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2020年

ステイファーム4-2「小休憩〜皐月先生&ヒロサダ編〜」後編

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 「………ヒロサダ君……」
 ヒロサダの布団の上に座っている2人。静寂な皐月先生の部屋の沈黙を最初に破ったのは、皐月先生だった。
 「ヒロサダ君、私ね、今の気持ちを正直に言うわ………」
 「は、はいですじゃ~…………」
 急な展開に戸惑いを見せるヒロサダ。今の気持ちとは一体何なのか、少なくとも自分に関することであろうと思ったヒロサダは、唾を飲み込み少し身構えた。
 「私ね………、今すっごく………」
 そう言って皐月先生は溜めを作った。心の中で何かを整理しているようにも、言うのをためらっているようにも、はたまた何を言おうかこの瞬間に考えているようにも思える。
 そんな皐月先生は、ヒロサダを見つめながら、ようやく口を開いた。
 「……おそっちゃいたい…」
 「!!!…………」
 皐月先生の表情から読み取れることは、少なくとも冗談を言っているようではなかったということ。こういう時、はぐらかすような返事でも出せればいいと思ったヒロサダだったが、いざとなると、声が出ないものなのだということを理解した。
 声が出せないヒロサダに対し、皐月先生は無言のまま前のめりになり、徐々に徐々にとヒロサダへ顔を近づけている。皐月先生から視線を目に刺されているヒロサダは、段々と開いていく皐月先生の胸元に、目をやることは許されなかった。
 
 皐月先生の顔は、ヒロサダの数センチ手前で止まった。大きく開いた胸元からのぞいているキャミソールも、重力には勝てていないようだった。
 「………ふふっ。……驚かせてごめんね…」
 しばらくその体勢を保ったのち、皐月先生はヒロサダにギリギリ届く程度の声でそうささやいた。相手からどう見られているのかを全く考えていないようだった皐月先生に対し、ヒロサダは次に移った展開に、頭がついていっていない。
 「私ね………、自分の想いを押さえ込むこと、やめたの」
 完全に固まっているヒロサダをよそに、皐月先生は次々と言葉を繋ぐ。
 「眞名井さんとか松野さんは、私なんかよりヒロサダ君と近い関係よね。でも私も、ヒロサダ君のこと、2人に負けたくないの。今までは教師と生徒っていう関係に縛られていたけど………、そんな関係、好きな気持ちがあれば関係ないって思えてきたの。ふふっ、これは松野さんのお陰なんだけどね」
 皐月先生はヒロサダの布団から立ち上がり、すぐ隣の自分のベッドに腰掛けた。その動きに反応したヒロサダは、ようやく目の焦点が戻ってきた。
 「だから、ヒロサダ君への気持ちを正直に伝えるようにするわ!!!ふふっ、さっきのは、眞名井さんと松野さんが居ないから言えたことだから、2人にはナイショよ?」
 そう言った皐月先生は、心の底からの笑みが溢れていた。そんな皐月スマイルによって、ヒロサダの声も戻ってきた。
 「さ、皐月先生…………」
 「ふふっ。だからって、襲ったりはしないわよ???それじゃフェアじゃないもんね。私は眞名井さんと松野さんと、正々堂々とヒロサダ君のことで競い合いたいの!!!」
 本当に24時間以上眠っていない人のエネルギーなのか。そのエネルギー源は自分なのではという考えが、ヒロサダの頭の隅をよぎった。
 「そ、そういうことですかじゃ~」
 「ふふっ。ちょっと残念だった???」
 「そ、そ、そ、そんなことないですじゃ~!!!奪い合われているワシ自身が言うのも変な話ですがじゃ、………不公平な形でアプローチされるのは……嫌ですじゃ~」
 まだまだ始まってもいないが、この旅で3人の乙女に関する多くのことを知ったヒロサダは、思考回路が3人のペースに巻き込まれたように変化していた。
 「ふふっ。ヒロサダ君ならそう言ってくれると思ったわ。きっと眞名井さんと松野さんも、断腸の思いでヒロサダ君を私の部屋に送ってくれたと思うの。だから今日はもう寝ましょう!!!」
 「分かりましたじゃ~」

 「ヒロサダ君。おやすみ」
 「おやすみなさいですじゃ~」
 皐月先生はベッドに、ヒロサダは布団にそれぞれ入った。
 ヒロサダと同じ部屋に2人っきりという状況だけで、大満足だった皐月先生。おやすみの挨拶までわすことができ、これ以上言うことはないと、眞名井ちゃんと松野さんに感謝してから眠りについた。
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