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一章

誰にも何も言われなかった、まぁ、こちらも言ってないんだけど

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「当村、もれなく簡易聖域化されてるそうです」

 なお、原因はわたくしでございます。なんでよ!?
 どうにもこうにも理由は簡単で、私が聖水を撒き撒きしたのが原因だとか。私の光魔法は特段強く、その聖水ともなれば……ということみたい。
 私も驚いてるのだが、ナチョやウリセスさんも驚いている。あ、ウリセスさん頭抱えた。ナチョは納得したのか頷いている。いや、なぜ、納得したし。

「まぁ、リタだからそういうこともあるよね」
「ないでしょ!」
「いや、あるよ。だって、ラモンさんから聞いて作った回復薬の効能がおかしかったし」
「ふぐぅ」

 そこを言われると否定できない。なぜなら、その回復薬でウリセスさんの足が治ってしまったから。回復魔法をかけても治せないものだったそれ。上級、最上級ともなれば治せたのかもしれないけれど、そこはそこ。中級魔法でも治せなかった足が最下級の回復薬で治せるというのはやはりおかしなことだ。そのため、ひとまず封印指定されてしまったわけである。いずれはどうにかして販売しようとは考えてる。まぁ、そうなると実験とか色々やらなきゃいけないことが多いけど。

「……アデリタさん」
「何?」
「これは確認なのですが」
「はいはい」
「ひとまずはここの村にいる限り、光の精霊様は消還の可能性はないということでよろしいですか?」
「……あー、うん、そうらしい。もしくは、私が傍にいれば大丈夫だとか」

 やい待てい、なんだよ、その『自動清浄機』とか。どこで覚えた。思わず口に出しそうになったじゃんか。

『きゅん』
「あー、はいはい、よく食べるねー」

 腹減ったとお腹を撫でながら鳴いたヒリンに私は聖水を作ってあげる。もきゅもきゅと水の球を抱えて食べる姿はかわいい。それにしても、よく食べる。それだけ、今の神殿では食べることができなかったのかもしれない。

「聖水は食事だったのですか」

 呆然とウリセスさんがいう。まぁ、捧げ物と思っていれば、それが必要不可欠のものであるとかないのとか判断つかないよね。光の精霊様にとっては必要不可欠な要素であったみたいだけど。

「どうにも聖水の作り方自体が消失してるみたい。だから、ウリセスさんも普通に作ってたけど、あの聖水になる。あれは光の精霊様方には不評らしいよ」

 聖水という名の聖水じゃないものだからね。そりゃあ、不評にもなるだろう。ガクリと頭を落とすウリセスさん。でも、彼は今私の聖水の作り方を知っている。

「ウリセスさんはきちんと修練してるから、捧げるには十分の聖水は作れるはずだよ」
「そう、ですか、ありがとうございます」

 コウガ曰く今の神殿にはヒリンを見ることができる人間が殆ど居ないという話だし、そもそもヒリンや光の精霊様は存在しないものになっているのではないだろうか。だから、捧げる聖水すらもおざなりになった。多分、そういうことなのだろう。
 光の精霊様が聖水を餌とするのはきちんと理由があって、自分の中に溜まった澱みを浄化するためなのだとか。ヒリンの場合は成長過程であるから、その成長に必要なものと。
 ふと、思ったんだけど、ゲームの世界ではヒリンやコウガはどうだったんだろう。出てきたのだろうか。私がやったところだと出てきていない気がする。稀に空から黒い雫が落ちてきてそれが厄災魔物になるってのはあったけど。……もしかして、この黒い雫って可視化された澱み?? 澱みがそれほどまでに酷くなっていたとすると光の精霊様たちは――。

「リタ、どうかした?」
「え、いや、なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないけど。ほら、吐いた吐いた。ゲロったら楽になるよ」

 王子様がゲロったとか言うんじゃありません。いや、私のせいか。私のせいなのか。あとほっぺをむにむにするのやめてほしい。

「……にゃんでもないっちゃら」

 むにむにされて、普通に喋れなかった。それなのに最大の原因がクスクスおかしそうに笑ってるんだから、酷いもんだよね。
 それから、もう少しだけウリセスさんと光の精霊様について語った。色々と出てきた新情報に頭を悩めることだろう。




 新情報から二年。特に何事もなく私は九歳になった。昨年にはナチョはこの村の成人の儀を通過した。双子ちゃんも無事に生まれて今年で二歳になる。一組しか考えてなかった父は双子であることを知って、焦ったみたいだけど、双子ちゃんは男女だったとこともあって、その一組の名前をそのまま使うことにしたらしい。バレリオとバレリア。それが双子ちゃんの名前だ。そして、色はそれぞれ両親の色。バレリオは母や私と同じ紺碧の髪を持ってる。目は母同様の緑。バレリアは父と同じ桑色の髪に小麦色の目だった。金色の目は持ってなかった。私だけ仲間はずれみたいでそれがちょっと寂しかったな。ウリセスさんや両親曰く金色の目は神様に愛されている証拠なのだとか。それならば、普通は王族がそうであっていいんじゃないかと思うのだけど、ゲームの設定かそこはうやむやにされてしまった。

「三年後か」
「うん? 何が?」
「リタが成人の儀をするまで」

 変わらず、私の隣にはナチョがいる。成人の儀を終えたナチョはちょいちょいウリセスさんと出かけることが多くなったけど、それでも大半は私の傍にいる。なんだか、落ち着くらしい。そして、なんとナチョは髪を伸ばしている。整った顔の人の長髪はまた別の栄養素を持ってると思うんだ。

「リタはさ」
「うん」
「僕とつけてるのと同じようなものをあげるって言ったら受け取ってくれる?」
「ナチョと同じものってそのタッセルピアスのこと」
「そう」

 同じようなものってことはもしかしてと訝しげに見れば、にこりと笑う。

「恐れ多いな!」
「僕があげたいんだ。ダメかな」

 しゅんと目を落とすナチョにズルいと思う。だって、私がそれに弱いとわかっててそんな顔するんだものそうでしょう。

「そんな顔されたらダメって言えない」
「知ってる」
「ナチョはズルい」
「知ってる」

 なんで髪を伸ばし始めたのかななんて思ってた。思ってたけど、きっとナチョにはナチョなりの何かがあるのだろうと思って気にしないことにしてた。けれど、それがまさか私のためだなんて思わなかった。

「ナチョの髪じゃなくてもいいのに」
「それは僕が嫌だから。僕の我儘だよ」

 くすりと笑う。参ったな。もう、私が身につける小物は大体ナチョの色じゃないか。誕生日には必ずと言っていいほど贈り物をしてくれるし、ナチョは私をどうしたいんだって思う。好まれてるのは薄々というかバリバリ理解はしているよ。でも、それはきっと助けたからだけだと思ってるんだけど、それは口にしない。口にしちゃダメな気がするから。

「ねーね」
「にゃーにゃ」

 ぺたんぺたんと足音を立てて、私にくっつく双子ちゃん。

「にーに」
「にゃーにゃ」

 私の次にナチョを見て、そう呼ぶ。どっちかな、どっちにもにゃーにゃと鳴いてるのは。くすくすと笑いながら、くっついてきた双子ちゃんを抱き締めれば、ナチョは目を細めて幸せそうな顔をする。
 流石にリオとリアは普通の赤ちゃんだった。だから、母と父は大忙しなのだけど、こうやって両親の目を掻い潜り、私の所に来ることもある。

「……リタとの子供、可愛いだろうな」

 双子に構ってる私には聞こえてなかったナチョのそんな呟き。ナチョに引っ付いてるコウガはよく私に何か言いたげにしてたけど、結果は何も言わないし、私も聞かなかった。ただただ、やはり厄介だ厄介だと言うに留まる。うん、何が厄介なのやら。いや、まあ、王子という立場は厄介かもしれないけどさ。
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