奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

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『女嫌いのあなたまでもが、そうなるということはこの女……ひょっとしたら、人間ではなく我々の──』

 黒髪がまた何かを言うと、金髪の目が僅かに動揺する。

『──唯一の女だというのか?』

 黒髪は頷きながら、床に踞った卯月の腕を取り、また抱き寄せた。卯月には為す術もない。

『その証拠に私はもう堪えきれません。この女の血を吸い付くして、そのままこの場所で……』

 黒髪の息が耳許でかなり荒くなっている。

 卯月には彼らの会話が全く理解出来なかったが、黒髪の様子が明らかにおかしくなっている事に危機感を感じていた。

(何とかしてこの手を振りほどいて逃げなければ……)

 しかし、卯月には逃げる手立てがない。どうしようかと迷っているうちに金髪が突然罵声を上げ、次の瞬間、黒髪の首が飛んだ。

 一面に吹雪のような血の雨が降り注ぐ。

 何が起きたのか分からないまま卯月は全身に黒髪の血を浴びた。白い肌に血の朱が斑に色づく。

 卯月はしばしの間、何が起こったのか理解できず、呆然とした表情のまま硬直していた。そして、金髪の爪先から見える血の付いた刃物を見て状況を理解すると、時間を置いて喉の奥から悲鳴を絞り出した。

 その間、首を落とされた胴体は四つん這いで床を這い回った。どうやら無くなった首を探しているらしい。ホラー映画のような奇妙なその光景に、卯月は意識を失いかけた。だが、次の瞬間、腰に新たな腕が絡み付き、卯月は反射的にその主を振り仰いだ。

 金髪の真っ赤な瞳が目に飛び込んでくる。
 卯月は身震いした。紅砂と同じ朱色の瞳だが、与える印象は天と地ほどの差があった。赤い瞳は冷たい視線を卯月に投げたあと、床を這い回るだけの胴体を無視し、黒髪の首をもう片方の手で掴み取ると、その耳許に話しかけた。

『この愚か者がっ!お前と女の気色悪い交わりをこの僕に見せようというのか? 反吐が出る!この女が本当に唯一の女なのか、僕が確認する。それまでお前は大人しく首を探して待っていろ!』

 金髪が何かを言うと同時に、黒髪の首は遠くへ放り投げられ、卯月は肩に担ぎ上げられた。

「いや!離してっ!!」

 卯月は力の限り暴れたが、金髪の腕はびくともしない。卯月の視界に3階建ての旅館の屋根が映った。途端に夜風が冷たく感じる。卯月は宙に浮いていた。このまま一糸纏わぬ姿で冬の夜空を滑空されたら凍え死ぬ。
 卯月は歯をガチガチと鳴らしながら、無駄だと思いながらも、日本語で、「離して!降ろして!」と手足をバタつかせながら懇願した。



 
 丁度その頃。旅館の一室から窓の外を覗き見た刈谷瀬菜は茫然と息を飲んだ。

「な、な、な、な、何で卯月ちゃんが帰来島のこの旅館にいるのよ!」

 そして、運悪く高位結鬼と思われる金髪の男に連れ去られてしまった。

「最悪だわこりゃ……」
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