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一章

囮作戦というのはあるけれど、自分が囮になるとは思わなかったよ

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「さて、騎士たちはどうでした?」
「二人ほど、何かしらの異常持ちだったね。毒ではなさそうではあったけど」
「で、多分、今回の責任者である隊長はガラルサさんかな、あの人は光適性持ちかな。で、もう一人、若い人もそれっぽい」

 自分は姿を見せない方がいいだろうと教会に籠っていたウリセスさんにナチョと私は説明する。異常持ちに関してはナチョが伝えてくれた通り、毒ではなさそうだし、体に異常が出るタイプではなさそうだった。それから、ベンハミン・ガラルサっていう人と若い人は光適性持ちだと思う理由を伝える。水を見ていた。残りの二人は戸惑うような目で水を見ていたけど、彼らだけは何かを探るように見ていた。いや、キラキラしてたから、それを疑問に思ったのかもしれないけど。

「まぁ、と言っても、それだけでは不確定だとは思う。別の方法で確認は必要かな」
「えぇ、そうですね。異常持ちに関しては不味いと聖水を吐き出しているようなので、疑いはしませんが」

 聖水の効能に関してはほぼほぼ実証済みなので、疑う余地はほとんどないと言ってもいいかもしれない。ただ、ガラルサさんたちに関しては水を見ていたというだけなので、正直なところこれといった確証はない。さて、どうしたものかなと首を捻るとテーブルの上に座って聖水を食べていたヒリンも首を捻る。

「こういう手はあまり使いたくはないのですが、有用かもしれませんね」
「何か、策でも思いついた?」
「ヒリン様にご協力いただきましょう」
「「なるほど」」
『きゅ?』

 なーに? とばかりのヒリンに私とナチョは苦笑いを浮かべる。お願いした通りに動いてくれるといいんだけど。

「ひとまず、アデリタさんも登場してもらいましょう」
「へ?」
「光の精霊だとされているモノがふよふよと金色の目をもつ少女のところに向かえば、疑問に思うでしょう。そこでどう動くか見ましょう」

 そもそも、ヒリンを目で追うことがなければ、それまでですがとウリセスさん。いや、まって、私も囮役なのかい?? 喋ることもなさそうだから、そのくらいは演技できるだろうけど。そもそも、金色の目ってそんなに重要な要素なのかしら?

「言っておきますが、アデリタさん。アデリタさんの目は特別ですからね」

 ピンポイントで私が疑問に思っていることを当てるウリセスさん。超能力にでも目覚めました?? いや、確かに疑問に思ってたことではあるんだけど。

「平民で金色の目を持つ人は少ないのです。ですので、彼らも驚くでしょうし、気をひくことができるでしょう」

 光適性を持つ騎士として学ぶ中の一つにそれが含まれているらしい。光の精霊の姿はもちろん、絵付きで覚えさせられるし、金色の目の重要性も説かれるのだとか。ただ、金色の目は成長と共に失われる時があるらしい。どう言う基準でそう言うふうになっているのかわからないけれど、生涯持ち続けられるのはほんの一握りの人たちらしい。多くは成人前後で失うのだとか。

「まぁ、アデリタさんのように年々輝きが増してるのは珍しいでしょうし」
「うん? 待って、どう言うこと?? 目からビーム出ちゃう?」
「いえ、出ませんから。輝きが増すと言うのは濁りがないと言うことです。元々アデリタさんの目は綺麗でしたが、より澄んだ金になっていると言えばいいんでしょうか。それより、殿下睨まないでください」
「変なこと言うね、睨んでないよ」

 ジトリと見ていたナチョはウリセスさんにそう言われて、けろりと笑う。けど、目は笑ってないぞ、ナチョ。
 それはそうと、結果として、それを実行することとなった。うん、わかってたことだけど。ヒリンにはよくよく言い聞かせて、こう動いてとお願いした。勿論、報酬はあのキンキラキンの聖水玉。早く欲しいとばかりにきゅあきゅあ騒いでたけど、うまくいくだろうか。




「たいちょー、なんで、あいつらを受け入れたんっすか」

 厄介ごとを引き起こしただけじゃないスかとガラルサさんに愚痴る青年。それにガラルサさんは苦笑いを零しながら上からの指示で断れなかったという。

「それにあれでも、聖女部隊の人間らしいからな」

 聖女として選出された少女を守る部隊に所属してるのか、あの騎士たち。一応、騎士として腕は立つらしいけれど、先日の件で属性持ちではない部下にそれとなく見張るように指示したみたい。

「上からの指示でもあれはないっスよ」
「まぁ、あそこまでだとは私も思わなかった」

 聖女部隊はどうにもいい印象がないみたいで、ガラルサさんは溜息をつく。

「ほんと、それ、便利だね」
「外でしか使えないのがネックだけどね」

 二人が外で会話をしてくれているおかげで私の風の囁きという魔法で盗み聞きができてるだけなんだけど。ナチョと少し遠くから二人を覗き見てたけど、いいタイミングというのは会話の切れ目くらいかなぁ。

「それにしても、聖女はどうにもタチが悪そうだね」
「んー、まぁ、本人の意思で雇っているのか他の力が動いてるのかはわからなそうだけど」
「他の力が動いているにしても、わざわざ異常持ちを雇わないでしょ」
「確かに。雇いたくないし、私なら治したいところだな」

 だって、問題を起こすのがわかりきってるようなもんだしね。

「とりあえず、会話が途切れそうな感じだね」
「ん、じゃあ、準備しますか。ヒリン、お願いね」
「きゅう!」

 ナチョには引き続き、二人の会話を聞いていてもらい、私はウリセスさんの作戦通りに動けるように準備する。とは言っても、教会の前に立って、ヒリンを受け止めて中に入るっていうだけだけど。




 ふわふわと彼らの周りを飛んで、確実に姿を確認させ、ヒリンは教会の前にいる私のところに飛んできた。そして、わざと視線を追いかけてきたであろう彼らと合わし、私は驚いて教会に逃げ込むという演技をした。結果、ガラルサさんともう一人の騎士の方を捕獲しました。

「少しばかりチョロすぎませんか」

 いや、作戦を立てたウリセスさんがそれ言っちゃダメでしょ。うまいこと、捕獲できたことに対しての感想がそれってダメだよ。

「……ご存命だったのですか」
「勝手に殺さないでもらえます?」
「失礼しました」

 どうやら、ガラルサさんはウリセスさんの昔の部下だったようでウリセスさんが姿を現した際に驚いていた。うん、それにしても、生きてすらいないと思われてたのか、ウリセスさん。それはそれでどうなのさ。

「まぁ、ベンハミンですから、信頼はできるでしょう。で、彼の方は」
「自分、チュチョ・ヘッレロと言います!」

 キリッという騎士もといヘッレロさん。彼はどうにもウリセスさんがいなくなった後に入隊した人らしい。直接見るとあれだね、気のいい好青年の兄ちゃんって感じがする。

「どっちも光適性持ちでしょ。それに見てた感じ、大丈夫じゃない?」
「殿下」
「ウリセスもそう思ってるでしょ」
「それはそうですが」
「あの、何かあるのでしょうか」
「いやいや、たいちょー、あるに決まってるじゃないですか。じゃなきゃ、ここに光の精霊様がいるはずないし、そもそもあの金目の女の子もいないっしょ」

 ヘッレロさん、なかなかに鋭い。いや、まぁ、状況的証拠がありすぎるのか。ガラルサさんもいや、それはそうなのだがと言葉を濁してるし。

「まぁ、はっきり言いますね、こちらのアデリタさんが五年ほど前に殿下を発見しました」
「「……なんて?」」

 どういうことと私とナチョの顔を見比べられても困る。事実であるから、否定できないし。
 ひとまず、彼らが混乱しないようにウリセスさんがナチョと私について説明をする。うん、私の説明はいるかね? いるのか、そうですか。

「え、と、まぁ、その、なるほど?」
「うわー、たいちょーが混乱してるー。いや、俺も混乱してるっスけど」

 ザッとした話を聞いて、混乱しているらしい二人。落ち着くまでゆっくりしてもらおう。一応、あの怪しい騎士(フェリペ・ドゥケっていうらしい)は見張っててもらってるし。

「簡易聖域」
「光の精霊様の後任」

 ブツブツと言葉を言っているガラルサさんに光魔法を使ってヒリンと遊んでいるヘッレロさん。ガラルサさんはとっても真面目なことがわかったし、ヘッレロさんは順応性が高いんだろうね。

「で、君たちをここに呼び出したのは協力して欲しいと思ってね」
「協力、ですか」
「そう、協力。できるだけ、あのドゥケという騎士ともう一人を僕に近づけさせないでほしい」

 ナチョは彼らが何かしらの異常持ちであることまで明かす。そして、その推測も。

「しかし、どうして、彼らが異常持ちであると」
「悪いけど、そこは明かせない。まぁ、ここに来るまでの間のことを聞いてと言っておこうか」

 どうにも、あのドゥケたちはここに来るまでの間にだいぶ不快感に襲われていたらしい。いや、いたの過去形ではないか。いるらしい。だから、あそこまで苛立っていたとか。異常持ちは不快感を示すからね。十分な判断材料にはなる。

「一応、承知いたしました。注意を払っておきましょう」
「ありがとう、感謝するよ」
「でも、聞く限り、殿下は王都に戻らないほうがいいんじゃないっすか」
「そうは確かに思うよ。けれど、君たちをそのまま帰しても、次が組まれるだろうね」
「まぁ、確かにそれもあるっすね」

 ガラルサさん、ヘッレロさんとナチョは話し合う。そこにウリセスさんも混ざり、会議が行われる。私? 私はヒリンと遊びつつ、回復薬を作ってたよ。いや、だってね、あそこに混ざる勇気はないし、資格もないだろうし。

「あの、ウリセスさん、あの子が作ってるのは」
「回復薬でしょう」
「え、回復薬ってあんなに輝いてましたっけ」
「まぁ、そこはアデリタさんですから」
「なんすか、それ」
「随分と不思議な子なんですね」
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