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2020年

ステイホーム7-2「皐月先生の夜行運転with松野さん」前編

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 「ンゴ~………………………」
 「スー………………スー………………」
 現在時刻は午後10時32分。疲れもあってか、後部座席の2人はすっかり眠っている。
 契約通り、眞名井ちゃんは全くヒロサダにくっつくことなく、しっかりとシートベルトをして座席の定位置でリクライニングを下げ眠っている。両腕と両足の数ヶ所にくっきりと付いてある歯形から、相当想いを押し殺していたことが見受けられる。

 「皐月さつき先生、今日はありがとうございましたかなぁ~」
 「ふふっ、そんなに改まらなくても大丈夫よ~」
 平日の夜、車通りの少ない高速道路を快適に飛ばす皐月先生。助手席の松野さんは、ヒロサダから貰った栄養ドリンクを左手に握り、窓の外に目をやっている。
 
 「ねぇねぇ松野さん、せっかくだから2人でお話しましょうよ!」
 「はい~」 
 助手席の窓から視線を運転席に移した松野さん。その視線を感じた皐月先生は、サービスエリアで買ったアイスコーヒーを一口飲み、再び口を開いた。
 「松野さん、学校はどう???」 
 「………ちょっと前までは、あまり楽しいこともなかったけど、最近は毎日楽しいかなぁ~」
 クラスでは給水ポイント係の松野さん。学校から支給される予算で、クラスメイトの喉の渇きを潤すために多種多様な飲み物を準備する毎日。特に楽しみもなく、ただただ過ぎてきた毎日だった。
 「そう~。学校が楽しくなったきっかけっていうのは、やっぱりヒロサダ君???」
 「………ヒロサダ君のことを好きになって、確かに毎日楽しくなったけど………、やっぱり一番は、まなりんと仲良くなれたことかなぁ~」
 「まなりんっていうと………眞名井さんね!!!」
 「はい~」
 身長169センチでスタイル抜群、容姿端麗の松野さん。そんな松野さんは、身長177センチで完璧なモデル体型ブルペン女子の眞名井ちゃんと、美人同士ということで比べられることが多かった。そして眞名井ちゃんの完璧な容姿には適わなかった。そのため、美人なのにモテないというコンプレックスを感じていたのだが………。
 「………まなりんって、周りの目を気にせずに行動するっていうか、ヒロサダ君にぞっこんすぎる態度をとっているとか、それなのにモテまくっているところとか………、そういう姿を見て、自分とは違う人間なんだなぁ~って松野思っていたんだけど………。こんな松野と仲良くしてくれて、ニックネームで呼び合ったり、ヒロサダ君のことについて盛り上がったりして、松野の人生一気に明るくなったと思うかなぁ~」
 「そう、っぐ、ま、眞名井さんがっ、っぐっふっ」
 松野さんの、眞名井ちゃんに対する想いを聴き、涙をこらえることができなかった皐月先生。いい友達を持ったね、と続けて言おうと思ったが、声にならなかった。
 
 現在時刻は午後11時18分。松野さんと眞名井ちゃんの友情話に花が咲いた2人。ヒロサダの話ばかりではなく、たまにはこういった話をするのもいいと思った松野さんなのであった。

 次のパーキングエリアまでは、もう少しかかる。
 
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