優しいおしごと。

鈴木トモヒロ

文字の大きさ
上 下
8 / 16

第8話

しおりを挟む
今日、本来なら何事もなく祖母が帰ってくる日だ。

両手にはお土産をいっぱい持って。

でも今回は、祖母が帰って来ないかもしれない。

旅行で泊まっているホテルが火事になってしまったからだ。

母や祖父は「大丈夫だよ」と言っていたけど不安と心配で、いてもたってもいられなかった。

幼稚園の男の子は「もしかしたら、おばあちゃんは帰って来ないかも?」と言うし...。

私はどうしたら良いか、分からなかった。

今日は日曜日。

朝から私はリビングに掃除機をかけた。
何度も何度もかけた。

祖母との繋がりを、「お手伝い」し続けることで感じていたかったからだ。

テーブルの上も拭き掃除をした。
これ以上ないくらい、綺麗にきれいに拭いた。

それでも不安は感じなかった。
当時は分からなかったけど、きっとあの時、大切な人の「死」への不安を感じていたのかもしれない。

幼かった私は、無意識に感じていたことだったケド...

私の出来るお手伝いが無くなり...

泣き出しそうになっていた。

そんな時、祖父が話しかけてきた。

「どうした?悲しそうな顔をして?」

私は何も言えなかった。

祖父は何故か折り紙を持ってきた。
「一緒に鶴を折るかい?俺が病気で入院した時に婆さんが鶴を持ってお見舞いに来てくれたんだ。それが嬉しくてね」と話してくれた。

祖父は生まれつき肺が悪かったそうだ。
20歳まで生きられないと診断も受けたそうだ。

そんな祖父が長生き出来たのは、祖母の存在が大きかったと、折り紙を折りながら話してくれた。

何で祖父がそんな話をしてくれたのかは、わからない。

でも、私と同じくらい祖母のことを祖父が好きなことがよく分かった。

「婆さんが帰ってきたら、折った鶴を渡すといい。婆さんはお土産を買って帰ってくるよ」といい、祖父は仕事をしに行った。

日曜日なのに、急な依頼が入り、急遽自宅の工場で祖父は仕事をすることになったそうだ。

車のエンジンの一部を加工する仕事。
祖父は1人で機会を動かして仕事をしている。

必ず、家にいるから私は1人で怖い思いをすることはなかった。

この時ほど、頼もしく、暖かく、祖父の背中が誇らしく思えた。

私は元気になれた。

(おばあちゃんが帰って来たら、折った鶴を渡そう)と、祖母が大切に育てている花々に水をあげた。

いっぱいいっぱい。
祖母が無事であるように
願いを込めて。

昼ごはんを食べ終わったころ。
私は眠くなり、お昼寝をした。

そんな時、夢をみた。

祖父と祖母が手を繋いで歩いていた。
2人とも若い姿のようだった。

海辺を歩いていた。
祖父は凛々しく、カッコよく。
祖母はとても綺麗だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【R15】メイド・イン・ヘブン

あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」 ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。 年の差カップルには、大きな秘密があった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一人用声劇台本

ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。 男性向け女性用シチュエーションです。 私自身声の仕事をしており、 自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。 ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...