い座布団が敷かれた座椅子が二つ。襖の前で、びくびくしながらスリッパを脱いでいると、秘書が頭を下げた。

「会長、わたくしは失礼させて頂きます」
「ああ、迎えは呼ぶ」

 鷹揚に頷いた章太郎は、ちらりと文彰を見た。当の本人は、情欲が滲んだ男の視線に気が付かない。早く服を脱がせたい章太郎は、下唇をせわしなく舐めた。

「文彰、ほら、ジャケットを脱ぎなさい。暑いだろう?」
「……はい」

 名前を呼ぶと、ビクリと肩が震える。文彰が怯えた目を向けるのにぞくぞくして、章太郎はじりじりと距離を詰めた。

 抱いた男の肩に手をかけると、ジャケットが薄っぺらかった。つるしものは触り心地が悪い。腹を満たし、文彰を抱いたら、デパートにでも行こう。今日は一日、文彰を独占するためにスケジュールを調整した。コンドームと携帯用ローションはちゃんと鞄にある。怯えながら、無防備に背中を見せる男が愛おしくなる半面、章太郎は襲い掛かるのを堪えた。

「どうした、緊張してるな?うん?」
「あの……天外さん、とは、その」
「ほらぁ、早く座りなさい」

 ジャケットを剥ぎ取られた文彰は、ゆっくりと座布団に腰を下ろした。粘りつくような視線を感じながらも、怖くて振り向けない。

 章太郎が真正面に座ると、音もなく襖が開いた。女将と従業員が、次々とテーブルに小鉢を運ぶ。白と藍色を基調とした伊万里焼の入れ物には、色とりどりの料理が並んだ。

「こちら築地に入りました、初鰹の揚げ物でございます」

 女将は文彰を一度も見ることなく、章太郎に向かって説明をする。言い訳で頭がいっぱいになっていた文彰は、軽んじられていることに気が付かない。ぼんやりと手元の皿を見つめていた。

 従業員が出ていき、襖が閉められると、沈黙が落ちた。章太郎が日本酒を注ごうと、とっくりを傾けると、文彰は慌てた。

「あの、私がっ」
「いいから、ほら、飲みなさい」

 章太郎の猫撫で声に、お猪口を持った手が震える。注がれた日本酒は透き通り、甘やかな香りが、鼻孔を掠める。張り詰めていた文彰も、咽喉が上下した。

「……失礼します」

 おそるおそる口をつけると、甘すぎない、すっきりとした冷たさが、咽喉を滑っていく。口の中を潤す酒に、頭がくらくらした。これなら何杯でも飲めてしまう。

「ほらぁ、飲みなさい。好きなだけ、飲んでいいよ」

 章太郎に煽られ、お猪口をぐっと傾けていく。とっくりが一本、二本と空になる頃、文彰はだいぶ酔っていた。
 都心の真ん中とは思えない、静かな個室。時々、鳥のさえずりまで聞こえる贅沢な離れで、勧められるまま酒を飲んでいた。

 呼び出した男は、文彰の目の前で、ほほ笑んでいる。天外の話をするんじゃないのか。相手が切り出さないのをいいことに、ずるずると酒を飲み続ける。テーブルに置かれた、初鰹とか、菜の花の吸い物がぐらぐらと揺れていた。

「美味しいかい?」
「おいしい、です……」

 文彰が目元を赤くし、とろんとした表情になっていた。好きにしてくれと言わんばかりの無防備な顔に、章太郎は飛びつきたくなるのを堪えた。
 興奮を抑えて、「文彰」と名前を呼んだ。

「こっちに来なさい。ほら、近くに来るんだ」
「……はい」

 立ち上がろうとした瞬間、体が傾いた。思わずテーブルに手を付いたが、がちゃんと派手な音がした、はっとして視線を上げると、とっくりが倒れていた。

「も、申し訳、ありませんっ」
「汚れてしまった……脱がせてくれないか、文彰」

 ずるずると這って、章太郎に近づいた。ネクタイに酒がかかったらしく、濡れていた。ふわふわした頭で、いくらするんだとパニックになっていた。

「ふみ、ほら、早く」
「す、すいませんっ、すいませんっ」

 章太郎に言われるがまま、ネクタイのノットに手を伸ばす。怯えながらネクタイを解き、ボタンを外した。これ以上の粗相は許されない。震えながら服を取り払っていると、頭を撫でられた。ゆるゆると髪を梳き、手は頬や首に移動する。
 優しく撫でられて、ますます頭に靄がかかる。上背のある男を見上げると、柔和な笑みを浮かべていた。

「ふみ、ほらぁ、下も脱がせてくれ」

 頭を優しく押さえつけられる。視線を落とすと、スラックスに酒はかかっていなかったが、股間が盛り上がっていた。

「ふみのせいだよ」
「あっ……」

 後頭部を押されて、股間に顔を押し付けられた。ぐりぐりと頬に当たる感触に、頭がぼんやりとする。期待から、自然と口を開けていた。

「……ごめんなさい」
「いいんだよ。早く、ほら、文彰が楽にしてくれ」

 ベルトを緩め、チャックを下ろす。下着から飛び出してきた男根に、息を吐いた。

「んっ……」

 亀頭をちろちろと舐め、エラの張った先を加える。口をすぼめて吸うと、章太郎の匂いが、口いっぱいに広がる。無意識に天外と比べながら、章太郎のペニスに、夢中になっていた。

「んぅ、んっ、んっ」

 少しずつ咥えて、一気に根元まで飲み込む。頭を上下すると、天外が喜ぶのを知っている文彰は、父親にも同じような奉仕をした。じゅぷじゅぷと水音がして、口の端から唾液が溢れていた。

「息子と盛り上がっていたね」
「っんぅ……んん」

 謝罪しようと口を離そうとしたが、章太郎は許さなかった。後頭部を押されて、奥深く咥えさせられる。涙目で見上げると、権力者は目を細めていた。

「リビングで騎乗位――一生懸命、お尻を振っていたね。ふみ」
「んぅっ」
「息子を押し倒して……男に乗るのが好きなのか?気持ちよさそうにしてたじゃないか」

 謝罪も言い訳もできない状態にして、章太郎は文彰を責めた。ホテルに呼び出した時は体を震わせていたくせに。酒を流し込んで、体を開くのは楽しかったが――初心なフリをしていたのかと、章太郎は動画に嫉妬した。

 カメラに収められた文彰は、夢中になって雄を咥えると、下の口で今度は男を咥え込んでいた。かくかくとおぼつかないながらも、懸命に腰を振る動画に、章太郎は勃起が止まらなかった。

「男に乗って、あんな風にお尻を振るんだね、ふみは」
「んぅ、んんんっ!」

 文彰が尻を振る動画を、何度も再生を繰り返した。血圧を上げた章太郎は、また「ふみあき」を呼び出して、抱いてはその都度、使い捨てていた。

「私には乗ってくれないのか?うん?……私じゃあ、役不足か?」
「んぅっ!」

 どうして。酒と男根に侵された頭で、文彰はパニックになっていた。別れ話をするどころか、天外とのセックスを詰るような口調だった。

 何か言い訳をしたくて、頭を振ろうと――章太郎の手に、力が込められる。ぐっと根元まで咥えさせられ、文彰の目から涙が零れていた。

「私とのセックスでは、積極的になれないのか?やっぱり息子がいいのか?あいつは若いだけだぞ、若さなんてあっという間だ……こんな年寄りじゃあ、お尻を振ってくれないのか」
「んっ」

 膝立ちで、章太郎に奉仕をしていた文彰の股間を、押し上げられる。章太郎の足指が、半勃ちになったそこを撫で上げた。

 口の中に詰め込まれたペニスは、凶暴なまでに猛っていた。大きさも硬さも、文彰好みで、下腹が疼く。これで中を掻き回されたら……?

 リビングでのしかかり、天外のペニスを好き勝手にした日を思い出す。あの時みたいに、思う存分、尻を振って、快楽だけを追いかける動物になりたい。
 文彰は物欲しげに、男を見上げた。章太郎は怒りが収まらないのか、ペニスをしゃぶる文彰の髪を乱した。

「こんな顔を毎日、息子に見せてるのか」
「――っ、かい、ちょうっ……あっ」

 やっと解放されて、文彰は悶えた。目の前には赤黒い、唾液で滑(ぬめ)る勃起したペニス。そして文彰の股間に延ばされた足指に、ペニスを弄られた。
 スラックスの上から中途半端な刺激を与えられ、泣きそうになっていた。

「……かいちょぉ」
「会長じゃない、章太郎だよ。章太郎くんって、言いなさい」
「章太郎くんっ、章太郎くんの、あのっ……ちょうだいっ」

 腰に縋り付き、文彰はペニスに頬擦りをしていた。熱くて硬い感触を楽しむと、腹がきゅうと疼く。章太郎の足を股に挟み、もじもじと腰を揺らした。

「ちょう、だぁい」
「なにを?何が欲しいの?ふみ?」
「……っ、しょうたろう、くんのっ、ぺ、ぺにす、くださいっ、入れてくださいっ」

 章太郎も限界だった。文彰に奉仕され――天外に開発されたのか、文彰はフェラが上手い。

 今まで何回、息子を咥え込んできたのか。怒りが増幅したが、荒ぶった下半身は正直だった。亀頭は天井を見上げ、早く文彰の中に納まりたがっていた。

「じゃあ、ほら、ふみぃ……わかってるね?」
「しょうたろうくんっ」

 ゆっくりと畳に腰を下ろした章太郎に、文彰は飛び付いた。グループ会社のトップを押し倒しながら、唇を貪る。

 舌を入れると、二人で楽しんだ日本酒の香りが漂ってきた。ぐちぐちと舌を絡めあい、唾液を啜る。ますます下半身が、固くなっていくようだった。

「ローションは鞄の中だよ」
「うんっ」

 鞄を漁り、コンドームとローションを取り出すと――文彰は章太郎のペニスに、コンドームを装着した。
 どうして料亭に呼ばれて、会社のトップと――それも天外の父親とセックスしようとしているのか、ちらと頭を掠めたが、勃起したペニスを前にどうでもよくなった。

 別れ話の進捗など聞かれたらどうしようと、不安は取り除けたのだ。

 もどかしくなりながら、下だけ脱いだ。ローションを手に垂らし、後ろを早急に解す。まだ指が一本入るくらいで窮屈だったが、文彰は章太郎にのしかかった。

「しょうたろう、くん……」

 上体を起こし、座椅子に背中を傾ける男の膝に、文彰は乗っかっていた。隆々とした剛直に、尻の窪みを押し当てる。大きさに、入口が戦慄いているのが分かった。
 この硬い熱棒を入れたらと、文彰は妄想だけでイける気がした。

「あっ……ん、んぅ」

 腰を少しずつ下ろしていく。文彰の後孔が、ペニスを飲み込んでいくのを、章太郎はじっくりと鑑賞した。

 監視カメラでは、どうしても設置場所に限界があるせいか、肝心の結合部分が映されていない。文彰が尻を振っているのは良かったが、文彰が男を受け入れる瞬間を見たい――見たらまた怒りで章太郎はおかしくなるのだが、歪な趣味を辞められなかった。

「あっ、ぁ――っ、ぅんっ」
「おお、入った、入った」
「あんっ」

 ぐっぷりと根元まで飲み込むと、章太郎に尻を撫でられた。対面座位の状態で、文彰は腰を揺らす。少しの振動が、内臓に響くようで、気持ちよさに声が出ていた。

「どうした?もっとほら、腰を振りなさい。腰を支えて上げるから、ほら、ほら」

 遠慮がちな動きに、章太郎は尻を軽く叩いた。首から顔を真っ赤にした男が、嬌声を上げた。

「ぁあ――ま、まってお尻、お尻た、たたかないでぇ、溶けちゃうっ、お尻溶けちゃうからぁ」
「溶ければいいだろ?ほらぁ、思う存分、尻を振るんだ。欲しいと言ったのはふみだよ?……欲しくないの?やめるかい?」
「やぁっ!抜かないでっ、抜かないでぇっ」

 腰を引かれて、文彰は慌てて章太郎に抱きついた。背中に両腕を回しながら、腰を揺らす。ぐっと深く突き刺さったペニスが、中で蠢くような感覚に、文彰は見悶えた。

 文彰の中を知り尽くしたように、章太郎は時折下から、腰を突き上げた。気持ちよさに、甲高い声が出る。
 丁度いいところに当たっている。

 章太郎とのセックスに、文彰は溺れた。気持ちよく腰を小刻みに揺らしながら、亀頭が奥の一点に当たるよう、体を動かす。快楽だけを貪欲に求める姿に――章太郎は笑みを深くした。

 今日のセックスを動画に収められないのが、惜しい。巷には、ハメ撮りというプレイがあるらしいので、今度は撮影会を――対面座位もいいが、騎乗位を撮影したい。

 泣きながら尻を振る男が愛おしくて、しょうがなかった。章太郎は尻を揉んでいた腕から、腕時計を外した。

「ふみぃ、後でお買い物をしようか」
「うんっ、うんっ……あぁっ」

 腰を動かすと、ごりっとペニスがまた違う場所に当たる。気持ちよくて、目の前に星が飛んだ文彰は、開きっぱなしの口から涎を垂らしていた。

「ふみは何が好きなんだい?」

 文彰の胸ポケットに、腕時計を入れる。章太郎は、ブランドは何が好き?と聞いたつもりだったが、快楽に漬かり切った男は、悲鳴のような声を上げた。

「すきっ、すきぃっ、章太郎くんっ、好きっ、章太郎くんのちんちんっ、好きぃっ」
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