黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

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暁 星が宿り、縁が交わる

市民街の市場は

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 インナに追い出された二人は用意していた馬車に乗り、市民街へと向かう。貴族街を通り抜ける際、フェオドラは自ら窓のカーテンを開け、外を眺めていた。

「フェオドラ、無理はするな」
「大丈夫です。トゥーラ様方やインナたちと関わるようになって思ったんです。怖がってるばかりじゃダメだと。ですから、これは私なりの訓練なんです」

 確かにまだ見ず知らずの貴族の方々は少し怖いです。と震える手を握りしめるフェオドラにフェオドラなら大丈夫だと隣に座る彼女の頭を撫でる。
 そして、そうこうしているうちに貴族街を抜け、馬車の停留場へと到着した。

「ここから先は歩いていこう」
「馬車は使わないのですか?」
「あぁ、貴族街ならまだよしも市民街は馬車を横付けできるようなところではないからな」

 正門より王城までの主道は物資の搬入や式典などのために市民街であっても貴族街と同様の広さの道が整備されている。ただし、市民街の主道は有事以外の時は市場へとなっている。道の使い方が異なるだけでなく、その他の道は大きく幅が異なるのだ。貴族街では馬車での移動が当然のため、副道、従道でも横付けができるようなスペースが確保されている。しかし、市民街では馬車を使うのは乗合の辻馬車や物資の搬入の際が主で個人の移動の為に使うものではない。そのため、基本的な移動は徒歩か辻馬車になる。とはいえ、市民街は道が要り組んでおり、馬車で通行できない所も多い。

「この馬車の停留場はそれらを加味して貴族街と市民街の境に複数用意されている」

 市民街で横付けするのは何かあった際は乗り付けた者の自己責任になる。その代わりとしてこれらの停留場には騎士が常駐し、盗難など犯罪行為に目を光らせている。

「えっと、ヤーラ様たちとは違うのですか」
「いや、常駐する騎士はヤーラたちなどの巡回騎士の当番制になっている。常駐だけなら専門がいてもいいのだが、普段の巡回ルートにも停留場は組み込まれているからな」

 フェオドラをエスコートしながらアルトゥールは停留場や道路について説明する。運が良ければヤーラたちにも会えるだろうと言えば、フェオドラは嬉しそうに頷いた。

「私だと気づいてもらえるでしょうか」
「そうだな、一見すれば分からないかもしれないな」

 分からないということにしょんぼりと肩を落とすフェオドラ。

「だが、フェオドラと分かれば、あいつらも喜ぶだろう」
「喜ぶ? 何故ですか?」
「フェオドラは自覚ないだろうが、酷い状態だったんだぞ。それが、今のように元気になっていれば、喜ばないはずはないだろう」

 度々、フェオドラの様子を伺う手紙も届いてたしなと言えば、確かに何通も頂いてた返事書いた覚えがあるとうんうんと頷く。

「さて、これから市民街に入るが手は外すな」
「はい」
「ここら辺は人通りが多いからな、気を付けてくれ」
「はい」

 ギュッとアルトゥールの手を握り返すフェオドラにフッと笑みを浮かべる。主道の市場は随分と盛り上がっているようで人、人、人の海だった。あわあわと周りに目を回すも少し歩く度に大丈夫かと声をかけてくれるアルトゥールにフェオドラは少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。

「お、おぉ、アルトゥールが女連れったァ、珍しいことがあるもんだ」
「そんな珍しいもんじゃないだろう」
「いやいや、珍しいって。しかも、上等モンのお嬢さんときた」

 アルトゥールの知り合いなのだろう、親しげに声をかけてきたのは甘い匂いをさせているベビーケーキという屋台の店主だった。初めまして、お嬢さんという店主は実は元騎士だという。

「アルトゥール、折角だから買ってけ」
「フェオドラ、どうだ?」
「食べてみたいです」

 屋敷では出てこなかったであろう屋台の売り物にフェオドラは目をキラキラさせていた。まぁ、聞くまでもなかったなとフェオドラの様子にそう呟くと、店主に一つ頼む。

「あいよ。にしても、お嬢さんのような美人さんとなら貴族街にいった方が良かったんじゃねぇのか?」
「ちょっと、訳ありでな」
「ほぉ、そいつぁ、聞いても大丈夫なのか」
「あぁ、フェオドラは王家から預けられててな。あまり貴族連中には会わせるなって話だ」

 窪みのある鉄板でくるくるとタネを回し、綺麗なまん丸になったタネをカップに入れるとチョコレートをかけ、楊枝を刺すとフェオドラにはいよと手渡す。はふはふとべヴィーケーキを頬張るフェオドラを他所にアルトゥールと店主は話を交わす。王家の預かり物であるとアルトゥールはいうが、現在もフェオドラのことは王家まで上ってはいない。けれど、この間きたトロフィムに自分の責任にしていいから、そういうようにと告げられていた。王家の預かり物にしておけば、いざという時に動くことができるだろうとトロフィムの配慮だった。

「それに今後はフェオドラと侍女たちで出かけることもあるかもしれないからな。顔見せだ。大事な娘だから、可能な限り目を光らせておいてほしい」
「おうおう、随分と過保護なモンだな。まぁ、わかった。こっちの知り合いには俺の方から声をかけといてやるよ」
「あぁ、頼んだ」

 話が一段落する頃にはフェオドラも食べ終えていたようで満足そうな顔をしている。

「あっちの串焼きとかも美味いから、アルトゥールに食べさせてもらうといいぞ」

 金も持ってるからな、じゃんじゃん市場に落としていってくれと笑う店主にアルトゥールは全くと言葉を零すが、満更でもないようで行くかとフェオドラに声をかけるとゴミは店主に任せ、そちらへと向かった。
 薦められた屋台を巡りに巡る中、最近柄の悪い人間がうろちょろしているから気を付けてくれという話もアルトゥールの耳に入ってきた。

「ヴァルラムの怠慢だな」
「そうかもしれないな」

 なんて冗談も飛ばしつつ、気をつける旨を伝えながら、アルトゥールとフェオドラは市場を堪能する。
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