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一章
人を呪わば穴二つって言わない?
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ここ最近、ナチョのスキンシップが激しくなってる気がする。いや、それだけこの生活に慣れたのかも知れないけど、毎回私の心臓が破裂しそうになる。
髪をグシャグシャにされるのもそうだけど、汚れてるって汚れを拭ったりもよくされるようになった。うん、くっそ恥ずかしいよ。これが王子特性というものなのか。
「……行きたくない」
『それならば行かねばよかろう』
「それはダメ!!」
ダメなんだよ。なんでかわかんないけど、放っておいたらダメな気がするんだよ。
いつものようにコウガに起こされ、私はやれどうしたものかなとぼやきながらナチョの部屋へと向かう。
「ナチョ?」
コンコンとノックをして、中に体を滑り込ませる。
声をかけても反応はない。そっと顔を覗き込めば、そこには何かを耐えているような表情。魘されてるほどじゃないかなって思ってたけれど、突然ボロボロと涙をこぼし始めるナチョ。何かを求めるように彷徨う手。その手を握って、ナチョナチョと体を揺さぶった。
「……リタ?」
濡れた紅い目が私を見つめる。だいじょうぶ? と声をかければ、涙を零しながら、私を掻き抱く。
「リタ、リタ、リタ」
ギュッギュと抱きしめられ、内臓が飛び出そう。子供とはいえ、いや子供だからかな。力の加減がされてないって苦しい。
「ナチョ、くるしいよ」
「あ、ごめん」
トントンと背を叩いていると現実に戻ってきたのかナチョはへにょと眉を下げて、謝りながら私から体を離す。けれど、すぐに私の手だけは握っていた。まるで、離したらダメだとばかりに。
「ねぇ、リタ、一緒に寝てくれる?」
ナチョがそういうのは初めてだった。今日は魘されてるのが聞こえたからっていう体にしようと思ってたのに、そんなことを言われたら、頷く以外に選択肢がないじゃないか。しょぼんとしている彼を放っておくことなんてできない。
「いいよ」
頷けば、パッと明るくなる表情。うん、眩しい。尊い。手を離して、いそいそとベッドを整えてるのが可愛い。
「リタ」
パンパンとベッドを叩き、私を促すナチョにはいはいと隣に潜り込む。嬉しそうに私を抱きしめて、目を瞑ったナチョにホント、これじゃダメなんだけどなぁ思いつつ、私も目を閉じた。
「……何?」
目を開ければ、まだ暗い。先程から少ししか寝てないみたい。眠たいのを我慢して、目を擦り、ナチョの腕の中から抜け出す。
『暫くは向こうは動かん、いや動けんだろう』
「詳しく」
『追加補充された魔術師も魔力切れである』
「……追加されてたんだ」
道理でコウガが出ずっぱりなはずだ。一時は人のベッドでゴロゴロしてるなって思ったこともあったけど、補充があったから余裕が無くなってたのか。
『ま、闇魔法を使えるものなど少なかろうて』
「確かに、適性があったとしても忌避されてるから公にする人も少ないだろうね」
『呪いなどと馬鹿なイメージをつけるからそうなるのだ』
魔術師として仕事をするのならば、真っ当な属性を掲げる。闇魔法を掲げてしまうと悪いイメージを覆ってしまうらしい。けれど、それの多くの理由が呪いという魔法を使うからだとか。でも、この世界でいう呪いとはデバフだ。殺すまでには至らないものが多い。
「呪い返しとかってないんだよね」
『あるにはある。が、いささか面倒ではあるな。そもそも現在使用されている呪いの殆どは正式な手順を踏んではおらんから尚のこと面倒だ』
「あー、だから、ただ消失するだけなんだね」
聖水をぶっかけた時もそうだったけれど、呪いはジュワッとその場から消えた。何かが返っている様子も見受けられなかった。
「人を呪わば穴二つって言うと思うんだけどな」
『まぁ、弱々な呪いであるからな。強力な呪いであれば、そうであろうさ。だが、すでに強力な呪いをかけれる者も伝承も失われているのだろう』
弱いからこそ、跳ね返しがない。むしろ、正式な呪いではないから跳ね返すのも特定から必要になる。コウガの言う通り、めんどくさい。
「殴り返されることがないから、調子に乗ってるってことだよね」
『そうだな。だが、奴らは調子に乗ったが故に修練をしていない』
「えー、なんだ、それ。あー、でも、そのおかげでナチョが今も死なずにいるのか」
呆ればいいやから、感謝すればいいやら。私は頭を掻いているとコウガは短い手を組み、首を傾げる。
『王宮でもそれは呪いにかかっておったのか』
「確かそのはずだよ。神父様も言ってたし、間違いないと思うけど、何かおかしいことがあった?」
そういえば、コウガは呪いが集まってたから寄ってきたんだったな。つまり、最初からナチョのことを知っているということではなかったんだ。ケロッと呪いを喰ってくれてたから知ってるものだとばかり思ってたよ。
『王宮には結界が張ってある』
「まぁ、結界が張ってあるのは当然じゃないかな。要所であるわけだし」
『弱々な呪いは当然ながら外から呪いを送ることはできん』
待って、待って、コウガ。それって、最悪なことだと思うんだけど。
「ナチョは内側から呪われてた?」
『恐らくな。結界の内側からであれば、呪いも送れる』
王宮と王城を覆っている結界とは魔を寄せ付けないもののであり、王族を呪いから防ぐものでもある。そのため、呪われた人がその結界を通った際はその纏った呪いを払い落とすのだとか。それは王族に呪いを移させないためだとコウガは語る。
「でもさ、普通そうであるなら、誰かしら気づくと思うんだけど」
誰かがその疑問を握りつぶしているのか、はたまたすでに結界の存在自体を忘れてしまったか。
「……いや、待って、結界の存在を忘れるとか、自分の武器を防具を忘れるってことじゃん。ない。ないわ」
そこまで馬鹿ではないでしょうよ。いや、馬鹿なのかもしれない。だって、まだ数ヶ月とはいえよ、王宮から文の一つも連絡がないというのはおかしいと思う。確かにこちらからはナチョが望んだということもあって何も言っていない。言っていないけれど、普通気づくものじゃない?
「忘れさせられているっていう可能性も否定はできない。けど、そうだとしても、ナチョがここにいるのを何も言ってこないのはおかしい」
『呪いよりもドロドロだな』
「そだね、ドロンドロンだね。うーん、ともなればナチョの情報はどこかで握り潰されているのか、すげ替えられてるんだろうな」
やだ、めんどくさい。関わりたくない。でも、ナチョには幸せになってほしいんだよなぁ。
「そういえば、追加があったんだよね」
『うむ、そうだ。だが、微々たるものぞ』
「王宮に結界があることを知っていて、王宮の中に魔術師を呼び込め、ナチョの情報を握り潰すもといすげ替える事ができる人間」
ナチョの両親である王様や王妃様は勿論、兄弟や側妃様方とナチョに近しい人たちの中にそういう人がいるということだ。辛すぎない?
「とりあえず、いずれのことも踏まえて対策を考えておかないとダメだね」
呪い耐性をつけるためにも内緒で毎日聖水を飲ませてたけど、それだけじゃ足りなさそうだな。うんうんと悩んでいるとごそっと動く音。ナチョの方を向けば、手が布団を探っている。
「ひとまずは現状維持で。おやすみ」
それだけコウガに言って、ナチョの布団に潜り込めば、途端にぎゅっと抱きしめられる。もしかして、起きたと顔を見上げるもその目は固く閉ざされたまま。気のせいかなと思って私はそのまま、目を閉じた。
まさか、後日にそれを含め問われるとは思わなかった。
髪をグシャグシャにされるのもそうだけど、汚れてるって汚れを拭ったりもよくされるようになった。うん、くっそ恥ずかしいよ。これが王子特性というものなのか。
「……行きたくない」
『それならば行かねばよかろう』
「それはダメ!!」
ダメなんだよ。なんでかわかんないけど、放っておいたらダメな気がするんだよ。
いつものようにコウガに起こされ、私はやれどうしたものかなとぼやきながらナチョの部屋へと向かう。
「ナチョ?」
コンコンとノックをして、中に体を滑り込ませる。
声をかけても反応はない。そっと顔を覗き込めば、そこには何かを耐えているような表情。魘されてるほどじゃないかなって思ってたけれど、突然ボロボロと涙をこぼし始めるナチョ。何かを求めるように彷徨う手。その手を握って、ナチョナチョと体を揺さぶった。
「……リタ?」
濡れた紅い目が私を見つめる。だいじょうぶ? と声をかければ、涙を零しながら、私を掻き抱く。
「リタ、リタ、リタ」
ギュッギュと抱きしめられ、内臓が飛び出そう。子供とはいえ、いや子供だからかな。力の加減がされてないって苦しい。
「ナチョ、くるしいよ」
「あ、ごめん」
トントンと背を叩いていると現実に戻ってきたのかナチョはへにょと眉を下げて、謝りながら私から体を離す。けれど、すぐに私の手だけは握っていた。まるで、離したらダメだとばかりに。
「ねぇ、リタ、一緒に寝てくれる?」
ナチョがそういうのは初めてだった。今日は魘されてるのが聞こえたからっていう体にしようと思ってたのに、そんなことを言われたら、頷く以外に選択肢がないじゃないか。しょぼんとしている彼を放っておくことなんてできない。
「いいよ」
頷けば、パッと明るくなる表情。うん、眩しい。尊い。手を離して、いそいそとベッドを整えてるのが可愛い。
「リタ」
パンパンとベッドを叩き、私を促すナチョにはいはいと隣に潜り込む。嬉しそうに私を抱きしめて、目を瞑ったナチョにホント、これじゃダメなんだけどなぁ思いつつ、私も目を閉じた。
「……何?」
目を開ければ、まだ暗い。先程から少ししか寝てないみたい。眠たいのを我慢して、目を擦り、ナチョの腕の中から抜け出す。
『暫くは向こうは動かん、いや動けんだろう』
「詳しく」
『追加補充された魔術師も魔力切れである』
「……追加されてたんだ」
道理でコウガが出ずっぱりなはずだ。一時は人のベッドでゴロゴロしてるなって思ったこともあったけど、補充があったから余裕が無くなってたのか。
『ま、闇魔法を使えるものなど少なかろうて』
「確かに、適性があったとしても忌避されてるから公にする人も少ないだろうね」
『呪いなどと馬鹿なイメージをつけるからそうなるのだ』
魔術師として仕事をするのならば、真っ当な属性を掲げる。闇魔法を掲げてしまうと悪いイメージを覆ってしまうらしい。けれど、それの多くの理由が呪いという魔法を使うからだとか。でも、この世界でいう呪いとはデバフだ。殺すまでには至らないものが多い。
「呪い返しとかってないんだよね」
『あるにはある。が、いささか面倒ではあるな。そもそも現在使用されている呪いの殆どは正式な手順を踏んではおらんから尚のこと面倒だ』
「あー、だから、ただ消失するだけなんだね」
聖水をぶっかけた時もそうだったけれど、呪いはジュワッとその場から消えた。何かが返っている様子も見受けられなかった。
「人を呪わば穴二つって言うと思うんだけどな」
『まぁ、弱々な呪いであるからな。強力な呪いであれば、そうであろうさ。だが、すでに強力な呪いをかけれる者も伝承も失われているのだろう』
弱いからこそ、跳ね返しがない。むしろ、正式な呪いではないから跳ね返すのも特定から必要になる。コウガの言う通り、めんどくさい。
「殴り返されることがないから、調子に乗ってるってことだよね」
『そうだな。だが、奴らは調子に乗ったが故に修練をしていない』
「えー、なんだ、それ。あー、でも、そのおかげでナチョが今も死なずにいるのか」
呆ればいいやから、感謝すればいいやら。私は頭を掻いているとコウガは短い手を組み、首を傾げる。
『王宮でもそれは呪いにかかっておったのか』
「確かそのはずだよ。神父様も言ってたし、間違いないと思うけど、何かおかしいことがあった?」
そういえば、コウガは呪いが集まってたから寄ってきたんだったな。つまり、最初からナチョのことを知っているということではなかったんだ。ケロッと呪いを喰ってくれてたから知ってるものだとばかり思ってたよ。
『王宮には結界が張ってある』
「まぁ、結界が張ってあるのは当然じゃないかな。要所であるわけだし」
『弱々な呪いは当然ながら外から呪いを送ることはできん』
待って、待って、コウガ。それって、最悪なことだと思うんだけど。
「ナチョは内側から呪われてた?」
『恐らくな。結界の内側からであれば、呪いも送れる』
王宮と王城を覆っている結界とは魔を寄せ付けないもののであり、王族を呪いから防ぐものでもある。そのため、呪われた人がその結界を通った際はその纏った呪いを払い落とすのだとか。それは王族に呪いを移させないためだとコウガは語る。
「でもさ、普通そうであるなら、誰かしら気づくと思うんだけど」
誰かがその疑問を握りつぶしているのか、はたまたすでに結界の存在自体を忘れてしまったか。
「……いや、待って、結界の存在を忘れるとか、自分の武器を防具を忘れるってことじゃん。ない。ないわ」
そこまで馬鹿ではないでしょうよ。いや、馬鹿なのかもしれない。だって、まだ数ヶ月とはいえよ、王宮から文の一つも連絡がないというのはおかしいと思う。確かにこちらからはナチョが望んだということもあって何も言っていない。言っていないけれど、普通気づくものじゃない?
「忘れさせられているっていう可能性も否定はできない。けど、そうだとしても、ナチョがここにいるのを何も言ってこないのはおかしい」
『呪いよりもドロドロだな』
「そだね、ドロンドロンだね。うーん、ともなればナチョの情報はどこかで握り潰されているのか、すげ替えられてるんだろうな」
やだ、めんどくさい。関わりたくない。でも、ナチョには幸せになってほしいんだよなぁ。
「そういえば、追加があったんだよね」
『うむ、そうだ。だが、微々たるものぞ』
「王宮に結界があることを知っていて、王宮の中に魔術師を呼び込め、ナチョの情報を握り潰すもといすげ替える事ができる人間」
ナチョの両親である王様や王妃様は勿論、兄弟や側妃様方とナチョに近しい人たちの中にそういう人がいるということだ。辛すぎない?
「とりあえず、いずれのことも踏まえて対策を考えておかないとダメだね」
呪い耐性をつけるためにも内緒で毎日聖水を飲ませてたけど、それだけじゃ足りなさそうだな。うんうんと悩んでいるとごそっと動く音。ナチョの方を向けば、手が布団を探っている。
「ひとまずは現状維持で。おやすみ」
それだけコウガに言って、ナチョの布団に潜り込めば、途端にぎゅっと抱きしめられる。もしかして、起きたと顔を見上げるもその目は固く閉ざされたまま。気のせいかなと思って私はそのまま、目を閉じた。
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