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黎明 縁は絡まり、星の手はさ迷う
帰宅した息子
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「あー、やっと終わった」
視察が終わったから家に帰れると思ってたのに、現実にあったのは王宮での監禁。帰れと言われても紙での詳細な報告が終わるまで帰れないという地獄だった。
「いや、そもそもお前がきちんとその場その場で報告書を作成して送ってくれてたら、問題なかったんだよ。何で最後に全部やろうと思ったかなぁ」
それに筆無精すぎて居場所がわからないとかありえないからね、と第一王子に文句を言われた。あまりにも言われるものだからメモはとってると言えば、それすらとってなかったら、再度行ってもらうつもりだったよとバッサリ。友人とも言えるアルトゥールには自業自得だなと言われる始末。手伝ってもくれなかった。
そもそも家に帰ったら、提出すら忘れそうだからと強制的に滞留。休日はあったもののその大半は鍛練場で過ごしていた。そして、なんとか部下たちの手も借りて、本日全ての日程の報告書をあげることができた。
「今度、視察に行くときはその時その時にしっかり書かせますので」
もう二度とこんなことにしてなるものかと部下にはそう宣言されてしまった。終わったのだから、いいじゃないかとも思わなくもない。
「あー、パーヴェル」
「なに?」
「くれぐれもアーテャの怒りだけは買ってくれるなよ」
「大丈夫だって、婚約者も出来たんだし、丸くなるだろ」
そうなったら、どんなにいいことかと帰宅するパーヴェルにトロフィムはゆるゆると頭を振った。けれど、パーヴェルはアルトゥールが一見変わってないように見えるだけだと軽く考えていた。トロフィムはあの一件について話しておくべきかと口を開こうとしたが、本人が報告書を持って来てしまったため、噤むしかなかった。
「じゃあな」
「……ああ」
長期の視察だったことも含め、パーヴェルはこれから一週間ほど長めの休暇をもらうことになっている。さて、何するかなと想像しながら、トロフィムの執務室を後にした。
久しぶりの我が家にホッとしつつ、あ、と忘れてたことに気づく。
「帰ること、連絡してねぇや」
まぁ、我が家だし、大丈夫かと頭を掻きつつ、門を潜る。
「坊っちゃま、お帰りですか!?」
「あらあら、それは大変。奥様と旦那様に至急連絡しなければ」
久しぶりだからと庭を歩いていれば、庭師や休憩中のメイドらが驚き、慌てる。息子が戻ったぐらいでそんなに慌てなくてもいいじゃないかとパーヴェルは気分が落ちる。屋敷に入ってからも、皆がバタバタしており、漸く何かあったのかと気づいた。
「まぁ、パーシャ、お帰りなさい」
「母上、ただいま」
母――ラリサはバタバタ慌ただしい家人たちとは違い相も変わらずおっとりとして、帰宅した息子を迎え入れる。それにパーヴェルは両親に何かあったわけではないのだなとホッと胸を撫で下ろした。
「なんか、バタバタしてるみたいだけど、なんかあった?」
けれど、気になる。
「そうなのよ。パーシャに妹ができるのよ」
手を合わせて嬉しそうにする母にはい? とパーヴェルは言葉の意味が理解できない。
「妊娠した?」
「あらやだ、もう、この子ったら。流石にもう厳しいわよ」
「え、いや、うん、どういうこと」
「孤児の子をね、引き取ることにしたのよ。とっても美人さんなのよ」
うふふと嬉しそうに語る母に何故そんなに嬉しそうなのか検討もつかないし、何故わざわざ孤児を引き取ることにしたのかもわからなかった。
「今ね、あの子のためのお部屋を作ってるの」
バタバタしている理由はそれかと納得するものの孤児を引き取ることに納得はできない。ムッとした表情のパーヴェルにラリサはあらあらと頬に手を当て驚く。
「子供って大きくなっても嫉妬しちゃうものなのねぇ」
「は? 母上、俺は嫉妬してない。ただ、なぜ、わざわざ孤児を養子にするのか納得できてないだけ」
「あら、そうなの? 養子にする理由ね、大きなのは、そうね、貴族への輿入れが決まってるからかしら」
「箔付けかよ。だったら、うちじゃなくてもよかっただろ」
「そうね。だけど、私が引き取りたかったのよ」
おっとりとした中に確固たる意志をみせる母。そんな彼女にパーヴェルは納得できずともそれ以上何かをいうことはできなかった。
「そういえば、いつまでお休みなの?」
「……一週間程度」
「あら、それなら、ゆっくり顔合わせもできるわね」
楽しそうにするラリサに会いたくないとは言えない。しかし、すでに両親が決めて、縁組をしてしまったのなら、しょうがないとは思う。
「で、誰んとこに嫁ぐの」
「レオンチェフ公爵のご子息によ。来年には一緒になるそうよ」
「アルトゥールのところかよ!? は、あいつ、選り取り見取りだろ、何で、わざわざ孤児なんか選んでんだよ」
頭を掻きむしるパーヴェルに彼に婚約者ができたのは知ってたのねとのんびりと感想をこぼす。けれど、パーヴェルからしたらそれどころではない。今まで誰とも婚約をしなかった男が、ようやくしたと思ったら、相手は孤児。到底納得のできる話じゃない。認めたくない。
「明後日には迎えに行くから、仲良くしてあげてちょうだい」
母の言葉は右から左に抜け、パーヴェルはどうやって孤児如きがアルトゥールに近づけたのか思案していた。それと同時に魅了持ちかもしれないという警戒感を抱いた。
「は、初めまして、フェオドラ、えっと、あ、ウルヴィナです。よろしくお願いします」
義妹と顔を合わせたパーヴェルはあまりのフェオドラのちぐはぐさに驚くことになった。
視察が終わったから家に帰れると思ってたのに、現実にあったのは王宮での監禁。帰れと言われても紙での詳細な報告が終わるまで帰れないという地獄だった。
「いや、そもそもお前がきちんとその場その場で報告書を作成して送ってくれてたら、問題なかったんだよ。何で最後に全部やろうと思ったかなぁ」
それに筆無精すぎて居場所がわからないとかありえないからね、と第一王子に文句を言われた。あまりにも言われるものだからメモはとってると言えば、それすらとってなかったら、再度行ってもらうつもりだったよとバッサリ。友人とも言えるアルトゥールには自業自得だなと言われる始末。手伝ってもくれなかった。
そもそも家に帰ったら、提出すら忘れそうだからと強制的に滞留。休日はあったもののその大半は鍛練場で過ごしていた。そして、なんとか部下たちの手も借りて、本日全ての日程の報告書をあげることができた。
「今度、視察に行くときはその時その時にしっかり書かせますので」
もう二度とこんなことにしてなるものかと部下にはそう宣言されてしまった。終わったのだから、いいじゃないかとも思わなくもない。
「あー、パーヴェル」
「なに?」
「くれぐれもアーテャの怒りだけは買ってくれるなよ」
「大丈夫だって、婚約者も出来たんだし、丸くなるだろ」
そうなったら、どんなにいいことかと帰宅するパーヴェルにトロフィムはゆるゆると頭を振った。けれど、パーヴェルはアルトゥールが一見変わってないように見えるだけだと軽く考えていた。トロフィムはあの一件について話しておくべきかと口を開こうとしたが、本人が報告書を持って来てしまったため、噤むしかなかった。
「じゃあな」
「……ああ」
長期の視察だったことも含め、パーヴェルはこれから一週間ほど長めの休暇をもらうことになっている。さて、何するかなと想像しながら、トロフィムの執務室を後にした。
久しぶりの我が家にホッとしつつ、あ、と忘れてたことに気づく。
「帰ること、連絡してねぇや」
まぁ、我が家だし、大丈夫かと頭を掻きつつ、門を潜る。
「坊っちゃま、お帰りですか!?」
「あらあら、それは大変。奥様と旦那様に至急連絡しなければ」
久しぶりだからと庭を歩いていれば、庭師や休憩中のメイドらが驚き、慌てる。息子が戻ったぐらいでそんなに慌てなくてもいいじゃないかとパーヴェルは気分が落ちる。屋敷に入ってからも、皆がバタバタしており、漸く何かあったのかと気づいた。
「まぁ、パーシャ、お帰りなさい」
「母上、ただいま」
母――ラリサはバタバタ慌ただしい家人たちとは違い相も変わらずおっとりとして、帰宅した息子を迎え入れる。それにパーヴェルは両親に何かあったわけではないのだなとホッと胸を撫で下ろした。
「なんか、バタバタしてるみたいだけど、なんかあった?」
けれど、気になる。
「そうなのよ。パーシャに妹ができるのよ」
手を合わせて嬉しそうにする母にはい? とパーヴェルは言葉の意味が理解できない。
「妊娠した?」
「あらやだ、もう、この子ったら。流石にもう厳しいわよ」
「え、いや、うん、どういうこと」
「孤児の子をね、引き取ることにしたのよ。とっても美人さんなのよ」
うふふと嬉しそうに語る母に何故そんなに嬉しそうなのか検討もつかないし、何故わざわざ孤児を引き取ることにしたのかもわからなかった。
「今ね、あの子のためのお部屋を作ってるの」
バタバタしている理由はそれかと納得するものの孤児を引き取ることに納得はできない。ムッとした表情のパーヴェルにラリサはあらあらと頬に手を当て驚く。
「子供って大きくなっても嫉妬しちゃうものなのねぇ」
「は? 母上、俺は嫉妬してない。ただ、なぜ、わざわざ孤児を養子にするのか納得できてないだけ」
「あら、そうなの? 養子にする理由ね、大きなのは、そうね、貴族への輿入れが決まってるからかしら」
「箔付けかよ。だったら、うちじゃなくてもよかっただろ」
「そうね。だけど、私が引き取りたかったのよ」
おっとりとした中に確固たる意志をみせる母。そんな彼女にパーヴェルは納得できずともそれ以上何かをいうことはできなかった。
「そういえば、いつまでお休みなの?」
「……一週間程度」
「あら、それなら、ゆっくり顔合わせもできるわね」
楽しそうにするラリサに会いたくないとは言えない。しかし、すでに両親が決めて、縁組をしてしまったのなら、しょうがないとは思う。
「で、誰んとこに嫁ぐの」
「レオンチェフ公爵のご子息によ。来年には一緒になるそうよ」
「アルトゥールのところかよ!? は、あいつ、選り取り見取りだろ、何で、わざわざ孤児なんか選んでんだよ」
頭を掻きむしるパーヴェルに彼に婚約者ができたのは知ってたのねとのんびりと感想をこぼす。けれど、パーヴェルからしたらそれどころではない。今まで誰とも婚約をしなかった男が、ようやくしたと思ったら、相手は孤児。到底納得のできる話じゃない。認めたくない。
「明後日には迎えに行くから、仲良くしてあげてちょうだい」
母の言葉は右から左に抜け、パーヴェルはどうやって孤児如きがアルトゥールに近づけたのか思案していた。それと同時に魅了持ちかもしれないという警戒感を抱いた。
「は、初めまして、フェオドラ、えっと、あ、ウルヴィナです。よろしくお願いします」
義妹と顔を合わせたパーヴェルはあまりのフェオドラのちぐはぐさに驚くことになった。
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