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暁 星が宿り、縁が交わる
内定の婚約者
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とある日、アルトゥールは家族と揃って食堂にいた。何故かトロフィムもいるがそこは目を瞑る。
「で、何故集まってるんです」
疑問を呈するのはアルトゥールだ。それにヴィークトルとトロフィムは呼ばれたからきたというしかない。ヴェーラとジナイ―ダに関しては口元を扇で隠しているが目が笑っている。ろくでもないことだなとアルトゥールの頭は結論を出した。
「失礼します」
コンコンと可愛らしいノックの音に続き、可愛らしい声にガタリとアルトゥールが席を立つ。しかし、ヴェーラに笑顔で座りなさいと圧をかけられ、顔は扉に固定されたまま、着席。その顔はかなり焦りと動揺になっていたが、それはヴィークトルとトロフィムも気持ちがわかった。
カチャッとノブの音が聞こえ、扉が開かれる。そして、フェオドラが入ってきた。顔に何か遮るものがあるわけでもなく平然としている。
「フェオドラ、無理は――」
「大丈夫です」
緊張もなく微笑むフェオドラにアルトゥールは喜べばいいのか安堵すればいいのかわからない。
「フェオドラ嬢、また布被ろうか?」
「殿下、お止めくだされ」
「冗談だよ」
「ご心配おかけしてすみません。ひとまずはこうして大丈夫です」
トロフィムとヴィークトルの会話にくすりと笑い、フェオドラは頭を下げる。恐怖で言葉を詰まらせることなく落ち着いた雰囲気で喋るフェオドラに男性陣はホッとする。そうしていると、気にならなかったものが目に入ってくる。
「~~~~ッ」
「おぉ、フェオドラ嬢、完成したんだね、おめでとう」
「フェオドラ君のパパだったかな、それは。確か、以前見た時は服は着てなかったと思ったんだが」
フェオドラが腕に抱いているものがナニか理解するとアルトゥールは声にならない声をあげて天を仰ぎ、トロフィムは事情を把握したのだろう身を乗りだし、ヴィークトルは不思議そうに目を丸くする。
「はい、トロフィム様に協力していただき、ようやく完成いたしました。また、その、他の制服を作成していただき、感謝いたします」
「いいよいいよ、私が好きでやったことだし。それに――」
目元を赤らめパパを抱き締めながら礼を告げるフェオドラにトロフィムは手を降る。それにと言葉を切ってアルトゥールを見てそれはもう楽しげな笑みを浮かべる。
「アーテャのいい反応が見られて面白いから」
ケラケラと笑っているとアルトゥールは戻ってきたのだろう、天からフェオドラに視線を向ける。
「フェオドラ、最近何かか隠していると思ったらそれだったのか」
「はい、ヴェーラ様やジーニャ様に相談した際に提案され、トロフィム様や職人の方に協力していただき、縫い上げました」
このパパなくしてはまだ平常に男性の方とお話ができません。とフェオドラが説明するとアルトゥールは協力者らに全くと呆れた目を向けるとその口許は緩い。
「なるほど、アーテャの制服なんだね。殿下、かの生地の流用は」
「わかってる。わかってるよ。父上にも報告して特例で作ってもらったものだ。それに彼に使っている制服の生地は更に特殊なものになっているから、複製はできない」
騎士の制服は特殊な生地を使い、製作されているため必ず提供されるもので騎士を引退した際は返却する必要のあるもの。それは犯罪に利用されないためという大きな理由があった。そのため、宰相をやっているヴィークトルはそれをトロフィムに指摘。しかし、トロフィムも理解しているため、そうならないための対策を行った。
「この生地、とっても落ち着く匂いがして、大丈夫だと思えるんです」
なるほど、と察したのはやられたアルトゥールとそれを目撃したヴィークトルだ。トロフィム曰く今パパが身に付けている巡回騎士の制服は勿論、他の制服にもしっかりばっちり組み込んでいるそう。
「テオ、他にもパパの制服作ったのね」
「私はこれを作るのだけで手一杯でした」
「他は折角だからと私が送りつけたようなものだ」
ずっと同じ制服を着せていても面白味がないだろうと言う。あの時帰りまでにマルクにパパのサイズを用意してもらい、職人からは一着を仕上げるだけで手一杯だとトロフィムは聞いていた。そして、本人は覚えていないようだが来た当初などランドリーからアルトゥールの脱いだ服が抜き取られ、犯人が幸せそうにその服にくるまっていたなんて事件もメイドから聞いた。なのでと思って、やってみたのだが、トロフィムの思った以上の成果が出たようだ。
「うん、まぁ、そうか、それにしても、元気そうなフェオドラ君の顔が見られてよかったよ」
あの時はすまんな、あとでアルトゥールにこってり叱られたよと笑って言えば、フェオドラはとんでもないと首を振る。そして、ご面倒しかかけてないのが本当に申し訳ないと肩を落とす。
「そうか、じゃあ、フェオドラ君に頼みたいことがあるのだがいいかね」
「はい? 私でよければ」
「ではね、これを読んで、サインをしてもらってもいいかね」
丁度よかったとヴィークトルはいそいそと持ってきていた鞄から紙を取り出す。そこには既に王の証印までされていた。席をすすめ、座ったフェオドラの前にその紙を差し出す。
「な゛、父上」
「なんだ、フェオドラ君が他に嫁に行ってもいいのかい?」
「いや、それは、その……嫌、ですが」
「あくまでこれは内定だ。フェオドラ君の養子先が決まれば、細々とした正式な婚約は行うつもりだ」
何を取り出したのかわかったのだろうアルトゥールが声をあげるがヴィークトルの言葉にたじろぐ。
「養子先、ですか?」
「フェオドラ君は今の立場では色々と言われてしまう。なので、それを言わせないためにも何処かの貴族に養子として入ってもらう。勿論、養子先は信頼できるところにするとも」
「本当はうちでもいいのだけど。そうなると逆にアルトゥールと結婚する際につつかれちゃうから」
フェオドラちゃんが嫌な思いをすると思ってねとヴェーラ。それよりもフェオドラはアルトゥールと結婚ということに顔を赤らめ、パパに顔を埋める。
「……うん、いい反応だ。ちなみにサインはフルネームで頼むよ」
「フルネーム」
「そう、君がお母さんから習った名前だ」
「フェオドラ、無理して書く必要はないからな」
ペンを持ち、フェオドラはサラサラと自分の名前を記入。アルトゥールに紙が回される。
自分も書かねばとペンに手を伸ばせば、ペンは父親に片付けられてしまう。意味がわからないと眉を顰めるとヴィークトルはそれはお前が持ってなさいと告げる。
「内々の書類だ。フェオドラ君にはすまないがお前はいつ署名してもいい。ただ、フェオドラ君を守る気があるなら、だ。他人では守れないことの方が多いことだけは覚えておけ」
「……トゥーラ様、私は――」
大丈夫ですよとフェオドラは声をかける前にアルトゥールは懐からペンを取り出し、自分の名前を書きあげた。
「あんな思いはしたくない」
フェオドラが攫われた時、ひどく動揺した。その上に、攫われたのは孤児なのだしゆっくり探せばなどという言葉もアルトゥールの耳に入ってきていた。怒りで頭が沸騰するかと思った。だが、あくまでアルトゥールとフェオドラは他人で保護したされたの関係でしかなかった。そう、だから冷静に冷静にと怒りを抑えつけた。それがまた起こるとしたら、可能性は零ではない。だからこそ、アルトゥールは名前を書いた。フェオドラを守るために。
「で、あれで恋愛感情ナシなわけ?」
「多分、本人が気づいてないだけだと思いますけど」
こそこそとトロフィムとジナイ―ダは言葉を交わす。トロフィム自体はまぁ、珍しいもの見れるしいいけどと笑みを浮かべ、ジナイ―ダは早く自覚してほしいものですと苦笑いを浮かべた。
侯爵家に打診という事は確定していた。そして、そのうち、二家は娘しかいない家のため、女世界のことを考え、却下。ジナイ―ダの嫁入り先であるユリエフ家は娘の嫁入り先という事もあり候補から外した。残る二家で考えていたが――。
「ウルヴィン侯爵家に打診する」
「……えぇ」
「ただ、夫人のフェオドラ君を見た時の反応によっては」
「勿論、分かってるわ」
パーティでの取り乱し方を見ていた二人は信頼も信用もしている家なのだが苦渋の決断をすると頷き合う。
「きっと、大丈夫だと思うの」
「まぁ、ダメな時はもう一つの侯爵家に打診してみよう。まずは遠めからフェオドラ君を見てもらって」
「えぇ、何かあった時は私が彼女をフォローするわ」
「アルトゥールの婚約者に内定していることもきちんと話しておかねばな」
「えぇ、そうね」
正式な婚約者となったら、王にも挨拶に行かないとなと言えば、そうねとヴェーラは返事する。この先がもっと大変だろうと少なからず予想はついていた。けれど、あの二人が幸せになれるなら、やれることはやってあげようと手を取り合う。
「只今、パーヴェル・ウルヴィン、帰還いたしました――なんつって」
「うるさいのが帰ってきたな」
「いやいや、お前ね、そういうことは言わないの。で、報告は」
トロフィムの執務室に元気よく入ってきたのは炎のような紅く、裾が黄金の髪をもつ精悍な顔つきの青年――パーヴェル・ウルヴィンだった。ここ一年、各領地の確認に部隊を伴い奔走していた。
「あ、はいはい、報告ね」
めんどくせーと声に出さずとも態度から聞こえ、トロフィムとアルトゥールは顔を見合わせる。それから、相変わらずだなと溜息を吐いて彼の報告に耳を向けた。
「ファトクーリン領は例年よりもかなり酷かった。あれだけ、豊かだと言われてたが実際訪れた時には飢饉や干ばつなんて、ボロボロな状態だった」
「そう言えば、援助を求める嘆願書が上がってきていたな」
「逆にレオンチェフ領はめっちゃ、豊かになってた。え、ナニコレ、レベルだったんだが」
「そういや、昨年は豊作だって言われたな。病気なども流行らなかったとも」
「……えっと、どういうこと??」
訳が分からんとばかりに頭を抱えたトロフィムにアルトゥールとパーヴェルは顔を見合わせ俺らもわからんよなと首を傾げる。
「あ、そうだ、それよりもさ、聞いたぞ、アルトゥール、婚約したんだってな」
「それよりもって、いや、こっちのほうが重要なんだけど」
「まぁ、まだ内々のだがな」
「こっちは婚約解消されたのにいいよな。で、美人、美人なの!?」
あれだけアルトゥールが婚約者をとらなかったのにあっさりとったという事はかなりの美人なのだろうなとパーヴェルは興奮した様子だ。
「まぁ、美人だね、あの子は」
「え、殿下は会ったの!? なぁなぁ、アルトゥール、俺も会いたい、見たい」
「どうせ、そのうち会うだろ」
煩いからとっとと帰れというアルトゥールに会いたい会いたいと駄々をこねるパーヴェル。そんな光景をあぁいつもの光景が戻ってきたんだなと思いながら、補佐官は彼らの止まった筆の代わりに黙々と自分の筆を動かし続けた。
そんな補佐官もアルトゥールたちもまるで想像していなかった。まさか、パーヴェルとアルトゥールの婚約者となったフェオドラが家族となって顔を合わせることになるとは。そして、そこからまた一騒動が起こるとはこの時は思いもしなかった。
「で、何故集まってるんです」
疑問を呈するのはアルトゥールだ。それにヴィークトルとトロフィムは呼ばれたからきたというしかない。ヴェーラとジナイ―ダに関しては口元を扇で隠しているが目が笑っている。ろくでもないことだなとアルトゥールの頭は結論を出した。
「失礼します」
コンコンと可愛らしいノックの音に続き、可愛らしい声にガタリとアルトゥールが席を立つ。しかし、ヴェーラに笑顔で座りなさいと圧をかけられ、顔は扉に固定されたまま、着席。その顔はかなり焦りと動揺になっていたが、それはヴィークトルとトロフィムも気持ちがわかった。
カチャッとノブの音が聞こえ、扉が開かれる。そして、フェオドラが入ってきた。顔に何か遮るものがあるわけでもなく平然としている。
「フェオドラ、無理は――」
「大丈夫です」
緊張もなく微笑むフェオドラにアルトゥールは喜べばいいのか安堵すればいいのかわからない。
「フェオドラ嬢、また布被ろうか?」
「殿下、お止めくだされ」
「冗談だよ」
「ご心配おかけしてすみません。ひとまずはこうして大丈夫です」
トロフィムとヴィークトルの会話にくすりと笑い、フェオドラは頭を下げる。恐怖で言葉を詰まらせることなく落ち着いた雰囲気で喋るフェオドラに男性陣はホッとする。そうしていると、気にならなかったものが目に入ってくる。
「~~~~ッ」
「おぉ、フェオドラ嬢、完成したんだね、おめでとう」
「フェオドラ君のパパだったかな、それは。確か、以前見た時は服は着てなかったと思ったんだが」
フェオドラが腕に抱いているものがナニか理解するとアルトゥールは声にならない声をあげて天を仰ぎ、トロフィムは事情を把握したのだろう身を乗りだし、ヴィークトルは不思議そうに目を丸くする。
「はい、トロフィム様に協力していただき、ようやく完成いたしました。また、その、他の制服を作成していただき、感謝いたします」
「いいよいいよ、私が好きでやったことだし。それに――」
目元を赤らめパパを抱き締めながら礼を告げるフェオドラにトロフィムは手を降る。それにと言葉を切ってアルトゥールを見てそれはもう楽しげな笑みを浮かべる。
「アーテャのいい反応が見られて面白いから」
ケラケラと笑っているとアルトゥールは戻ってきたのだろう、天からフェオドラに視線を向ける。
「フェオドラ、最近何かか隠していると思ったらそれだったのか」
「はい、ヴェーラ様やジーニャ様に相談した際に提案され、トロフィム様や職人の方に協力していただき、縫い上げました」
このパパなくしてはまだ平常に男性の方とお話ができません。とフェオドラが説明するとアルトゥールは協力者らに全くと呆れた目を向けるとその口許は緩い。
「なるほど、アーテャの制服なんだね。殿下、かの生地の流用は」
「わかってる。わかってるよ。父上にも報告して特例で作ってもらったものだ。それに彼に使っている制服の生地は更に特殊なものになっているから、複製はできない」
騎士の制服は特殊な生地を使い、製作されているため必ず提供されるもので騎士を引退した際は返却する必要のあるもの。それは犯罪に利用されないためという大きな理由があった。そのため、宰相をやっているヴィークトルはそれをトロフィムに指摘。しかし、トロフィムも理解しているため、そうならないための対策を行った。
「この生地、とっても落ち着く匂いがして、大丈夫だと思えるんです」
なるほど、と察したのはやられたアルトゥールとそれを目撃したヴィークトルだ。トロフィム曰く今パパが身に付けている巡回騎士の制服は勿論、他の制服にもしっかりばっちり組み込んでいるそう。
「テオ、他にもパパの制服作ったのね」
「私はこれを作るのだけで手一杯でした」
「他は折角だからと私が送りつけたようなものだ」
ずっと同じ制服を着せていても面白味がないだろうと言う。あの時帰りまでにマルクにパパのサイズを用意してもらい、職人からは一着を仕上げるだけで手一杯だとトロフィムは聞いていた。そして、本人は覚えていないようだが来た当初などランドリーからアルトゥールの脱いだ服が抜き取られ、犯人が幸せそうにその服にくるまっていたなんて事件もメイドから聞いた。なのでと思って、やってみたのだが、トロフィムの思った以上の成果が出たようだ。
「うん、まぁ、そうか、それにしても、元気そうなフェオドラ君の顔が見られてよかったよ」
あの時はすまんな、あとでアルトゥールにこってり叱られたよと笑って言えば、フェオドラはとんでもないと首を振る。そして、ご面倒しかかけてないのが本当に申し訳ないと肩を落とす。
「そうか、じゃあ、フェオドラ君に頼みたいことがあるのだがいいかね」
「はい? 私でよければ」
「ではね、これを読んで、サインをしてもらってもいいかね」
丁度よかったとヴィークトルはいそいそと持ってきていた鞄から紙を取り出す。そこには既に王の証印までされていた。席をすすめ、座ったフェオドラの前にその紙を差し出す。
「な゛、父上」
「なんだ、フェオドラ君が他に嫁に行ってもいいのかい?」
「いや、それは、その……嫌、ですが」
「あくまでこれは内定だ。フェオドラ君の養子先が決まれば、細々とした正式な婚約は行うつもりだ」
何を取り出したのかわかったのだろうアルトゥールが声をあげるがヴィークトルの言葉にたじろぐ。
「養子先、ですか?」
「フェオドラ君は今の立場では色々と言われてしまう。なので、それを言わせないためにも何処かの貴族に養子として入ってもらう。勿論、養子先は信頼できるところにするとも」
「本当はうちでもいいのだけど。そうなると逆にアルトゥールと結婚する際につつかれちゃうから」
フェオドラちゃんが嫌な思いをすると思ってねとヴェーラ。それよりもフェオドラはアルトゥールと結婚ということに顔を赤らめ、パパに顔を埋める。
「……うん、いい反応だ。ちなみにサインはフルネームで頼むよ」
「フルネーム」
「そう、君がお母さんから習った名前だ」
「フェオドラ、無理して書く必要はないからな」
ペンを持ち、フェオドラはサラサラと自分の名前を記入。アルトゥールに紙が回される。
自分も書かねばとペンに手を伸ばせば、ペンは父親に片付けられてしまう。意味がわからないと眉を顰めるとヴィークトルはそれはお前が持ってなさいと告げる。
「内々の書類だ。フェオドラ君にはすまないがお前はいつ署名してもいい。ただ、フェオドラ君を守る気があるなら、だ。他人では守れないことの方が多いことだけは覚えておけ」
「……トゥーラ様、私は――」
大丈夫ですよとフェオドラは声をかける前にアルトゥールは懐からペンを取り出し、自分の名前を書きあげた。
「あんな思いはしたくない」
フェオドラが攫われた時、ひどく動揺した。その上に、攫われたのは孤児なのだしゆっくり探せばなどという言葉もアルトゥールの耳に入ってきていた。怒りで頭が沸騰するかと思った。だが、あくまでアルトゥールとフェオドラは他人で保護したされたの関係でしかなかった。そう、だから冷静に冷静にと怒りを抑えつけた。それがまた起こるとしたら、可能性は零ではない。だからこそ、アルトゥールは名前を書いた。フェオドラを守るために。
「で、あれで恋愛感情ナシなわけ?」
「多分、本人が気づいてないだけだと思いますけど」
こそこそとトロフィムとジナイ―ダは言葉を交わす。トロフィム自体はまぁ、珍しいもの見れるしいいけどと笑みを浮かべ、ジナイ―ダは早く自覚してほしいものですと苦笑いを浮かべた。
侯爵家に打診という事は確定していた。そして、そのうち、二家は娘しかいない家のため、女世界のことを考え、却下。ジナイ―ダの嫁入り先であるユリエフ家は娘の嫁入り先という事もあり候補から外した。残る二家で考えていたが――。
「ウルヴィン侯爵家に打診する」
「……えぇ」
「ただ、夫人のフェオドラ君を見た時の反応によっては」
「勿論、分かってるわ」
パーティでの取り乱し方を見ていた二人は信頼も信用もしている家なのだが苦渋の決断をすると頷き合う。
「きっと、大丈夫だと思うの」
「まぁ、ダメな時はもう一つの侯爵家に打診してみよう。まずは遠めからフェオドラ君を見てもらって」
「えぇ、何かあった時は私が彼女をフォローするわ」
「アルトゥールの婚約者に内定していることもきちんと話しておかねばな」
「えぇ、そうね」
正式な婚約者となったら、王にも挨拶に行かないとなと言えば、そうねとヴェーラは返事する。この先がもっと大変だろうと少なからず予想はついていた。けれど、あの二人が幸せになれるなら、やれることはやってあげようと手を取り合う。
「只今、パーヴェル・ウルヴィン、帰還いたしました――なんつって」
「うるさいのが帰ってきたな」
「いやいや、お前ね、そういうことは言わないの。で、報告は」
トロフィムの執務室に元気よく入ってきたのは炎のような紅く、裾が黄金の髪をもつ精悍な顔つきの青年――パーヴェル・ウルヴィンだった。ここ一年、各領地の確認に部隊を伴い奔走していた。
「あ、はいはい、報告ね」
めんどくせーと声に出さずとも態度から聞こえ、トロフィムとアルトゥールは顔を見合わせる。それから、相変わらずだなと溜息を吐いて彼の報告に耳を向けた。
「ファトクーリン領は例年よりもかなり酷かった。あれだけ、豊かだと言われてたが実際訪れた時には飢饉や干ばつなんて、ボロボロな状態だった」
「そう言えば、援助を求める嘆願書が上がってきていたな」
「逆にレオンチェフ領はめっちゃ、豊かになってた。え、ナニコレ、レベルだったんだが」
「そういや、昨年は豊作だって言われたな。病気なども流行らなかったとも」
「……えっと、どういうこと??」
訳が分からんとばかりに頭を抱えたトロフィムにアルトゥールとパーヴェルは顔を見合わせ俺らもわからんよなと首を傾げる。
「あ、そうだ、それよりもさ、聞いたぞ、アルトゥール、婚約したんだってな」
「それよりもって、いや、こっちのほうが重要なんだけど」
「まぁ、まだ内々のだがな」
「こっちは婚約解消されたのにいいよな。で、美人、美人なの!?」
あれだけアルトゥールが婚約者をとらなかったのにあっさりとったという事はかなりの美人なのだろうなとパーヴェルは興奮した様子だ。
「まぁ、美人だね、あの子は」
「え、殿下は会ったの!? なぁなぁ、アルトゥール、俺も会いたい、見たい」
「どうせ、そのうち会うだろ」
煩いからとっとと帰れというアルトゥールに会いたい会いたいと駄々をこねるパーヴェル。そんな光景をあぁいつもの光景が戻ってきたんだなと思いながら、補佐官は彼らの止まった筆の代わりに黙々と自分の筆を動かし続けた。
そんな補佐官もアルトゥールたちもまるで想像していなかった。まさか、パーヴェルとアルトゥールの婚約者となったフェオドラが家族となって顔を合わせることになるとは。そして、そこからまた一騒動が起こるとはこの時は思いもしなかった。
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