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暁 星が宿り、縁が交わる
閑話:ななしのおとぎ話(前)
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ある所に星を目に宿した黒い龍が住んでいました。黒い龍はとっても強かったため、周りの動物たちから孤立していました。
そんな黒い龍はある時、何を思ったのか人間の住む街へふらふら~と飛んでいきます。暗い暗い夜のことだったので、人間達は龍の姿に気づきませんでした。
一際大きな建物までくるとピタリと龍は止まりました。そして、ジーッと何かを見つめていました。
それは大きな建物の敷地内にある塔でした。龍がジーッと見つめていると塔の窓が開き、一人の美しい女性が顔を覗かせました。そして、空を見上げ、ばちりと目が合います。ふわりと笑った彼女に龍は戸惑います。ずっと恐れられてきた龍は彼女のように笑いかけてくれる存在がいなかったのです。
「こちらにいらっしゃいませんか?」
鈴のような美しい声の問いかけに龍は恐る恐る塔へと近づきました。彼女はミーラと名乗りました。
「貴方様のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「名などない。お前の好きに呼べばいい」
「あら、そうなのですか? どうしましょう」
ミーラは一切龍を怖がるそぶりを見せず、龍に名前がないことを本当に困っているようでした。龍はそんなミーラを変わった娘だなと思いながら見つめていました。
「あ、では、ヤーシャとはどうでしょう」
「好きにすればいい」
「えぇ、えぇ、貴方はヤーシャ。私はミーラ、よろしくお願いしますね」
ヤーシャと名をもらった龍はぶっきらぼうに好きにしろと言っていましたかがその尾は嬉しそうに揺れていました。それから、ヤーシャは夜の度にミーラのもとを訪れるようになりました。
ミーラは生まれてからずっと等で暮らしていて、一度も外へと行ったことがないと言っていました。そのため、今日は隣国の方は雨だった、お前のように綺麗な花が咲いているところがあった、などとヤーシャは見たものをミーラに語って聞かせました。ミーラはそれはもう夜が楽しみになるほど彼の話に聞き入ってました。
ある時、ヤーシャはミーラが結婚するという話を耳にしました。結婚という意味を知らないヤーシャは夜、ミーラのところを訪れた後、塔の近くにいた一人の兵士を捕まえました。兵士は何処かミーラに似ていました。怯える兵士に結婚とは何かと問います。兵士は怯えながらも結婚とは夫婦になることだと、夫婦とは番になることだと伝えます。夫婦というのがわからなかったけれど番ということはわかりました。
「どうすれば、ミーラと番になれる」
「へぁっ」
詰め寄られた兵士はミーラはこの国のお姫様だから王様に許可をもらわないとなれないと告げます。それにヤーシャはわかったといい、兵士を放って飛んでいきました。
次の日、王国は大騒ぎになりました。龍が王女を妻にと望んだからです。怖がる人々をよそに王様は人の姿を持たぬ獣風情にやれるかとハッキリと言いました。それに周りは龍が暴れるのではないかとヒヤヒヤと見つめます。そんな周りの心情など興味のない龍はわかった、人の姿になればいいのだなと言って飛び去っていきました。
「どうやったら、人になれる」
「なんで、私に聞くの!?」
ヤーシャが問うたのは以前結婚のことを尋ねた兵士でした。再び自分の前に現れたヤーシャに驚き、困惑しつつも人を知ることから始めるべきではと伝えます。
「なら、お前が教えろ」
ひどい、言い方です。けれど、断っても付きまとわれる予感もあって、渋々わかったと頷きました。
「……お前、名前は?」
「レーラだけど、なんで名前なんて聞くんだよ」
「ミーラと似てるな」
「いや、私の質問に答えてないし」
「ミーラが言ってたから。話を聞くのならば名前は知っておかないといけないと」
レーラと名乗った兵士はヤーシャの言葉にへぇと空返事します。随分と飼い慣らされたものだと思ったからです。それから、ヤーシャは度々レーラのもとへと訪れ、人を学びました。そして、人の姿を得るまでになりました。黒髪黒目の精悍な青年の姿になったヤーシャはそれをまず始めにミーラに披露しました。頬を染めて喜ぶミーラにヤーシャは跪きます。
「ミーラ、俺の妻になってほしい」
「はい、ですが、父が」
「王様から必ず許可はとる。だから、待っていてほしい」
「はい、お待ちしております」
レーラに教えられた誓いをミーラとし、ヤーシャは再び王様の前に姿を現しました。人の姿でです。
けれど、王様は許可を下ろしませんでした。その上に更に条件を付け加えました。龍の力を使わず、戦争に勝てと。戦争など下らないと吐き捨てようと思いましたが、王様はできぬならやらぬ、去れと言うのです。待っていてくれるミーラのため、ヤーシャはそれを受けました。
「で、私のところになんでくるんだよ!!」
相談はレーラにします。当然とばかりに訪れたヤーシャにレーラは頭を抱えつつも、協力してくれました。武器の名称や使い方の初歩的なことから戦術にわたるまで教え込みます。ただ、ヤーシャは武器の扱いが巧みでした。それはかつて自分を討伐にきた人々を見ていたからだといいます。彼らは強かった。だから、参考にしたといい、レーラにもその技を教えてくれました。
そして、ヤーシャと彼に学び頭角を表したレーラの二人は王様の出した条件である戦争に勝ちました。
けれど、王様は許可をくれません。そればかりか、新たな課題を言い渡します。
やれどこどこの魔獣を退治しろ、やれどこそこの問題を解決しろなどといくらこなしても次々に課題を渡してきます。それを疑問に思わないほどバカなヤーシャではありませんでした。
王様は龍がただ人の形を模しただけだと思っていました。だから、王様は知りませんでした。龍が、ヤーシャが、人の心を学び、レーラを通して繋がりを持ち、人の考えを読み解くようになっていたなんて思いもよらなかったのです。
だから、王様は王女を渡す気がないとヤーシャに察せられるなどと思わなかったのです。
そんな黒い龍はある時、何を思ったのか人間の住む街へふらふら~と飛んでいきます。暗い暗い夜のことだったので、人間達は龍の姿に気づきませんでした。
一際大きな建物までくるとピタリと龍は止まりました。そして、ジーッと何かを見つめていました。
それは大きな建物の敷地内にある塔でした。龍がジーッと見つめていると塔の窓が開き、一人の美しい女性が顔を覗かせました。そして、空を見上げ、ばちりと目が合います。ふわりと笑った彼女に龍は戸惑います。ずっと恐れられてきた龍は彼女のように笑いかけてくれる存在がいなかったのです。
「こちらにいらっしゃいませんか?」
鈴のような美しい声の問いかけに龍は恐る恐る塔へと近づきました。彼女はミーラと名乗りました。
「貴方様のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「名などない。お前の好きに呼べばいい」
「あら、そうなのですか? どうしましょう」
ミーラは一切龍を怖がるそぶりを見せず、龍に名前がないことを本当に困っているようでした。龍はそんなミーラを変わった娘だなと思いながら見つめていました。
「あ、では、ヤーシャとはどうでしょう」
「好きにすればいい」
「えぇ、えぇ、貴方はヤーシャ。私はミーラ、よろしくお願いしますね」
ヤーシャと名をもらった龍はぶっきらぼうに好きにしろと言っていましたかがその尾は嬉しそうに揺れていました。それから、ヤーシャは夜の度にミーラのもとを訪れるようになりました。
ミーラは生まれてからずっと等で暮らしていて、一度も外へと行ったことがないと言っていました。そのため、今日は隣国の方は雨だった、お前のように綺麗な花が咲いているところがあった、などとヤーシャは見たものをミーラに語って聞かせました。ミーラはそれはもう夜が楽しみになるほど彼の話に聞き入ってました。
ある時、ヤーシャはミーラが結婚するという話を耳にしました。結婚という意味を知らないヤーシャは夜、ミーラのところを訪れた後、塔の近くにいた一人の兵士を捕まえました。兵士は何処かミーラに似ていました。怯える兵士に結婚とは何かと問います。兵士は怯えながらも結婚とは夫婦になることだと、夫婦とは番になることだと伝えます。夫婦というのがわからなかったけれど番ということはわかりました。
「どうすれば、ミーラと番になれる」
「へぁっ」
詰め寄られた兵士はミーラはこの国のお姫様だから王様に許可をもらわないとなれないと告げます。それにヤーシャはわかったといい、兵士を放って飛んでいきました。
次の日、王国は大騒ぎになりました。龍が王女を妻にと望んだからです。怖がる人々をよそに王様は人の姿を持たぬ獣風情にやれるかとハッキリと言いました。それに周りは龍が暴れるのではないかとヒヤヒヤと見つめます。そんな周りの心情など興味のない龍はわかった、人の姿になればいいのだなと言って飛び去っていきました。
「どうやったら、人になれる」
「なんで、私に聞くの!?」
ヤーシャが問うたのは以前結婚のことを尋ねた兵士でした。再び自分の前に現れたヤーシャに驚き、困惑しつつも人を知ることから始めるべきではと伝えます。
「なら、お前が教えろ」
ひどい、言い方です。けれど、断っても付きまとわれる予感もあって、渋々わかったと頷きました。
「……お前、名前は?」
「レーラだけど、なんで名前なんて聞くんだよ」
「ミーラと似てるな」
「いや、私の質問に答えてないし」
「ミーラが言ってたから。話を聞くのならば名前は知っておかないといけないと」
レーラと名乗った兵士はヤーシャの言葉にへぇと空返事します。随分と飼い慣らされたものだと思ったからです。それから、ヤーシャは度々レーラのもとへと訪れ、人を学びました。そして、人の姿を得るまでになりました。黒髪黒目の精悍な青年の姿になったヤーシャはそれをまず始めにミーラに披露しました。頬を染めて喜ぶミーラにヤーシャは跪きます。
「ミーラ、俺の妻になってほしい」
「はい、ですが、父が」
「王様から必ず許可はとる。だから、待っていてほしい」
「はい、お待ちしております」
レーラに教えられた誓いをミーラとし、ヤーシャは再び王様の前に姿を現しました。人の姿でです。
けれど、王様は許可を下ろしませんでした。その上に更に条件を付け加えました。龍の力を使わず、戦争に勝てと。戦争など下らないと吐き捨てようと思いましたが、王様はできぬならやらぬ、去れと言うのです。待っていてくれるミーラのため、ヤーシャはそれを受けました。
「で、私のところになんでくるんだよ!!」
相談はレーラにします。当然とばかりに訪れたヤーシャにレーラは頭を抱えつつも、協力してくれました。武器の名称や使い方の初歩的なことから戦術にわたるまで教え込みます。ただ、ヤーシャは武器の扱いが巧みでした。それはかつて自分を討伐にきた人々を見ていたからだといいます。彼らは強かった。だから、参考にしたといい、レーラにもその技を教えてくれました。
そして、ヤーシャと彼に学び頭角を表したレーラの二人は王様の出した条件である戦争に勝ちました。
けれど、王様は許可をくれません。そればかりか、新たな課題を言い渡します。
やれどこどこの魔獣を退治しろ、やれどこそこの問題を解決しろなどといくらこなしても次々に課題を渡してきます。それを疑問に思わないほどバカなヤーシャではありませんでした。
王様は龍がただ人の形を模しただけだと思っていました。だから、王様は知りませんでした。龍が、ヤーシャが、人の心を学び、レーラを通して繋がりを持ち、人の考えを読み解くようになっていたなんて思いもよらなかったのです。
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