黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

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黎明 縁は絡まり、星の手はさ迷う

日常風景

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「いってらっしゃい」
「あぁ、行ってくる」

 玄関先まで来ていいという許可を得てから、ほぼ毎日その光景は見られる。ぎゅっと抱き合い、お決まりの言葉を告げる。ただ、注意してほしいのが、この二人まだ結婚していないし、アルトゥールに関してはそこは自宅ではない。友人宅兼婚約者であるフェオドラの実家である。

「俺、毎日なに見せられてんだろ」
「諦めてください」
「見たくないのなら、さっさと行けばいい」
「……いやね、アルトゥールさ、やめようとか控えようとか思えよ」

 他人ん家の玄関だからなというも、アルトゥールは黙殺。そして、アルトゥールとパーヴェルのやりとりにやれやれとインナは首を振る。それがここ最近の日常風景となりつつあった。

「さ、行くぞ」
「はぁ」
「これ見よがしに溜息吐くのやめろ。俺だって好きで言ってんじゃねぇし」

 トロフィムからそう言われてるんだとパーヴェルは頭を掻く。流石にアルトゥールが仕事をサボるようなことはないだろうが、ギリのギリまでフェオドラとの逢瀬を引っ張りそうな予感だけはしていたため、丁度いいと彼らの身近なパーヴェルへ指示が下りた。

「トゥーラ様、お気をつけて」
「あぁ」

 甘い雰囲気を瞬時に作り出す二人にパーヴェルは砂吐きそうとゲンナリする。それでも仕事をしなければ、今度は上からなんでと言われる。板挟みかよ、つらっと若干涙目になりつつも、アルトゥールを引き剥がし、王宮へと足を向けた。

「お義兄にい様もお気をつけて」
「おう」

 フェオドラの見送りの言葉に手を上げて、反応する。それ以上は自分の隣が怖くてやろうと思わない。二人の乗り込んだ馬車が見えなくなるまで、見送るとインナに促され、屋敷の中へと戻る。そして、アルトゥールに出された課題と貴族としての心構えやルールそれらを学んでいく。

「あ、トゥーラ様にいうの忘れてた」

 未だに寝る前に唱える『レーラに幸を、ヤーシャに祝福を』。これはどうやら亡国のお呪いの一種だったというのがわかった。そして、出てくる名前は母にとってとても大切な人の名前だろうということまで知った。恐らく、『ヤーシャ』という人が自分の本当の父なのだろう。けれど、『レーラ』とは一体誰だろうか。もしかしたら、アルトゥールなら心当たりがあるのではないだろうか。そう思った、フェオドラは聞いてみようと思っていた。だが、聞く前にそれを忘れてしまい、別れた後に思い出す始末。一人、自分に怒る。

「インナ、お願いがあるのだけど」
「はい、なんでしょう」

 令嬢として過ごすようになったせいか、はたまた口調が崩れる義兄がいるせいか、フェオドラの口調はそれらしいものになっていた。ただ、義兄のような口調、言葉を真似すると即座にアルトゥールにうちに連れて帰るなどと言って、パーヴェルと口論になることがしばしば。そんな二人を見て、フェオドラは楽しそうに笑う。そんな光景に公爵家に来た頃から見守っているインナはフェオドラの変化を喜んだ。
 そして、よく頼ってくれるようになった。インナはそれが嬉しくてたまらない。

「今度、というよりも今晩ね、トゥーラ様にお呪いのことをいうの忘れてたら、教えてほしいの」
「いつも、唱えているあれのことですね」
「そう。何故か、忘れてしまうから」
「かしこまりました。お任せください」
「ありがとう」

 了承し、頭を下げたインナにフェオドラの明るい声がかかる。これで、トゥーラ様に一つ報告ができると嬉しそうにするフェオドラを微笑ましそうに見つめ、ふと視界にぬいぐるみが目に入った。どこか不貞腐れたようにそっぽを向くそれ。あの角度だっただろうかと、正面に向けるも気づくとまたそっぽを向いている。不思議に思うもやはり正面に戻しておいた。夕刻、インナはすっかりフェオドラのお願いを忘れてしまい、私は使えないと落ち込むのだが、フェオドラは不思議ねというだけで叱ることもなく、翌日挑戦しましょうと笑うのだった。


 一方、王宮ではアルトゥールの報告にトロフィムが頭を抱えていた。
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