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夕刻が迫っていた。
室内に時計はない。
畳の上に落とした庭木の影が、作業を始める前と比べて細く長く伸びていた事に気づいた彼女は、相当な時間を費やしていた事に、焦りを感じた。
乾いた洗濯物を足で畳み、今度はそれを積み上げる作業に移ろうとしていた。両腕がないせいでバランスを取るだけで精一杯だ。傍らから白い男の手がジーナの肩を抱いた。
ジーナは、礼を言い、コンラッドの青い瞳と目が合う。
海のように深く澄んだ青い瞳に、心から癒される。
だが、今の彼の瞳はジーナの知っている瞳とは違って見えた。
沈み始めた太陽は、朱色に染まった和室のコントラストを強め、二人の影を長々と畳に落とした。
夕日がコンラッドの紅髪をサテンのように輝かせ、半顔を影で塗りつぶしたその美貌に、彼女は夕日とは別の要因で頬を朱色に染めた。
「もう大丈夫……有難う……」
「今日はそれ位にしたらどうだ? 何でも以前のように一人でやろうなどと思うな……。ゆっくり、出来るようになればいいだろう? ……俺は此処に居る」
コンラッドの青い瞳が、ジーナを優しく映している。
ジーナは彼の澄んだ青い瞳が好きだ。
その大好きな瞳に、自分が映る幸福を感じれば感じるほど、彼女は臆病になった。
「此処に……いつまで居てくれるの?」
問いは、不安の証。
「可能な限り此処に居るよ」
コンラッドの答えに、ジーナは目を伏せた。
「それは、明日の朝には居なくなるかもしれないし、もしかしたら今夜かもしれない……?」
コンラッドの眉が片方攣りあがる。
「そんな直ぐに居なくなるわけないだろう?」
「だって曖昧なのよ……、あなたの言い方」
ジーナは涙声で言った。
コンラッドは居なくなることを否定しなかった。
「それは……、悪かったな……」
曖昧なのは、確たる想いが無いからだ。少なくとも彼女はそう思った。
コンラッドの心に自分が住んでいない事を、ジーナは知っていた。
「……いいよ。でも……どうせなら、ずっと側にいるとか、そういう一言の方が嘘でも安心するのに……」
「……」
コンラッドは紅髪を掻き毟り溜息を付いた。どうにも何かが噛み合わない。
「ごめんなさい……」
小さく呟くジーナの声がした。
「ごめんなさい……」
もう一度、聞こえた。
何に対して、謝っているのか?
「何でさっきからお前が謝るんだ!?」
コンラッドは堪らず、苛立たしげに尋ねた。
ジーナは何も言わず、瞼を伏せる。
「……まあ、いい。風呂にでも入るか? 準備できているよ」
ジーナは弱々しく頷き、立ち上がった。
脱衣所に入るなり、コンラッドがブラウスのボタンを外してくれた。
するりと白いブラウスが床に蟠る。
コンラッドはふんわりと優しくジーナを抱き寄せ、背にあるブラのフォックを外した。
ツンと上向いた朱鷺色の先端と小ぶりな膨らみは、まだあどけなさを残している。
ジーナは目を閉じ、顔を反らせた。コンラッドの視線が肌を撫で付ける感覚に、気恥ずかしさが満ちてくる。
幾度と無く彼に抱かれた身とはいえ、入浴前に服を脱がされる行為は未だに慣れない。この時ばかりは、コンラッドと視線を合わせるのが怖い。
彼が自分の何処を見ているのか……? どんな風に感じているのか……?
それを知るのが怖いのだ。
浴室に入ると、コンラッドはジーナの体を丁寧に洗ってくれた。
ジーナは始終目を伏せたまま過ごす。
コンラッドの手が、腰を、胸を、腋を洗う度、ジーナは羞恥で身を捩った。
(コンラッドは腕を引かれ失った自分をどんな目で見つめているのだろう……)
毎日同じ問いを投げかけつつ、ジーナはそれを確かめる事が出来ずにいた。
※
指が……。
柔らかな肌を這う度、瞼を震わせ、身を捩る滑らかなジーナの肢体に、コンラッドはこの上ない、美しさを感じていた。
両腕を根元から切断された体が、湯で濡れ、艶々と輝き、両足を擦り合わせる優美な曲線は、ルーブル美術館に飾られた彫刻を思わせた。
──両腕を失ったヴィーナス。
帰来島の砂浜で、コンラッドと再会したジーナは、涙で頬を濡らしながら訴えた。
『──私には、もう……あなたを抱きしめる両手が無いの……!
──私には、もう……あなたと手を繋ぐ右手が無いの……!
──私には、もう……あなたを引き止める左手が無いの……!』
ジーナはそう言うと、涙の雫を海に振り撒き、コンラッドを見つめ遠ざかろうとしていた。
その言葉と表情で、ジーナが今までどれだけ自分の事を愛していたのか、コンラッドは初めて実感した。
繋いだ手が温かかったのは、体温だけではなかったのだ。
紅髪をまさぐる指先が心地よかったのは、夢の中に居たわけではなかったのだ。
別れ際に、袖を掴んで離さない彼女を、抱きしめたくなったのは、己が孤独を恐れていた訳ではなかったのだ。
ジーナと過ごした穏やかな日々──。
静かに流れた不思議と心地よい時間は、ジーナが齎してくれていたのだ。
コンラッドの中で何かがこみ上げる……。
するとコンラッドは、ジーナの前に膝を付き、優美な曲線を描く腰を抱き寄せ、黒い茂みを割って、柔らかな舌先をジーナの花弁に押し付ける。 ジーナから、熱い吐息が零れた。
「ぅ…はぁ……だ…め……」
固く閉じられていたジーナの瞼が開き、潤んだ瞳でコンラッドを見つめた。
ようやく自分を見たジーナに、コンラッドは安堵し、舌の動きに熱が篭る。執拗に舐め上げ、こすり、突く。熱く震え、蜜を滴らせ始めた花弁を開き、コンラッドは愛撫を続けた。
ジーナは堪らず声を上げ、腰を浮かせる。
「や…ぁ……あぁ…や……」
途切れ途切れに聞こえる喘ぎ声が、余計に高揚させる。ジーナから吹き付ける香も、コンラッドの脳髄を刺激し、性の高ぶりを増長させた。
コンラッドは茂みから顔を離し、ジーナを浴室の壁に押し付け、右足を抱えて大きく開かせると、潤った蜜壷に突き入れた。
「あ……、あぁぁぁ……!」
下肢の間を押し開かれてゆく感覚に身震いしながら、ジーナの唇は自然と開かれ、声が溢れる。
喘ぐ彼女の声をその口で受け止めるかのように、コンラッドは唇を重ね舌をねじ入れた。
くぐもったジーナの喘ぎ声が、さらに高みへと向かい、下肢の間を押し上げる動きに激しさが増す。
今まで閉ざされていた子宮口は、この時ばかりはやわらかく開かれ、彼のモノを深くまで受け入れる。
膣の膨大部を超え、先端が子宮口を抜けると、その部分の圧迫感に彼は呻いた。
はぁ……という、吐息を零しながら、ジーナの首筋を舌で濡らす。
奥へ…奥へ…さらに奥へと、欲望は増し、脳内は熱く煮えたぎった。
※
ジーナにとってもそれは同じだった。
子宮上部を突き上げられる快楽は、脳内を白く染め上げ、瞳から自然と涙が溢れた。
哀しい訳でも、痛い訳でもないのに……。
どのような感情が、涙を流させるのか、ジーナは自分でも分からなかった。
強いて言うなら、全ての感情を内包し、溢れ出るその想い……。
(抱きしめたい……!この人を、きつく、強く、今の想いを忘れるまで……)
ジーナはコンラッドを抱きしめる事で、今の感情を解放したかった。……満足させたかった。しかし、ジーナには彼を抱きしめる両手が無い。
だから、ジーナは泣いた。
激しく突かれながらまた彼をきつく抱きしめたい!
それは、二度と叶わない夢と化した。
ジーナの頬を一筋の涙が零れた。
それに気付いたコンラッドは、ゆっくりと頬を寄せ、ジーナの涙を口にすると、愛しげにその顔を唇で愛撫した。
そして、彼女をきつく抱きしめる。
ジーナが身震いした。
(……あぁ……、この感覚──)
ジーナは自身の欲望がコンラッドによって満たされた事を知った。
抱きしめられる喜びは、腕を無くして、ようやく真の実感をジーナに与えてくれたのだ。
※
浴室から出た後も二人は何度も求め合った。
月明かりに照らされた室内は、ひどく静かで、外から潮騒の音が心地よく耳に響いていた。
「……傍にいて……、ずっと此処に居て……そう約束して……」
今度は素直な気持ちが出た。
だが、それでもジーナの望むものを、コンラッドは与えてくれなかった。
──沈黙。
ジーナは拗ねたように
「いじわる……」
と、呟く。
「そういう訳ではない」
「じゃあ、どういう訳?」
「……」
やっぱり、沈黙。
ジーナは傍らに寝そべるコンラッドに擦り寄ると、その耳たぶに噛み付いた。
そうするしか、沈黙する彼を振り向かせる事が出来ないからだ。
コンラッドは顔を顰めて、
「くすぐったい」
と、言った。そして、真顔に戻り、口を開いた。
「……あいつの事を考えていた……」
あいつとは、輝く金色の髪をしたコンラッドとよく似た男の事だ。すなわち……、ジーナの腕を切り落とした張本人。
ジーナもまたあの男を思い出す。
瞳を見開き、その深淵に黒い炎を燃え上がらせて──。
コンラッドはそんなジーナを見るに付け、溜息を零す。
純朴で温かな装いだった彼女が、豹変する時──。
温かで淡い色彩を放っていたジーナに、どす黒い染みを今なお垂らし続ける自分の分身に、コンラッドは初めて怒りを感じた。
決して、手を出すなと……そう伝えて行ったのに、あいつはコンラッドの言葉を無視し、ジーナを襲った。
その喉に牙を立て、あまつさえ両腕を奪う行為に、一体何の意味があったのだろう……?
こんなに小さくて、温かく、優しい彼女を、どうしてこうも痛めつけられるのか……?
しかし、あいつに対する怒りは、それだけではなかった。
──彼女の視線。
これは明らかに別人だ!
その視線はまるで、人民を苦しみから解き放とうとする革命の女神のような力強さがあった。
どんな苦境にも屈しない、絶対的な意思を持って輝く眩い光。
その瞳の先に映っている者は、自分ではない。
──あいつだ!
自分を見つめる目とは違う、ジーナの情熱的な瞳がコンラッドの心を惹き付けた。
しかし、この瞳がコンラッドに向かう事は無い。この躍動感ある瞳を引き出したのは、紛れも無くあいつなのだ。
遠くを見つめる凛とした、ジーナの横顔。
──なんて、美しい……!
コンラッドは無性にこの見知らぬ女が欲しくなった。
仰向けに寝て宙を仰ぐジーナの視線を遮るように、青い瞳が覆いかぶさる。するとジーナの黒瞳に灯る炎は瞬時に消え、穏やかな優しい潤んだ瞳に戻る。
コンラッドは悲しげに目を細めた。
(──ああ、俺が欲しいのは、この瞳ではない!)
「……どうしたの?」
ジーナを見つめるコンラッドの瞳が以前と違っている事に気づいたジーナは眉を寄せた。
そして、コンラッドの瞳が真紅に輝いた刹那、首筋に穿たれる鈍い痛みと快感。
「あぁ……!」
行為に酔いしれたのは、コンラッドの方ではなく、ジーナの方だった。
(この人は……こんなにも……)
以前、ジーナの首に同じように牙を立てたアドリエンと似て非なる感覚に、二人の男の根底が見えた。
闇が……、こんなにも愛おしいと思ったのは、すでにジーナが別のものに変化した証であった。
コンラッドの唇が離れた。
真紅に光るその瞳が、憎きあの男を想起させる。
胸の奥で何かが燃え上がり、ジーナは勢いよく唇を重ねた。
似て非なる二つの心と二人の男──。
何かが違うと思いながら、これこそが真実だった。
嘘は誠であり、誠は嘘だ。
だが、それでもジーナは囁く。
「あなたの事……愛してるから……」
だが、ジーナを見つめるコンラッドの瞳の紅は、全く逆の感情を表していた。
(ああ……きっと、これでいい……これでいいのだ)
しかし、それは同時に間違っていた。
コンラッドはジーナから離れ、服を羽織ると、風に乗って闇の中へと消えた。
残されたジーナは、淡い月明かりの中、潮騒の音に包まれながら静かに眠った。
白いシーツを、朱に染めながら──。
室内に時計はない。
畳の上に落とした庭木の影が、作業を始める前と比べて細く長く伸びていた事に気づいた彼女は、相当な時間を費やしていた事に、焦りを感じた。
乾いた洗濯物を足で畳み、今度はそれを積み上げる作業に移ろうとしていた。両腕がないせいでバランスを取るだけで精一杯だ。傍らから白い男の手がジーナの肩を抱いた。
ジーナは、礼を言い、コンラッドの青い瞳と目が合う。
海のように深く澄んだ青い瞳に、心から癒される。
だが、今の彼の瞳はジーナの知っている瞳とは違って見えた。
沈み始めた太陽は、朱色に染まった和室のコントラストを強め、二人の影を長々と畳に落とした。
夕日がコンラッドの紅髪をサテンのように輝かせ、半顔を影で塗りつぶしたその美貌に、彼女は夕日とは別の要因で頬を朱色に染めた。
「もう大丈夫……有難う……」
「今日はそれ位にしたらどうだ? 何でも以前のように一人でやろうなどと思うな……。ゆっくり、出来るようになればいいだろう? ……俺は此処に居る」
コンラッドの青い瞳が、ジーナを優しく映している。
ジーナは彼の澄んだ青い瞳が好きだ。
その大好きな瞳に、自分が映る幸福を感じれば感じるほど、彼女は臆病になった。
「此処に……いつまで居てくれるの?」
問いは、不安の証。
「可能な限り此処に居るよ」
コンラッドの答えに、ジーナは目を伏せた。
「それは、明日の朝には居なくなるかもしれないし、もしかしたら今夜かもしれない……?」
コンラッドの眉が片方攣りあがる。
「そんな直ぐに居なくなるわけないだろう?」
「だって曖昧なのよ……、あなたの言い方」
ジーナは涙声で言った。
コンラッドは居なくなることを否定しなかった。
「それは……、悪かったな……」
曖昧なのは、確たる想いが無いからだ。少なくとも彼女はそう思った。
コンラッドの心に自分が住んでいない事を、ジーナは知っていた。
「……いいよ。でも……どうせなら、ずっと側にいるとか、そういう一言の方が嘘でも安心するのに……」
「……」
コンラッドは紅髪を掻き毟り溜息を付いた。どうにも何かが噛み合わない。
「ごめんなさい……」
小さく呟くジーナの声がした。
「ごめんなさい……」
もう一度、聞こえた。
何に対して、謝っているのか?
「何でさっきからお前が謝るんだ!?」
コンラッドは堪らず、苛立たしげに尋ねた。
ジーナは何も言わず、瞼を伏せる。
「……まあ、いい。風呂にでも入るか? 準備できているよ」
ジーナは弱々しく頷き、立ち上がった。
脱衣所に入るなり、コンラッドがブラウスのボタンを外してくれた。
するりと白いブラウスが床に蟠る。
コンラッドはふんわりと優しくジーナを抱き寄せ、背にあるブラのフォックを外した。
ツンと上向いた朱鷺色の先端と小ぶりな膨らみは、まだあどけなさを残している。
ジーナは目を閉じ、顔を反らせた。コンラッドの視線が肌を撫で付ける感覚に、気恥ずかしさが満ちてくる。
幾度と無く彼に抱かれた身とはいえ、入浴前に服を脱がされる行為は未だに慣れない。この時ばかりは、コンラッドと視線を合わせるのが怖い。
彼が自分の何処を見ているのか……? どんな風に感じているのか……?
それを知るのが怖いのだ。
浴室に入ると、コンラッドはジーナの体を丁寧に洗ってくれた。
ジーナは始終目を伏せたまま過ごす。
コンラッドの手が、腰を、胸を、腋を洗う度、ジーナは羞恥で身を捩った。
(コンラッドは腕を引かれ失った自分をどんな目で見つめているのだろう……)
毎日同じ問いを投げかけつつ、ジーナはそれを確かめる事が出来ずにいた。
※
指が……。
柔らかな肌を這う度、瞼を震わせ、身を捩る滑らかなジーナの肢体に、コンラッドはこの上ない、美しさを感じていた。
両腕を根元から切断された体が、湯で濡れ、艶々と輝き、両足を擦り合わせる優美な曲線は、ルーブル美術館に飾られた彫刻を思わせた。
──両腕を失ったヴィーナス。
帰来島の砂浜で、コンラッドと再会したジーナは、涙で頬を濡らしながら訴えた。
『──私には、もう……あなたを抱きしめる両手が無いの……!
──私には、もう……あなたと手を繋ぐ右手が無いの……!
──私には、もう……あなたを引き止める左手が無いの……!』
ジーナはそう言うと、涙の雫を海に振り撒き、コンラッドを見つめ遠ざかろうとしていた。
その言葉と表情で、ジーナが今までどれだけ自分の事を愛していたのか、コンラッドは初めて実感した。
繋いだ手が温かかったのは、体温だけではなかったのだ。
紅髪をまさぐる指先が心地よかったのは、夢の中に居たわけではなかったのだ。
別れ際に、袖を掴んで離さない彼女を、抱きしめたくなったのは、己が孤独を恐れていた訳ではなかったのだ。
ジーナと過ごした穏やかな日々──。
静かに流れた不思議と心地よい時間は、ジーナが齎してくれていたのだ。
コンラッドの中で何かがこみ上げる……。
するとコンラッドは、ジーナの前に膝を付き、優美な曲線を描く腰を抱き寄せ、黒い茂みを割って、柔らかな舌先をジーナの花弁に押し付ける。 ジーナから、熱い吐息が零れた。
「ぅ…はぁ……だ…め……」
固く閉じられていたジーナの瞼が開き、潤んだ瞳でコンラッドを見つめた。
ようやく自分を見たジーナに、コンラッドは安堵し、舌の動きに熱が篭る。執拗に舐め上げ、こすり、突く。熱く震え、蜜を滴らせ始めた花弁を開き、コンラッドは愛撫を続けた。
ジーナは堪らず声を上げ、腰を浮かせる。
「や…ぁ……あぁ…や……」
途切れ途切れに聞こえる喘ぎ声が、余計に高揚させる。ジーナから吹き付ける香も、コンラッドの脳髄を刺激し、性の高ぶりを増長させた。
コンラッドは茂みから顔を離し、ジーナを浴室の壁に押し付け、右足を抱えて大きく開かせると、潤った蜜壷に突き入れた。
「あ……、あぁぁぁ……!」
下肢の間を押し開かれてゆく感覚に身震いしながら、ジーナの唇は自然と開かれ、声が溢れる。
喘ぐ彼女の声をその口で受け止めるかのように、コンラッドは唇を重ね舌をねじ入れた。
くぐもったジーナの喘ぎ声が、さらに高みへと向かい、下肢の間を押し上げる動きに激しさが増す。
今まで閉ざされていた子宮口は、この時ばかりはやわらかく開かれ、彼のモノを深くまで受け入れる。
膣の膨大部を超え、先端が子宮口を抜けると、その部分の圧迫感に彼は呻いた。
はぁ……という、吐息を零しながら、ジーナの首筋を舌で濡らす。
奥へ…奥へ…さらに奥へと、欲望は増し、脳内は熱く煮えたぎった。
※
ジーナにとってもそれは同じだった。
子宮上部を突き上げられる快楽は、脳内を白く染め上げ、瞳から自然と涙が溢れた。
哀しい訳でも、痛い訳でもないのに……。
どのような感情が、涙を流させるのか、ジーナは自分でも分からなかった。
強いて言うなら、全ての感情を内包し、溢れ出るその想い……。
(抱きしめたい……!この人を、きつく、強く、今の想いを忘れるまで……)
ジーナはコンラッドを抱きしめる事で、今の感情を解放したかった。……満足させたかった。しかし、ジーナには彼を抱きしめる両手が無い。
だから、ジーナは泣いた。
激しく突かれながらまた彼をきつく抱きしめたい!
それは、二度と叶わない夢と化した。
ジーナの頬を一筋の涙が零れた。
それに気付いたコンラッドは、ゆっくりと頬を寄せ、ジーナの涙を口にすると、愛しげにその顔を唇で愛撫した。
そして、彼女をきつく抱きしめる。
ジーナが身震いした。
(……あぁ……、この感覚──)
ジーナは自身の欲望がコンラッドによって満たされた事を知った。
抱きしめられる喜びは、腕を無くして、ようやく真の実感をジーナに与えてくれたのだ。
※
浴室から出た後も二人は何度も求め合った。
月明かりに照らされた室内は、ひどく静かで、外から潮騒の音が心地よく耳に響いていた。
「……傍にいて……、ずっと此処に居て……そう約束して……」
今度は素直な気持ちが出た。
だが、それでもジーナの望むものを、コンラッドは与えてくれなかった。
──沈黙。
ジーナは拗ねたように
「いじわる……」
と、呟く。
「そういう訳ではない」
「じゃあ、どういう訳?」
「……」
やっぱり、沈黙。
ジーナは傍らに寝そべるコンラッドに擦り寄ると、その耳たぶに噛み付いた。
そうするしか、沈黙する彼を振り向かせる事が出来ないからだ。
コンラッドは顔を顰めて、
「くすぐったい」
と、言った。そして、真顔に戻り、口を開いた。
「……あいつの事を考えていた……」
あいつとは、輝く金色の髪をしたコンラッドとよく似た男の事だ。すなわち……、ジーナの腕を切り落とした張本人。
ジーナもまたあの男を思い出す。
瞳を見開き、その深淵に黒い炎を燃え上がらせて──。
コンラッドはそんなジーナを見るに付け、溜息を零す。
純朴で温かな装いだった彼女が、豹変する時──。
温かで淡い色彩を放っていたジーナに、どす黒い染みを今なお垂らし続ける自分の分身に、コンラッドは初めて怒りを感じた。
決して、手を出すなと……そう伝えて行ったのに、あいつはコンラッドの言葉を無視し、ジーナを襲った。
その喉に牙を立て、あまつさえ両腕を奪う行為に、一体何の意味があったのだろう……?
こんなに小さくて、温かく、優しい彼女を、どうしてこうも痛めつけられるのか……?
しかし、あいつに対する怒りは、それだけではなかった。
──彼女の視線。
これは明らかに別人だ!
その視線はまるで、人民を苦しみから解き放とうとする革命の女神のような力強さがあった。
どんな苦境にも屈しない、絶対的な意思を持って輝く眩い光。
その瞳の先に映っている者は、自分ではない。
──あいつだ!
自分を見つめる目とは違う、ジーナの情熱的な瞳がコンラッドの心を惹き付けた。
しかし、この瞳がコンラッドに向かう事は無い。この躍動感ある瞳を引き出したのは、紛れも無くあいつなのだ。
遠くを見つめる凛とした、ジーナの横顔。
──なんて、美しい……!
コンラッドは無性にこの見知らぬ女が欲しくなった。
仰向けに寝て宙を仰ぐジーナの視線を遮るように、青い瞳が覆いかぶさる。するとジーナの黒瞳に灯る炎は瞬時に消え、穏やかな優しい潤んだ瞳に戻る。
コンラッドは悲しげに目を細めた。
(──ああ、俺が欲しいのは、この瞳ではない!)
「……どうしたの?」
ジーナを見つめるコンラッドの瞳が以前と違っている事に気づいたジーナは眉を寄せた。
そして、コンラッドの瞳が真紅に輝いた刹那、首筋に穿たれる鈍い痛みと快感。
「あぁ……!」
行為に酔いしれたのは、コンラッドの方ではなく、ジーナの方だった。
(この人は……こんなにも……)
以前、ジーナの首に同じように牙を立てたアドリエンと似て非なる感覚に、二人の男の根底が見えた。
闇が……、こんなにも愛おしいと思ったのは、すでにジーナが別のものに変化した証であった。
コンラッドの唇が離れた。
真紅に光るその瞳が、憎きあの男を想起させる。
胸の奥で何かが燃え上がり、ジーナは勢いよく唇を重ねた。
似て非なる二つの心と二人の男──。
何かが違うと思いながら、これこそが真実だった。
嘘は誠であり、誠は嘘だ。
だが、それでもジーナは囁く。
「あなたの事……愛してるから……」
だが、ジーナを見つめるコンラッドの瞳の紅は、全く逆の感情を表していた。
(ああ……きっと、これでいい……これでいいのだ)
しかし、それは同時に間違っていた。
コンラッドはジーナから離れ、服を羽織ると、風に乗って闇の中へと消えた。
残されたジーナは、淡い月明かりの中、潮騒の音に包まれながら静かに眠った。
白いシーツを、朱に染めながら──。
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