優しいおしごと。

鈴木トモヒロ

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第4話

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私の家には中型犬がいた。

名前は「コロ」
母が名付け親だ。

コロは祖父、祖母、母の言うことは、しっかりと聞いていた。

しかし、私に対しての態度は全く違っていた。

一言で言うと「怖い」
激しく吠えるのだ。

首輪に鎖がしっかりと繋がっているけれど、引きちぎらんばかりに私に飛びかかろうとする。

確かに、私は当時幼稚園生。
コロの方が体も少し大きかったから、明らかに舐められていた。

犬は家族に対して順位をつけるそうだ。

きっと祖父が1番。
この家の主人だから。

2番目は祖母だろう。
餌をあげたり、面倒を見ているから。

3番は母。
コロを弟のように可愛がっていたそうだ。

4番はコロ。

そして...わたし。

私はどうしたらいいの?

幼稚園から帰ってきたら吠えられて。
祖母と公園に行こうとしたら
私だけ吠えられて。

コロの水を新しいのに変えようとしたら吠えられて...。

何なの!!

いつも私は祖母の後ろに隠れるようにしてコロの側を通っていた。

今思えば、初めて恐怖を感じたのは「コロ」の存在かもしれない。

幼くして、自宅でイジメを受けていたのだ。

やり返したくても
「ウゥゥ~」という唸り声で、私は竦み上がってしまう。

「おばあちゃん、コロと仲良くするにはどうしたらいいの?」とある日私は質問した。

祖母は「心よ、心。心で語れば通じ合えるのよ」と言った。

今の私の言葉で言うと「ちょっと、この人何言ってるか分からない」だ。

もちろん、幼い私はチンプンカンプン。

心って何?
話以外で語るって、どうやるの?
と、頭のまわりをハテナマークがグルグルしていた。

「じゃあ、コロにエサと水をあげてみて。おばあちゃんのお手伝いをしてくれる?」と祖母は言った。

(お手伝い!!)
私はウキウキした!

「やる!!」

早速、水を持ってコロの元へ向かった。

予想通り、激しく吠えられた。

(今日はコロと仲良くしたい)
勇気を出して、水をコロのいる柵の中に置いた。

ただ、大変なことが起きてしまった。

水を置いた場所は、コロが届かない場所だったのだ。

鎖の長さが足りなくて、水が飲めないコロ。
激しく私を睨みつける。

(日頃の恨み...違った。何とかしないと)

私は柵の中に手を伸ばし、水の入った器を押した。

(もうちょっとで届くのに)

そんな中、私の瞳にあるものが映ったのだ!

(サルの手だ!)
祖父が愛用していたサルの手。
これを使えば、きっと届く!

あっ、ちなみに「サルの手」は俗に言う「孫の手」です。

祖父がサルの手と呼んでいた為、私はそのように覚えてしまいました。

余談ですが、とある修学旅行で訪れたお土産屋さんで「サルの手が売ってる」と孫の手を指差した所、大爆笑をとったのは言うまでもありません。

話を戻しますが、私はサルの手でコロの水の入った器を押しました。

コロはこれまでにないくらい私に吠えました。

サルの手越しですが、恐怖でプルプルと震えて水は半分くらい溢れてしまいました。

今思うと、コロも恐怖を感じていたのかも知れません。

自分の水を得体の知らないサルの手が押して自分に近づけてくるのですから。

私だったら怖いなぁ。

さて、気を取り直して私は餌を運びました。

やっぱりサルの手を使い、水と同じやり方をしました。

餌は溢れなかったのですが、地面は水で濡れていたので、餌を入れた器はビチャビチャです。

きっとコロにとって、残念な食事になってしまったのでしょう。

次の日からは、更に激しく吠えられる私の姿を家族は見ることになります。

祖母は「心よ!心。頑張って!」と応援してくれました。

お手伝いを出来て嬉しかったけど。

どうして?
どうして!
おばあちゃん!!
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