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2020年

ステイホーム5「長~い道中」

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 4人を乗せた車は、ガソリンスタンドで燃料をしっかりと蓄え、高速道路を走っている。
 現在時刻は午後6時半。
 「皐月さつき先生、一体どこに行くんですかじゃ~………」
 ヒロサダ宅を出発してからすでに8時間が経過している。数十のインターチェンジを通り過ぎてきたが、まだまだ高速を降りる気配はない。
 「グフフッ、ヒロサダ君、待ちきれないの~???」
 「松野は、まだまだ平気かなぁ~」
 眞名井ちゃんと松野さんは、ヒロサダと同じ密閉空間にいるというだけで幸せなため、この時間が永遠に続いてもいいとさえ思っているようだ。

 「ふふっ。世間では三密がどうたらこうたら厳しいけど、ヒロサダ君との密閉なら、むしろ推奨されるべきよね~」
 「グフフフッ。私もそう思います!!!ヒロサダ君にグフッ、密集グフフフッ」
 「あとはぁ~、ヒロサダ君に密接!!!松野もそう思うかなぁ~!!!」
 3人の乙女に、ソーシャルディスタンスは関係ないようだ。

 「しかし、どこに行くんですかじゃ~!?!?!?」
 助手席に座りっぱなしで、ヒロサダは尻が痛くなっていた。
 「グフフフッ!!!着いてからの、お・た・の・し・み!!!」
 「ふふっ。きっとびっくりするから~!!!」
 「楽しみに待っててほしいかなぁ~!!!」
 どうやら、皐月先生以外にも、眞名井ちゃんと松野さんは目的地を知っているようだ。
 
 「わ、分かりましたじゃ~………………。目的地は楽しみにしておくとして、あとどのくらいで着くのかだけ教えてほしいですじゃ~」
 とりあえず尻が痛いヒロサダは、早く車から降りたかった。
 「そうねぇ~………………あと半分ってところかしら」
 「ま、まだ半分なんですかじゃ~!?!?」
 ヒロサダは驚きすぎて、シートベルトが喉元に食い込むほど大きく体を前後に揺さぶった。その話が本当ならば、後8時間以上かかることになる。真っ先に自分の尻へ心配の矛先を向けた。
 「ヒロサダ君と同じ空間で一夜を過ごすなんて、グフフフッ、お正月振りね!!!」
 「松野も、とってもワクワクしてるかなぁ~!」 
 後部から、ギラついた視線を感じたヒロサダなのであった。
 「目的地まで、一気に行くわよ~!!!」
 「はいっ!!!」
 「ぉ~!」

 「さ、皐月先生は運転大丈夫なんですかじゃ~???」
 あまりの長さに、尻はもう助からないと絶望したヒロサダ。次に心配するのはやはり運転手の皐月先生のことだ。
 昼休憩をはさんでから、休むことなく運転し続けている皐月先生。休憩を取らずにこのまま走り続けるのならば、長距離トラックドライバーであれば労働基準法に違反してしまう。
 「あら~!!!ヒロサダ君、そんなに私のことを心配してくれて!!!私なら大丈夫よ!ふふっ」
 「皐月先生も早く運転を終えて、ヒロサダ君との時間を過ごしたいんですよね!!!」
 「松野も、まなりんと話したんだけど、到着したらまずは皐月先生にヒロサダ君と過ごしてもらおうって」
 「眞名井さん、松野さん~!!!!」
 涙ぐみながら歓喜する皐月先生。3人の乙女の友情は、案外がっちりしている。
 「よぉ~し!!!疲れなんて感じないわよ~!!!」
 労働以上のご褒美が待っていると分かった皐月先生は、これからさらに一段ギアを上げるため、最寄りのサービスエリアへと車を飛ばした。
 
 「つ、着いたらワシは皐月先生と………………。一人の時間が欲しいですじゃ~!!!!」
 嘆いてはいるが、サービスエリアで尻が助かると安堵したヒロサダ。そんなヒロサダのことをよそに、着いた先のことをあれこれ想像し、興奮があふれ出している乙女3人なのであった。
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