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8.真摯な気持ち
しおりを挟むいつか、こんな日がくるんじゃないか――
文彰はホテルのロビーで、頭を抱えていた。初めて踏み入れたホテルのソファ。反撥がなく、体を包み込むような柔らかさに、思わず背筋を伸ばした。こんな場所で寛げるのは、一部の人間だけだろう。
文彰と街中ですれ違うこともない人種が、目の前のロビーでたむろしていた。
『天外さんのことで、お話があります』
数日前、公園のベンチで昼食を取っていた文彰に、香園会長の秘書だという男性から、コンタクトがあった。曜日、時間帯を指定され、名刺まで渡された。吉野と名乗った秘書は、40代くらいで、文彰とそう歳が変わらないように見えた。
親会社の人間とは、大昔、名刺を交換したことがある。本物か――疑いは「天外さんの」とはっきり言われて、瞬殺された。
文彰の10倍は忙しい天外が、朝作った弁当を味わう余裕は無くなり、箸を落としそうになった。
約束の30分前に到着すると、上野のアメ横で買った腕時計を見た。あと25分。約束の時間まで、永遠とも言える時間、喉がからからだった。
香園会長に指定されたのは有明、海岸沿いのホテルだった。恐怖と野次馬根性が混じった好奇心で調べた、最上階スイート。一泊60万の数字を、何度も確かめた。
こんな場所、本来なら、足を踏み入れる身分じゃない。空調が効いたロビーで、額から汗を滲ませていた。呼び出しに何を言われるか、何を言われても自分は――
「……っ」
文彰はスラックスのポケットに手を突っ込んだ。スマホの画面には、何十件と並んだメッセージ通知。いつ帰ってくるの、夕食は、明日の予定は……全て天外からだった。
19:34 今日は遅くなるから、夕食はいらないよ
19:34 遅くなるって、何時ぐらい?
19:35 今日、飲みなんだよね?終電?
鍵は持ってるんだから、いいだろう?!一体、誰のせいでこんな場所に呼び出されたのか。八つ当たりしたくなるのを堪えて、分からないと打った。
19:36 今日は飲みたいから、遅くなる。先に寝てて
19:36 やだ。文彰さんとおやすみしたい
19:37 お夜食作って待ってるね
19:37 文彰さんが好きな梅茶漬け
愛らしいスタンプが抱きついたり、あくびをする。待ってるね、梅茶漬けに怒りも引っ込み、胸が痛んだ。
19:38 できたら早く帰ってきて欲しいな
19:38 お花見行くって言ってたでしょ?
19:39 文彰さんとお花見行きたい。
19:39 お弁当は甘くない卵焼き、入れるから
文彰は無意識に、何度も胸を押さえつけた。わがままで、情緒不安定な年下の男。それでも家事全般を引き受け、甲斐甲斐しく文彰の世話をしてくれる。
可愛いなと、若くて美しいのだから当然かもしれないが――寝ている横顔にキスをしたくなる気持ちは、情の一言では片付けられなくなっていた。
三連休もお花見に行こうと言われて、文彰も内心、楽しみにしていた。
19:45 ありがとう。早めに帰ってくるね。
スタンプを一つ選び、送る。すぐに大好き♡とスタンプが送られてきた。
19:46 文彰さん、大好き♡
19:46 早く帰ってきてね、大好き♡
語尾に何度も繰り返される、大好き。つい俺もと、返しそうになるのを堪えた。セフレだと言われて、もう半年以上続く関係の中、文彰は天外の大好きに答えたことがなかった。
言ったら最後、取り返しがつかないことになりそうだった。
またね、とスタンプを送り、スマホを閉じる。時計を見ると、19時50分。重たい足取りで、ロビーに向かった。
名前を言うと、にこやかな従業員が案内しようと、カウンターから出てきた。どうやら最上階への移動手段は、専用のエレベーターがあるらしい。背筋の美しい従業員の後をついていくと、エレベーターが音もなく、最上階に到着した。
いってらっしゃいませと、エレベーター前で従業員と別れると、文彰は部屋に入った。ドアの前で会長が仁王立ち……はさすがに無かったが、開けた瞬間、見渡せるリビングに、後ろ姿があった。
文彰に背を向け、ソファに座る男が恐ろしかった。声のかけ方が分からない。広々とした部屋に置かれたL字型のソファとか、大型テレビなど、目の保養にもならなかった。
「ぁ、の……」
声が震えて、室内に「の」と発していた。スーツ姿の男性が、ゆっくりと振り向いた。文彰は一瞬、緊張も忘れて、男に身惚れた。天外そっくりだったからだ。眩しいほどの若々しさを振りまく天外に、貫禄が加わった美丈夫だった。
「きたか……座りなさい」
「っ……すいません」
一瞥されただけで、冗談ではなく、失禁しそうだった。ソノザキグループホールディングスを多国籍企業に押し上げ、華々しく経団連会長の椅子に座った男。
ぎくしゃくしながらソファに座ると、美丈夫は冷たく文彰を見つめていた。
子会社とはいえ、新聞などでぼんやりとしか見たことがなかった。実際、テーブルを挟んで対峙すると、威圧感に身が竦んだ。力が漲った体格に、白髪の混じった黒髪が、男に渋みを与えていた。
天外はどこか、女性的な美貌があるのだが、おそらく母親似なのだろう。目の前で、文彰を睨みつける男は荒削りな美貌を持ち、重々しい空気が立ち込めていた。
「あの……わたくし、沖倉文彰、と、申しまして……えー、その、あの、それで」
ダークブラウン色のダブルスーツに、鮮やかなブルーのネクタイが、文彰を慄かせた。権力者の身に付ける、磨かれた革靴に、パティックフィリップの腕時計。全てが文彰を怖がらせ、惨めにさせた。
「あの、それで、ですね……」
手元を見れば、光沢を無くし、傷があちこち散見する、チェーン店で買った革靴。上野で買った、プラスチックの時計が室内の光に反射する。視線を合わせることができず、文彰はカッティングの美しい、大理石のテーブルを見た。
生花が飾られた花瓶の横、ワインボトルにチョコレート、そしてコンビニの袋が乱雑に放り投げられていた。
シャンパンの入ったワインボトルで、殴られたらどうしようとか、こんなお金持ちでもコンビニに行くんだと、束の間の現実逃避をした。
ただじっと無言で、剣呑な視線を送られるのが、耐えられなかった。蛇に睨まれた蛙というのがぴったりで、文彰は頭を下げた。
「あの、申し訳ございませんっ!本当に申し訳っ――」
「私がどうして、君を呼び出したのか、わかるか」
謝罪を遮った権力者は、文彰を見据えた。他人が、自分の言葉を聞くのが当然だと――環境に慣れた人間のものだった。
「はい、あの、息子さんと――」
「そうだ。息子の天外は、父親の私が言うのもおかしいが、将来性のある子でね」
“将来性”重い言葉だった。親に言われれば、尚更、文彰の肩にのしかかる。改めて、天外との立場を突きつけられた。
「息子にはいい歳だからと、見合いを進めたら、交際相手がいると断ってきた」
穴が開くほど見つめられて、文彰は息が上がった。
「あ、の……っ、申し訳ありません」
普段、へらへら笑いながらやり過ごしてきた。だが、目の前に座る男には、文彰の薄っぺらい処世術は効きそうにない。
「それで、私がどうして、ここに君を呼び出したか、わかるかい」
「あ……」
食い入るように見つめる瞳から、文彰は全てを理解した。普段から天外に、感が鈍いと文句を言われる文彰でも、すぐに理解した。首振り人形のように、何度も頭を下げた。
「わ、別れますっ、息子さんと、天外さんとはすぐに別れますっ!申し訳ありません、すいませんっ、本当にっ!すぐに別れますので!」
文彰は媚びるように、香園会長を見上げた。
天外と別れれば、この面倒ごとから解放される。早く、呼吸も十分にできない部屋を出て行きたい。先のことなど考えず、ただ一心不乱に頭を下げた。
「息子さんとは、立場が違いますからっ、本当に、はい、最初から分かっておりました。息子さんはお若いですからっ、はい、すぐにはい、別れます!すぐに別れますからっ」
ちらっと脳裏をかすめたのは、家で帰りを待つ天外だった――しょうがないだろ。文彰は酷くなる胸の痛みを無視して、別れると繰り返した。
しょうがないだろ。
歳の差もあった。天外は生まれも育ちも違う身分だ。本来なら、道端ですれ違うこともない、別世界の人間だ。
メッセージで一言、別れようって――そう、一言で済む話だ。今の若者は、別れる時もメッセージで一言。後はブロックして関係を切ると聞いた。天外も最初はごねるだろうが、分かってくれるはず。
文彰は媚び諂うように、香園会長を伺った。
「……すぐに別れられるのか。君たちは想い合っているんじゃないのか」
「えっ……と」
予想に反して、天外の父親は不機嫌そうな顔をしていた。軽蔑する視線を隠そうともしない態度に、たじろいだ。
「あの、あのっ……付き合っているといいますか、せ、割り切った関係で、はい、お互い相手がいないということで、はい、想いとかそういうのは……すぐに別れられますから」
「そうか……」
視線から圧力を感じ取った文彰は、なんとか言葉を絞り出した。別れると行っているのに、どうして会長の顔は険しくなるのか。責任、義務、面倒ごとは全てうやむやにしたい文彰は、頭を巡らせた。
ここから早く、解放されたい。
「別れるか」
「!はい、すぐに、今からでも、メッセージを打ちますっ!」
「必要ない。話は終わっていない」
慌ててスマホを取り出したところ、ピシャリと撥ね付けられる。文彰はぺこぺこしながら、スマホを閉まった。
「すいません……」
「それで?君はどのような形で、真摯な気持ちを見せてくれるんだ」
「……はい……?」
香園会長の発言に、枕詞の「すいません」が遅れた。真摯な気持ち?困惑した表情で、老獪な男を見た。
じっと、こちらを見つめる目。天外が、文彰をコントロールする癖と同じだった。
「あの……すいま、っせん」
ソファから立ち上がり、絨毯の床に膝を付く。額を擦り付けるように、土下座をした。
「この度は、誠に申し訳ありません……本当に申し訳ありませんでした」
真摯な気持ち、真摯な気持ちを込めて。心の中で「真摯な気持ち」が伝わるよう、呟いた。目の前には、折り目正しいスラックスと光沢のある革靴があった。
「本当に申し訳あ」
「私は謝罪を求めているんじゃない。土下座ではない」
「……あの、あの、お気持ちで、謝罪の気持ちで慰謝料を」
「金でもない」
すげなく断られ、文彰は途方に暮れた。謝罪も金も、殿上人は求めていない。まさか、死んで償え……?最悪を予想し、そろそろと顔を上げる。
文彰を見下ろし、苛立ったように膝を人差し指で叩く男の――異変に気が付いた。
「あ、の」
「本当に鈍いな。仕事ができないとは聞いていたが、これ程とは思わなかった」
「すいませんっ、あの、」
緊張のあまり、気がつかなかった。美しいスーツを着た男の下半身に、目だけ動かす。股間が盛り上がり、張り詰めていた。どうしてこの人は、怒りながら勃起させているのか――
「わからん奴だな?!」
「――っ、あの」
下半身を荒ぶらせた男が、ソファから立ち上がる。盛り上がった股間が恐ろしく、文彰は逃げ遅れた。
腕を引っ張られ、無理やり膝立ちにさせられた。目が充血した男の顔が、すぐ目の前にある。声を上げる間もなく、文彰は柔らかい絨毯に、押し倒されていた。
「ふみあきっ」
真っ白い天井を、遠く感じた。長年住み続けたアパートの天井とは違うんだなと――恐怖のあまり、現実逃避し始めた文彰の顎を掴み、章太郎は激しい口付けを浴びせた。
唇を重ねるだけで、下半身に熱が集まっていた。
「んぅ、ん、ふぅんっ」
ショックで閉じられた唇が、もどかしくも憎たらしい。指を乱暴に突っ込むと、文彰の口をこじ開けた。奥にピンク色の舌が見えて――章太郎の体はおこりのように、震えた。
「ふぅ、が、かい、ちょっ」
「舌を出せ!」
太い指が舌を引っ張る。痛みで文彰の目から、涙が溢れていた。やっと「真摯な気持ち」を理解してしまい、体が動かなくなっていた。
「ふ、ふみあきっ、ふみあきっ」
生温かい舌を重ねられ、擦るように舐められる。ずるずると舌が重なり、絡められた。ぐちぐちとお互いの唾液が混じり合うキスに、文彰は頭がぼんやりしていた。
唇を重ねる男は興奮から、鼻息荒く、文彰にのしかかっていた。欲情した天外そっくりで――文彰はいつものアパートかと、勘違いしてしまいそうだった。
「あっ」
章太郎の唇は首筋に移動し、手は胸の上を這い回っていた。ぶちぶちとワイシャツを引き裂かれ、肌着を捲られる。すぐにお目当ての乳首を見つけると、章太郎は飛びついた。
天外に開発されて、膨らんだ乳頭を摘み上げる。くにくにといじり回し、脇を掴んで、指の腹で押し潰した。
「あっ、ぁあっ」
慣れ親しんだ快感が、鳩尾の辺りから迫り上がる。いやいやと頭を振ると、ちくちく指でいじめられた。
「ひぃっ、い……あっ」
「この、この体でっ、息子を誑かしたんだろう?!違うか?!」
「あっ、あぁ」
指でこねくり回された胸の突起は、赤く膨れ上がっていた。食べ頃だというように、舐めやすい大きさになった乳首に、章太郎はむしゃぶりついた。
舌で舐め回し、軽く歯を立てる。ぷっくりとした赤い実が、口の中で跳ねる。舌で転がすと、文彰の体が震え始めた。ぷちりと、左胸の実に歯を立てて、味わう。面白いほど文彰の体がびくびくするので、章太郎は夢中になった。
「はぁ、こんな、こんな体で、息子を誘惑したんだっ、この淫売っ!」
「ごめ、ごめんなさいっ、ごめんなさい!天外と、てん、がいと別れますっ、別れ――ひゃっ」
くちゃくちゃと歯で引っ張られたり、しゃぶられた。乳首を舐められるたびに、下半身が熱くなる。腰が揺らめくと、ごりっと固いものを押し当てられた。
布越しから伝わる、凶器の熱。文彰の喉から、悲鳴が漏れていた。
「別れますっ、わかれますからっ」
「ふざけるな!!」
章太郎は一喝した。淫らな体で、息子を狂わせた男。天外があんな常識のない行動をするのも、全てこの男のせいだ。そして、自分が「ふみあき」を求めるようになったのも、全部この男が悪い――
「謝罪で済む問題か!!」
乳首を舐めすぎて、章太郎の口は唾液塗れになっていた。本物の「文彰」は見ているだけで、口の中に唾が溜まる。口元を拭うと、ベルトに手をかけた。
「かいちょぉ」
文彰は乞うような目で、のしかかる男を見上げた。目は血走り、口から唾を飛ばす男の情に縋ろうとした。
「すいません、すいません……」
「謝罪すればいいと思っているのか?!息子の人生を滅茶苦茶にしてっ、お前はっ、お前は――」
章太郎の性癖まで歪めた。「ふみあき」を抱き続けても、心の隙間は大きくなるばかりだった。この虚しさを生んだのは、文彰だ。
章太郎は震える手で、文彰のベルトを緩め、前を寛げた。うっすらと下着が盛り上がっている――章太郎の高ぶりは一層、激しいものになった。
躊躇いもなく下着に手を入れ、文彰の性器を握る。すいません、すいませんと謝罪を繰り返していた男の口から、呻き声が漏れる。欲望のまま、文彰のペニスを扱き上げた。
「あっ、あぁ」
「償え、償うんだ!文彰っ!」
骨張った手に握られ、激しく上下される。前を弄られると、腰の辺りにズキズキと痛みが走る。次第に水音が混じり、じゅくじゅくとカウパーが滲んだペニスの先、鈴口からとろりと、ぬるい先走りが溢れた。
「――っ、ひっ」
文彰は目を見開いた。強圧的だった男の頭が下がり――パクリとペニスを咥えられた。じゅっと、先っぽを啜られ、腰が跳ねた。
「会長っ、やめて、汚いっ!やめて下さい!」
「ふぅ、んっ、ふっ」
ちろちろと先を舐められ、少しずつ咥え込まれていく。章太郎は今まで何人も「ふみあき」を抱いてきた。口を窄め、吸い上げながら裏筋を舐める。
天外にフェラを求められても、されたことはなかった文彰には、刺激が強すぎた。パニックになりながら、のしかかる男の肩を叩いた。
このままでは、口の中に出してしまう。相手は親会社の会長、経団連、天外の父親――混乱する文彰が、一際甲高い声を出した。
「――あっ」
口をだらしなく開け、文彰は射精していた。がくがくと震える太腿を掴まれ、章太郎の口腔に放出していた。
「あ、あぁ、あ……かい、ちょぉ……」
章太郎は飲み干そうと、勢いよく吸い上げる。出し切った達成感に浸る間もなく、新たな刺激を与えられ、身をくねらせた。
「……気持ちいいか?」
「……」
こくりと頭を動かす。文彰の反応に気を良くした男が、テーブルに手を伸ばした。口直しか、ワインボトルに口をつける。一口飲むと、文彰に口付けた。
ぼんやりとした頭のまま、シャンパンを口移しされる。時々、チョコレートのかけらを口に入れられ、酒で流し込まれた。
呼び出しの緊張から、夕飯が喉を通らなかった文彰は、すぐに酔い始めた。とろりと溶けた目で、愛撫する男を見上げる。
スーツを見出し、額から汗を吹き出した章太郎は、文彰に酒を飲ませた。体が少しずつ、弛緩していくのがわかる。触れた肌が、じんわりと汗を掻いていた。
もういいだろう――コンビニの袋を手に取り、ローションとゴムを取り出した。文彰が来る前に、開けておけばよかった。
本人を前にして、手の震えが収まらなかった。
「……ごめんなさい」
のしかかった男が、コンドームを装着する。ああ、そのつもりだったのか――いつか、天外がこっそり買って、短パンのポケットに忍ばせていたローションだった。
「いいんだよ、文彰。文彰の気持ちを見せてくれ」
これが「真摯な気持ち」なら、さっさと済ませればいいのかもしれない。金も謝罪も求められていない。一度抱かれたら、終わるかもしれない――文彰は抵抗を止めた。初めて口淫された気持ち良さで、テーブルの下、体がぐったりと動かなくなっていた。
「文彰……」
たらたらとローションを股間に垂らされた。毎晩、天外に弄られ、暴かれた場所に、硬い陰茎が押し当てられる。
足を持ち上げられ、文彰は男の首に両腕を回した。後孔は新しい男を受け入れようと、収縮する。文彰の慣れた態度に――章太郎が怒りを抱いているとは知らず、期待から足を絡ませた。
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