37 / 72
暁 星が宿り、縁が交わる
市民街の市場は
しおりを挟む
インナに追い出された二人は用意していた馬車に乗り、市民街へと向かう。貴族街を通り抜ける際、フェオドラは自ら窓のカーテンを開け、外を眺めていた。
「フェオドラ、無理はするな」
「大丈夫です。トゥーラ様方やインナたちと関わるようになって思ったんです。怖がってるばかりじゃダメだと。ですから、これは私なりの訓練なんです」
確かにまだ見ず知らずの貴族の方々は少し怖いです。と震える手を握りしめるフェオドラにフェオドラなら大丈夫だと隣に座る彼女の頭を撫でる。
そして、そうこうしているうちに貴族街を抜け、馬車の停留場へと到着した。
「ここから先は歩いていこう」
「馬車は使わないのですか?」
「あぁ、貴族街ならまだよしも市民街は馬車を横付けできるようなところではないからな」
正門より王城までの主道は物資の搬入や式典などのために市民街であっても貴族街と同様の広さの道が整備されている。ただし、市民街の主道は有事以外の時は市場へとなっている。道の使い方が異なるだけでなく、その他の道は大きく幅が異なるのだ。貴族街では馬車での移動が当然のため、副道、従道でも横付けができるようなスペースが確保されている。しかし、市民街では馬車を使うのは乗合の辻馬車や物資の搬入の際が主で個人の移動の為に使うものではない。そのため、基本的な移動は徒歩か辻馬車になる。とはいえ、市民街は道が要り組んでおり、馬車で通行できない所も多い。
「この馬車の停留場はそれらを加味して貴族街と市民街の境に複数用意されている」
市民街で横付けするのは何かあった際は乗り付けた者の自己責任になる。その代わりとしてこれらの停留場には騎士が常駐し、盗難など犯罪行為に目を光らせている。
「えっと、ヤーラ様たちとは違うのですか」
「いや、常駐する騎士はヤーラたちなどの巡回騎士の当番制になっている。常駐だけなら専門がいてもいいのだが、普段の巡回ルートにも停留場は組み込まれているからな」
フェオドラをエスコートしながらアルトゥールは停留場や道路について説明する。運が良ければヤーラたちにも会えるだろうと言えば、フェオドラは嬉しそうに頷いた。
「私だと気づいてもらえるでしょうか」
「そうだな、一見すれば分からないかもしれないな」
分からないということにしょんぼりと肩を落とすフェオドラ。
「だが、フェオドラと分かれば、あいつらも喜ぶだろう」
「喜ぶ? 何故ですか?」
「フェオドラは自覚ないだろうが、酷い状態だったんだぞ。それが、今のように元気になっていれば、喜ばないはずはないだろう」
度々、フェオドラの様子を伺う手紙も届いてたしなと言えば、確かに何通も頂いてた返事書いた覚えがあるとうんうんと頷く。
「さて、これから市民街に入るが手は外すな」
「はい」
「ここら辺は人通りが多いからな、気を付けてくれ」
「はい」
ギュッとアルトゥールの手を握り返すフェオドラにフッと笑みを浮かべる。主道の市場は随分と盛り上がっているようで人、人、人の海だった。あわあわと周りに目を回すも少し歩く度に大丈夫かと声をかけてくれるアルトゥールにフェオドラは少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。
「お、おぉ、アルトゥールが女連れったァ、珍しいことがあるもんだ」
「そんな珍しいもんじゃないだろう」
「いやいや、珍しいって。しかも、上等モンのお嬢さんときた」
アルトゥールの知り合いなのだろう、親しげに声をかけてきたのは甘い匂いをさせているベビーケーキという屋台の店主だった。初めまして、お嬢さんという店主は実は元騎士だという。
「アルトゥール、折角だから買ってけ」
「フェオドラ、どうだ?」
「食べてみたいです」
屋敷では出てこなかったであろう屋台の売り物にフェオドラは目をキラキラさせていた。まぁ、聞くまでもなかったなとフェオドラの様子にそう呟くと、店主に一つ頼む。
「あいよ。にしても、お嬢さんのような美人さんとなら貴族街にいった方が良かったんじゃねぇのか?」
「ちょっと、訳ありでな」
「ほぉ、そいつぁ、聞いても大丈夫なのか」
「あぁ、フェオドラは王家から預けられててな。あまり貴族連中には会わせるなって話だ」
窪みのある鉄板でくるくるとタネを回し、綺麗なまん丸になったタネをカップに入れるとチョコレートをかけ、楊枝を刺すとフェオドラにはいよと手渡す。はふはふとべヴィーケーキを頬張るフェオドラを他所にアルトゥールと店主は話を交わす。王家の預かり物であるとアルトゥールはいうが、現在もフェオドラのことは王家まで上ってはいない。けれど、この間きたトロフィムに自分の責任にしていいから、そういうようにと告げられていた。王家の預かり物にしておけば、いざという時に動くことができるだろうとトロフィムの配慮だった。
「それに今後はフェオドラと侍女たちで出かけることもあるかもしれないからな。顔見せだ。大事な娘だから、可能な限り目を光らせておいてほしい」
「おうおう、随分と過保護なモンだな。まぁ、わかった。こっちの知り合いには俺の方から声をかけといてやるよ」
「あぁ、頼んだ」
話が一段落する頃にはフェオドラも食べ終えていたようで満足そうな顔をしている。
「あっちの串焼きとかも美味いから、アルトゥールに食べさせてもらうといいぞ」
金も持ってるからな、じゃんじゃん市場に落としていってくれと笑う店主にアルトゥールは全くと言葉を零すが、満更でもないようで行くかとフェオドラに声をかけるとゴミは店主に任せ、そちらへと向かった。
薦められた屋台を巡りに巡る中、最近柄の悪い人間がうろちょろしているから気を付けてくれという話もアルトゥールの耳に入ってきた。
「ヴァルラムの怠慢だな」
「そうかもしれないな」
なんて冗談も飛ばしつつ、気をつける旨を伝えながら、アルトゥールとフェオドラは市場を堪能する。
「フェオドラ、無理はするな」
「大丈夫です。トゥーラ様方やインナたちと関わるようになって思ったんです。怖がってるばかりじゃダメだと。ですから、これは私なりの訓練なんです」
確かにまだ見ず知らずの貴族の方々は少し怖いです。と震える手を握りしめるフェオドラにフェオドラなら大丈夫だと隣に座る彼女の頭を撫でる。
そして、そうこうしているうちに貴族街を抜け、馬車の停留場へと到着した。
「ここから先は歩いていこう」
「馬車は使わないのですか?」
「あぁ、貴族街ならまだよしも市民街は馬車を横付けできるようなところではないからな」
正門より王城までの主道は物資の搬入や式典などのために市民街であっても貴族街と同様の広さの道が整備されている。ただし、市民街の主道は有事以外の時は市場へとなっている。道の使い方が異なるだけでなく、その他の道は大きく幅が異なるのだ。貴族街では馬車での移動が当然のため、副道、従道でも横付けができるようなスペースが確保されている。しかし、市民街では馬車を使うのは乗合の辻馬車や物資の搬入の際が主で個人の移動の為に使うものではない。そのため、基本的な移動は徒歩か辻馬車になる。とはいえ、市民街は道が要り組んでおり、馬車で通行できない所も多い。
「この馬車の停留場はそれらを加味して貴族街と市民街の境に複数用意されている」
市民街で横付けするのは何かあった際は乗り付けた者の自己責任になる。その代わりとしてこれらの停留場には騎士が常駐し、盗難など犯罪行為に目を光らせている。
「えっと、ヤーラ様たちとは違うのですか」
「いや、常駐する騎士はヤーラたちなどの巡回騎士の当番制になっている。常駐だけなら専門がいてもいいのだが、普段の巡回ルートにも停留場は組み込まれているからな」
フェオドラをエスコートしながらアルトゥールは停留場や道路について説明する。運が良ければヤーラたちにも会えるだろうと言えば、フェオドラは嬉しそうに頷いた。
「私だと気づいてもらえるでしょうか」
「そうだな、一見すれば分からないかもしれないな」
分からないということにしょんぼりと肩を落とすフェオドラ。
「だが、フェオドラと分かれば、あいつらも喜ぶだろう」
「喜ぶ? 何故ですか?」
「フェオドラは自覚ないだろうが、酷い状態だったんだぞ。それが、今のように元気になっていれば、喜ばないはずはないだろう」
度々、フェオドラの様子を伺う手紙も届いてたしなと言えば、確かに何通も頂いてた返事書いた覚えがあるとうんうんと頷く。
「さて、これから市民街に入るが手は外すな」
「はい」
「ここら辺は人通りが多いからな、気を付けてくれ」
「はい」
ギュッとアルトゥールの手を握り返すフェオドラにフッと笑みを浮かべる。主道の市場は随分と盛り上がっているようで人、人、人の海だった。あわあわと周りに目を回すも少し歩く度に大丈夫かと声をかけてくれるアルトゥールにフェオドラは少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。
「お、おぉ、アルトゥールが女連れったァ、珍しいことがあるもんだ」
「そんな珍しいもんじゃないだろう」
「いやいや、珍しいって。しかも、上等モンのお嬢さんときた」
アルトゥールの知り合いなのだろう、親しげに声をかけてきたのは甘い匂いをさせているベビーケーキという屋台の店主だった。初めまして、お嬢さんという店主は実は元騎士だという。
「アルトゥール、折角だから買ってけ」
「フェオドラ、どうだ?」
「食べてみたいです」
屋敷では出てこなかったであろう屋台の売り物にフェオドラは目をキラキラさせていた。まぁ、聞くまでもなかったなとフェオドラの様子にそう呟くと、店主に一つ頼む。
「あいよ。にしても、お嬢さんのような美人さんとなら貴族街にいった方が良かったんじゃねぇのか?」
「ちょっと、訳ありでな」
「ほぉ、そいつぁ、聞いても大丈夫なのか」
「あぁ、フェオドラは王家から預けられててな。あまり貴族連中には会わせるなって話だ」
窪みのある鉄板でくるくるとタネを回し、綺麗なまん丸になったタネをカップに入れるとチョコレートをかけ、楊枝を刺すとフェオドラにはいよと手渡す。はふはふとべヴィーケーキを頬張るフェオドラを他所にアルトゥールと店主は話を交わす。王家の預かり物であるとアルトゥールはいうが、現在もフェオドラのことは王家まで上ってはいない。けれど、この間きたトロフィムに自分の責任にしていいから、そういうようにと告げられていた。王家の預かり物にしておけば、いざという時に動くことができるだろうとトロフィムの配慮だった。
「それに今後はフェオドラと侍女たちで出かけることもあるかもしれないからな。顔見せだ。大事な娘だから、可能な限り目を光らせておいてほしい」
「おうおう、随分と過保護なモンだな。まぁ、わかった。こっちの知り合いには俺の方から声をかけといてやるよ」
「あぁ、頼んだ」
話が一段落する頃にはフェオドラも食べ終えていたようで満足そうな顔をしている。
「あっちの串焼きとかも美味いから、アルトゥールに食べさせてもらうといいぞ」
金も持ってるからな、じゃんじゃん市場に落としていってくれと笑う店主にアルトゥールは全くと言葉を零すが、満更でもないようで行くかとフェオドラに声をかけるとゴミは店主に任せ、そちらへと向かった。
薦められた屋台を巡りに巡る中、最近柄の悪い人間がうろちょろしているから気を付けてくれという話もアルトゥールの耳に入ってきた。
「ヴァルラムの怠慢だな」
「そうかもしれないな」
なんて冗談も飛ばしつつ、気をつける旨を伝えながら、アルトゥールとフェオドラは市場を堪能する。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説


【本編は完結】番の手紙
結々花
恋愛
人族の女性フェリシアは、龍人の男性であるアウロの番である。
二人は幸せな日々を過ごしていたが、人族と龍人の寿命は、あまりにも違いすぎた。
アウロが恐れていた最後の時がやってきた…

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる