黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

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暁 星が宿り、縁が交わる

閑話:ななしのおとぎ話(後)

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 ミーラはそれはそれは愛されてました。王様から沢山のものをもらっていました。髪や肌の手入れは毎日行い、食事も美味しいものを沢山。けれど、太れば食事はなくなり、痩せすぎれば沢山口に詰め込まれました。ミーラにとってそれはごく普通のことでした。そう、ミーラの世界はヤーシャと出会うまで塔の中だけだったのです。
 王様はミーラに知識や自由を与えず、ペットのように扱っていたのです。

「もう、いっそのこと連れ去ったらいいんじゃないか」

 レーラがそんなことを言います。けれど、ヤーシャは渋ります。待っていると約束してくれたミーラを裏切るように思えたからです。

「裏切るってなにを? 元々、約束を破ったのは王様の方だろ」

 そんなに王様の許可がいるなら私がとってきてやるとレーラが言います。一介の兵士であるレーラにそんなことが出来るはずがないのは人の世界が浅いヤーシャにもわかります。きっと、自分を鼓舞してくれたのだと思いました。

「お? 冗談だと思ってるな、私は本気だぞ」
「わかったわかった、ダメ元で頼もう。けど、ミーラとは話し合って決めたい」
「ダメ元ってなんだよ。まぁ、どうするかは二人で決めればいいさ。逃避行するってなら、協力は惜しまないぞ」

 お前のおかげで成果もあげられてるしなとレーラは笑います。それにヤーシャもそれはありがたいと頬を緩ませました。
 それから、ヤーシャはミーラに少しずつ塔の外の世界を教えていきました。彼女が混乱してしまわないように知識を与えたのです。そして、塔の世界は異常なのだと伝えます。それをミーラは理解しました。王様はミーラは知識を与えていないから頭がよくないと侮っていました。けれど、ミーラは王様から与えられるものとヤーシャから与えられるものをきちんと精査できました。

「連れていって」

 ミーラからそう言葉が紡がれました。どんなに困難でも貴方の側に居たいのですという彼女にヤーシャはわかったとミーラを抱きしめました。




「もらってきた」
「どうやって」
「さぁ、どうやってだろうな。ま、王様は酒に弱いからさ」

 レーラから差し出された紙には『ヤーシャにミーラを与える』と書かれ、王様の署名も入っています。驚くヤーシャにレーラは紙を押しつけ、話はついてるんだろ、さあ行けとヤーシャの背を押します。

「お前はどうするんだ」

 つるんでいたのを王様は知っています。だから、少なからず信頼するレーラが心配になりました。

「お前らが出ていった後、すぐに隣国に行くさ」

 心配するなというレーラにそうかと頷き、ヤーシャは龍の姿に戻ってミーラを迎えにいきます。王様の署名ももらった、いなくなっても問題はないと告げ、ヤーシャはミーラを連れ飛び立ちました。
 その後、ミーラの塔を訪れた王様はミーラの代わりに置かれた署名を見て、怒ります。拐われた、連れ戻せ、龍は殺せと騒ぎ立てます。勿論、その言葉の中にはつるんでいたレーラを連れてこいもいう命令もありました。けれど、レーラはその時には隣国に発ったのです。しかも、国とは縁を切り、婿として隣国に発った彼を捕まえることなどできませんでした。それから、程なくして王様の国は衰退しました。




「おかーさま、おとーさま」

 魔獣の蔓延る森に可愛らしい声が響きます。ミーラはその声に夫となったヤーシャを連れ、家を出ます。そして、バッグを肩にかけ、お出かけ様相の娘に言葉をかけます。

「テオ、あまり遠くに行ってはダメですよ」
「はーい、わかってまーす」

 元気よく返事をする愛娘のテオにミーラは微笑み、ヤーシャは全く手のかかると苦笑いをこぼします。けれど、二人にとってテオはかけがえのない存在です。危ない森に出てほしくはありません。けれど、自分で触れて、歩いて、色んなものを見てほしいとヤーシャが見守り、ミーラは二人が帰ってくる家を守るのです。
 そして、時折、レーラが息子たちを連れて遊びに来ます。困難なこともあります。けれど、子供にも恵まれ、ミーラとヤーシャは幸せに暮らしましたとさ。








「あら、またそのお話を聞かせてましたの?」
「ん、あぁ、ダメだったかい?」
「ダメではありませんよ。けど、この間、アーテャにずっと同じ話ばかりすると愚痴ってましたのよ」
「んぐっ、そ、そうか」

 すよすよと眠る息子の心の内を聞かされ、がくりと肩を落とす。上手いこと仕事が片付き、息子たちと過ごす時間が作れたからと喜んで枕元で話していたのだが、少々やり過ぎたようだ。

「まぁ、この子もあなたがあの話を気に入ってるから大人しく聞いているのでしょうけど」
「それは、なんというか、恥ずかしいな」

 妻の言葉に苦笑いをこぼし、次は別の話を仕入れることにするよと告げる。けれど、また次も同じ話をしてしまうのだった。
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