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暁 星が宿り、縁が交わる
不審な人
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なんで、なんで、なんでまだアイツが別邸に、あの方の傍にいるのよ。しかも、成長してるし、孤児風情がいい気になるんじゃないわよ。あの日に始末するって言ってたのに、役立たずじゃない。
女の目の前にはアルトゥールと共にお茶をするフェオドラの姿。その周りには主にメイドたちが控え、若い男はアルトゥールだけだった。庭を整備する庭師もフェオドラの事情を理解しているため、姿が見えないように作業をしている。シルバースタンドからメイドの手を借りずアルトゥール自らティーフーズを取り分けている。
「トゥーラ様も」
「いや、俺はいい。フェオドラが食べるといい」
「一口だけ、ダメですか」
「……甘いのは苦手なんだがな」
更には甘ったるいソースのかかったケーキをアルトゥールに食べさせようとしているではないか。
そうでしょう、そうでしょうとも。アルトゥール様は甘いものが苦手なのよ。そんなものを食べさせるなんて。
その光景を見ながら女はガジガジと爪を噛む。
「……甘くないな」
「トゥーラ様が甘いの苦手ですから、シードルたちに頼んで甘さを控えめにしてもらいました」
ふふっとサプライズ成功ですと笑うフェオドラに最近よく厨房に忍び込んでいたのはそれだったのだなとしょうがないやつだとばかりに笑みを浮かべる。今食べてもらったもの以外にもこれとこれなんかもとフェオドラは楽しそうにアルトゥールに説明していた。それを彼も楽しそうに聞いている上に気になったものは摘まんでいる。
気にくわない、気にくわない。孤児風情がアルトゥール様と一緒にいるなんて。その隣に相応しいのは私よ。あぁ、そうよ、そうだわ、彼にどういうことなのか問い詰めないと。
女はブツブツと恨み言を呟きながら、本邸か宿舎の方へと向かうのかと思えば、そうではなく門へと向かっていく。そんな女の行動に庭師たちは目配せをし、とるべき行動をとる。ちらりとアルトゥールを見れば彼も彼で影に目配せで指示を飛ばしていた。
「トゥーラ様?」
「あぁ、なんでもない。それより、無理はしなくていいからな」
「無理なんて、してませんよ。無理なんてしたら、皆に怒られてしまいますから」
フェオドラはあれから顔を会わせられない使用人たちとは交換日記もとい筆記帳を使用して交流していた。はじめは一通の手紙だった。素朴にお元気ですか、体調はどうですかといったそんな内容。それがいくつもフェオドラのもとに届けられた。ある時は庭園にポツリとフェオドラ宛の手紙が落ちていた。またある時はひょこっと覗いた食堂のテーブルに、書斎の机の上に、デザートと一緒に。こだわりや喜んでもらえると嬉しい、これがオススメなどと場面場面で内容は変わってはいたが、どれもこれもフェオドラを気遣うものばかりだった。そして、次第にフェオドラがそれに返事を書き始め、今ではフェオドラが訪れる場所に筆記帳がおかれるようになり、その中で会話を楽しむ。
「ごめんなさいと謝ると皆、怒るんです」
「当然だろう。お前は悪くないのだから」
「皆もそう言ってました。それにトゥーラ様と同じようにゆっくりでいいとおっしゃってくれました」
大事そうに胸に両手を重ね合わせそういうフェオドラにアルトゥールはそうかと頷く。
「だからこそ、私はゆっくりでも皆が大丈夫なように頑張りたいのです」
対面すると未だにダメですが、影は大丈夫でした、指先や足先などの体の一部だけなら大丈夫でしたと使用人たちやヴィークトルに協力してもらって今の段階はどこまで大丈夫なのか慎重に探りながら、会話をしながら、頑張っているのだとフェオドラははっきりと伝えてきた。
「やりたいことがあるのです」
「やりたいことか、どんなことだ」
「皆に内緒ですよ」
「勿論だろう」
「ありがとうと直接言いたいんです」
とびっきりの笑顔も添えてと笑うフェオドラになんだそんなことかとアルトゥールは言わず、それはいいな、きっと父上辺りは驚くだろうと笑う。そのありがとうと言いたい人にアキムたち巡回騎士や平民街の店主たちが含まれていることなどアルトゥールは知らない。さらに一番最初にお礼を言いたいと思っているのがアルトゥールであることなんて知る由もない。
穏やかなお茶会の後、勉強に向かうフェオドラとは別れ、アルトゥールは本邸のヴィークトルの書斎を訪れた。
「動いたか」
「えぇ、動きました。全く、フェオドラを囮のように扱うのはやめていただきたい」
「仕方ないだろう。一番、向こうが動きそうな手がフェオドラ君だったのだから」
ドアが閉まったのを確認し、部屋で待っていたヴィークトルが口を開く。それにアルトゥールは頷きつつも、不服そうな声を上げた。そんな息子に苦笑いしつつ、影が既に報告していたのだろう書類をアルトゥールに手渡した。
「……やはり、そうですか」
「そのようだ」
「…………」
「アーテャ、面倒なことをしてくれるなよ」
「父上は俺をなんだと思ってるんですか。しませんとも」
呆れたようにヴィークトルの言葉に答えたアルトゥールにお前はやりそうで怖いのだと口先まで出かけたがなんとか飲み込み、そうかとだけ答える他なかった。
女の目の前にはアルトゥールと共にお茶をするフェオドラの姿。その周りには主にメイドたちが控え、若い男はアルトゥールだけだった。庭を整備する庭師もフェオドラの事情を理解しているため、姿が見えないように作業をしている。シルバースタンドからメイドの手を借りずアルトゥール自らティーフーズを取り分けている。
「トゥーラ様も」
「いや、俺はいい。フェオドラが食べるといい」
「一口だけ、ダメですか」
「……甘いのは苦手なんだがな」
更には甘ったるいソースのかかったケーキをアルトゥールに食べさせようとしているではないか。
そうでしょう、そうでしょうとも。アルトゥール様は甘いものが苦手なのよ。そんなものを食べさせるなんて。
その光景を見ながら女はガジガジと爪を噛む。
「……甘くないな」
「トゥーラ様が甘いの苦手ですから、シードルたちに頼んで甘さを控えめにしてもらいました」
ふふっとサプライズ成功ですと笑うフェオドラに最近よく厨房に忍び込んでいたのはそれだったのだなとしょうがないやつだとばかりに笑みを浮かべる。今食べてもらったもの以外にもこれとこれなんかもとフェオドラは楽しそうにアルトゥールに説明していた。それを彼も楽しそうに聞いている上に気になったものは摘まんでいる。
気にくわない、気にくわない。孤児風情がアルトゥール様と一緒にいるなんて。その隣に相応しいのは私よ。あぁ、そうよ、そうだわ、彼にどういうことなのか問い詰めないと。
女はブツブツと恨み言を呟きながら、本邸か宿舎の方へと向かうのかと思えば、そうではなく門へと向かっていく。そんな女の行動に庭師たちは目配せをし、とるべき行動をとる。ちらりとアルトゥールを見れば彼も彼で影に目配せで指示を飛ばしていた。
「トゥーラ様?」
「あぁ、なんでもない。それより、無理はしなくていいからな」
「無理なんて、してませんよ。無理なんてしたら、皆に怒られてしまいますから」
フェオドラはあれから顔を会わせられない使用人たちとは交換日記もとい筆記帳を使用して交流していた。はじめは一通の手紙だった。素朴にお元気ですか、体調はどうですかといったそんな内容。それがいくつもフェオドラのもとに届けられた。ある時は庭園にポツリとフェオドラ宛の手紙が落ちていた。またある時はひょこっと覗いた食堂のテーブルに、書斎の机の上に、デザートと一緒に。こだわりや喜んでもらえると嬉しい、これがオススメなどと場面場面で内容は変わってはいたが、どれもこれもフェオドラを気遣うものばかりだった。そして、次第にフェオドラがそれに返事を書き始め、今ではフェオドラが訪れる場所に筆記帳がおかれるようになり、その中で会話を楽しむ。
「ごめんなさいと謝ると皆、怒るんです」
「当然だろう。お前は悪くないのだから」
「皆もそう言ってました。それにトゥーラ様と同じようにゆっくりでいいとおっしゃってくれました」
大事そうに胸に両手を重ね合わせそういうフェオドラにアルトゥールはそうかと頷く。
「だからこそ、私はゆっくりでも皆が大丈夫なように頑張りたいのです」
対面すると未だにダメですが、影は大丈夫でした、指先や足先などの体の一部だけなら大丈夫でしたと使用人たちやヴィークトルに協力してもらって今の段階はどこまで大丈夫なのか慎重に探りながら、会話をしながら、頑張っているのだとフェオドラははっきりと伝えてきた。
「やりたいことがあるのです」
「やりたいことか、どんなことだ」
「皆に内緒ですよ」
「勿論だろう」
「ありがとうと直接言いたいんです」
とびっきりの笑顔も添えてと笑うフェオドラになんだそんなことかとアルトゥールは言わず、それはいいな、きっと父上辺りは驚くだろうと笑う。そのありがとうと言いたい人にアキムたち巡回騎士や平民街の店主たちが含まれていることなどアルトゥールは知らない。さらに一番最初にお礼を言いたいと思っているのがアルトゥールであることなんて知る由もない。
穏やかなお茶会の後、勉強に向かうフェオドラとは別れ、アルトゥールは本邸のヴィークトルの書斎を訪れた。
「動いたか」
「えぇ、動きました。全く、フェオドラを囮のように扱うのはやめていただきたい」
「仕方ないだろう。一番、向こうが動きそうな手がフェオドラ君だったのだから」
ドアが閉まったのを確認し、部屋で待っていたヴィークトルが口を開く。それにアルトゥールは頷きつつも、不服そうな声を上げた。そんな息子に苦笑いしつつ、影が既に報告していたのだろう書類をアルトゥールに手渡した。
「……やはり、そうですか」
「そのようだ」
「…………」
「アーテャ、面倒なことをしてくれるなよ」
「父上は俺をなんだと思ってるんですか。しませんとも」
呆れたようにヴィークトルの言葉に答えたアルトゥールにお前はやりそうで怖いのだと口先まで出かけたがなんとか飲み込み、そうかとだけ答える他なかった。
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