黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

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黎明 縁は絡まり、星の手はさ迷う

迎え入れと顔合わせ

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 ラリサとマーカル夫妻の訪問から数日後、フェオドラのウルヴィン侯爵家へ養子入りが確定した。

「マーカル・ウルヴィン様にラリサ・ウルヴィナ様」
「そうよ。今日は顔合わせになるわね」

 養子先が決まったと知らされたフェオドラはヴェーラから夫妻の名を聞き、ゆっくり噛み締める。それをヴェーラは優しげに見つめ、この後の予定を告げた。

「彼らの所に住むようになるのは正式な手続きを終えた後よ。ここでの生活とはちょっと変わるかも知れないけど、フェオドラちゃんなら大丈夫」

 成人となる十六歳になれば、またこちらに戻ることになるのだが今はそれは必要ないだろうと言葉を噤む。

「パパも連れていっていいですか?」
「えぇ、勿論よ。彼女達にも話してあるわ」

 ギュッとぬいぐるみを抱き締めるフェオドラにヴェーラは頷く。
 とはいえだ、受け入れるといってくれたラリサ達にフェオドラの伏せていた部分を話した際、軽く聞いたものやりも酷い状態だったことにラリサは叫び声を上げて泣き崩れた。マーカルも呆然としていたのは記憶に新しい。
 そして、フェオドラの精神上重要なこととしてアルトゥール以外の男性は老年であればある程度は平気であるがそれ以外は拒否反応が出てしまうと言うことも伝えてある。そのため、常に精神安定剤ともなる黒いドラゴンのぬいぐるみを持ち歩いていると説明している。

「大丈夫? 行けるかしら?」

 ギュッギュッと無言で抱き締めては緩めてを繰り返すフェオドラに問う。再度ギュッと抱き締めたフェオドラは一つこくりと頷いた。
 ここに来てから成長し、色々と学んだとはいえ、中身はまだまだ幼子と言ってもいいだろう。それ故に行動はどこか幼さを伴っていた。

「入るわよ」

 応接室の扉をノックして、ヴェーラはフェオドラの背に手を沿わせながら、入室する。
 フェオドラは入る直前に片手でスカートを摘まみ、カーテシーをして、部屋に足を踏み入れる。そんなフェオドラをラリサとマーカルはソファから立ち上がり迎えた。互いに自己紹介を終え、彼女たちの前の席に座ろうとするフェオドラにヴェーラはよかったら二人の間に座りなさいと勧め、二人もそっと端に避け、フェオドラが座れるスペースを作った。

「えっと、その、失礼します」

 そう言ってちょこんと二人の間に腰を下ろしたフェオドラ。ただ、座ったはいいがどうしたらいいか分からず、ぬいぐるみの手をもみもみとして遊ぶ。そんなフェオドラを間近で見たラリサの目には収めた筈の涙の膜が張る。

「それはお母様が作ってくれたの?」
「うん、いや、はい。ママがパパだよって」
「そう、カッコいいわね」
「ママもパパは凄くカッコいいのよって言ってました」

 口元に笑みを浮かべて話すフェオドラにラリサはそう、それでと相槌を打ち、一生懸命に話すフェオドラの言葉に耳を傾ける。

「ねぇ、フェオドラちゃん」
「はい」
「えーと、その、ね」
「はい」

 ラリサは話が一区切りついた段階でフェオドラに言葉をかける。真っ直ぐラリサを見つめるフェオドラにラリサは言葉を詰まられ、言い淀む。

「ラーラ、大丈夫だよ」
「え、えぇ、そうね、そうよね」
「えっと、具合、悪いのですか?」
「いいえ、そうではないの。そう、フェオドラちゃん」
「はい」
「私たちの子供になってくれないかしら」

 貴女がいいのなら、是非とも私たちの子供になってほしいのと夫に勇気をもらい、フェオドラに告げる。フェオドラはそうと言われるなど思ってもみなかったため、判断に困り、ちらりとヴェーラを見た。ヴェーラはフェオドラに何か言うこともなく、にこりと微笑み、貴女の思うようにしていいのよと頷く。

「えっと、よろしくおねがいします」

 おずおずとそう口にして頭を下げれば、ラリサはわなわなと身を震わせた後、ギュッとフェオドラを抱き締めた。

「ふんぎゅ」

 抱きしめられたフェオドラはラリサのふくよかな胸に頭が埋まる。嬉しい、ありがとうというラリサはそのことに気づいていないようで締め付けを緩めない。始めこそはそれを受け入れていたようだが次第にむーっ、むーっと苦しそうな声を上げるフェオドラ。

「ラーラ、フェオドラ君が苦しがってる」
「あ、あら、ごめんなさい」
「相変わらず、ラーラの胸は凶器ね」

 マーカルとヴェーラはそんなフェオドラに気付き、慌てて嬉しいのはわかるけどとラリサから引き剥がす。

「はふっ、くる、苦しかった」

 引き剥がされ、呼吸ができるようになったフェオドラははぁはぁと息継ぎをする。その背を、すまなかったねとマーカルが摩る。

「ごめんなさいね、私ったら嬉しくて」
「だ、大丈夫です、平気です」

 息を整えるフェオドラにラリサは本当に申し訳なかったと眉を下げ、謝罪した。それから、またぽつりぽつりと会話を交わす。

「フェオドラちゃん……えっと、テオちゃんって呼んでもいいかしら」

 徐にそう尋ねたラリサにフェオドラがこくりと頷けば嬉そうに笑顔を浮かべる。あ、このパターンって思ったフェオドラは体を強ばらせるも、さっきみたいなことはなく、優しくその腕に包まれた。

「ら、ラリサ様?」
「そうやって呼ばれるのもいいけど、できたら、『お養母かあ様』か『養母かあ様』と呼んでほしいわ」
「あ、私は『お養父とう様』でよろしく頼む」

 折角、家族になるのだしという二人にフェオドラはおずおずと口を開く。

「お養母かあ様、お養父とう様」

 一音一音大切に発音するフェオドラに二人の目尻も下がる。

「パパとママはご両親に残しておきましょうね」
「言っていてもいいのですか?」
「えぇ、勿論よ。だって、貴女にとってパパとママは彼ら以外にいないでしょう」

 呼んではダメと言われると思っていたらしいフェオドラは目を潤ませるとありがとうございますと感謝を告げた。

「これからゆっくり家族になりましょう」

 優しい言葉にフェオドラはこくこくと頷く。そして、二言三言交わし、ヴェーラを交えて今後の話をする。

「では、後日改めてテオ君を迎えに来よう」
「ああ、帰ってから大忙しね。テオちゃんのお部屋にお洋服。息子だけでいいと思ってたけど、娘もいいわね。テオちゃんが慣れてきたら一緒にお買い物もしたいわ」

 夢が広がるとはしゃぐラリサにマーカルは数日前までぼろ泣きだったのにと苦笑いを零している。
 まだまだ語り足りないらしいラリサにはいはい帰ったら存分に聞くよとマーカルは約束しながら、帰っていった。
 無事に終わった顔合わせに一息吐き、夜にはアルトゥールにそうなったと報告が伝えられる。



「……虐められたら言うんだ、いいな」
「えっと、はい」
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