黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

文字の大きさ
上 下
30 / 72
暁 星が宿り、縁が交わる

零れる秘密

しおりを挟む
 とある酒場で、友人たちと飲みに来ていた男は酒を煽り、項垂れる。

「あー、もう、ほんと、めっちゃ好みだったんだけどなぁ」
「なんだ、チムールとうとう拒否られたか」

 玉の輿に乗れるかもとあれだけ騒いでたじゃないかとチムールに彼の友人は声をかける。チムール――フェオドラの診察をした若い医師は友人にそうじゃないんだが、レオンチェフ家のメイドから事実を聞いてなと酒を一気飲みする。

「龍の血が少しばかり濃いくらいの孤児で公爵令息に押し付けられた子らしい」

 確かに髪も目も変わってたし、血が濃いんだろうなとは思ってたとチムールは話す。メイド曰く押し付けられた孤児ということもあって、公爵家ではフェオドラは厄介者である。それなのに龍の血が濃いことを笠に女主人気取りなのだとか。

「あんなに清淑な様子も演技だと言われてさぁ」

 大人しく慎ましく、夫を立ててくれそうな可愛い女の子という雰囲気だったのにと注いでもらった酒をさらに煽る。それに友人たちは苦笑いを零した。まだ片手ほどしか訪問してなかったと思ったが、随分とのめり込んでしまってるなと顔を見合わせて、残念だったなと慰める。

「まぁ、あれだ、お前には合わなかったってことだ」
「そーそー、そもそも公爵邸に行けたのだって運が良かったんだって」

 お前の師匠が主治医じゃなかったらとてもじゃないが行くことなんてなかったんだからさと。それでも、来週も診察があるんだ、どんな顔して見ればいいんだとぶつぶつと零すチムール。

「てか、なんで毎週診察してんだ?」

 別に預かるだけだったら、そこまでしなくていいだろと友人の言葉にチムールは阿婆擦れなんだとダンとコップをテーブルに叩きつける。阿婆擦れという言葉にあーそういうことかと友人たちも納得した。

「あー、もー、いっそのこと相手してもらえばいいか」
「いやいやいや、流石にそれはヤバいだろ。公爵家から何言われるかわかんねぇぞ」
「俺らみたいな人間は簡単に潰せるだろ」
「使用人どもは関わりたくなくて見て見ぬふりしてるから平気だって」

 止めとけって止める友人たちを他所にチムールはニヒルな笑みを浮かべる。しかし、ふと何を思ったか、笑みを消す。

「チムール?」
「いや、あの子についてるメイドとか執事が邪魔だなと思ってさ」

 フェオドラが怖くて従ってるのか美味い蜜が啜れるから傍にいるのかわからないがさっさと自分を追い出してくれたインナという女。それから、ドナートだとか。あいつらがいると手が出せないとぼやき出したチムールにそんな女は放っておいて、酒を飲もうぜとチムールの肩を叩き、空いたコップに強めの酒を注ぐ。

「目に時々、星が現れるんだ」
「星? 光の反射じゃないのか」
「俺も最初はそう思ったけどよー、どうも違う見てぇ。まぁ、よく確認する前にクソメイドどもに引き剥がされるんだけどな」

 ボソリと呟かれた言葉に友人が反応するとボソボソとチムールは本当に不思議な目なんだよと話す。

「面白い話ですね」
「な、なんだ」
「あぁ、失礼。随分と面白い話が聞こえたのでつい、声をかけてしまいました」

 声をかけられ、振り向けば優男。どこかの貴族かそれに準ずる人間か服装は清楚で落ち着いた雰囲気を纏っていた。それは酒場にはあまりにも不自然で浮いていた。けれど、男はそれを気にした様子もなく、同席させていただいてもと三人に声をかける。

「あんた、どっかのいいとこの坊ちゃんだろ」
「いえいえ、正直なところあちらの神殿のものでして」

 さっさと帰った方がいいぞという友人たちに男はご心配なくと窓から覗く神殿の人間だと明かす。いや、むしろ、それなら尚更というが、聖職者でも発散したい時もあるのですよと笑う。

「私の話はともかくとして、先ほどの話を詳しくお聞かせいただけませんか」
「いや、それは、流石に」
「ご友人方には話しておられたではありませんか。何、ここの酒代は私が持ちましょう、どんどん飲んでください」

 医師としての守秘義務を思い出したのか口を噤もうとするチムールに男は高い酒をどんどん注文していく。それを注がれ、さぁどうぞと言われると酒の誘惑に抗えない。

「おい、チムール」
「どうせ、孤児の話なんだから、いいだろ」
「いや、それでも、相手は公爵家だろ」
「大丈夫ですよ。ここでのお話はここだけの話」

 他に漏れることはありませんからと男は笑い、チムールにフェオドラの話を促す。友人たちは俺らは後が怖いからと先に帰ると酒場をあとに去っていった。

「おやおや、ご友人方随分と心配性なのですね」
「まぁ、その孤児がいるのがあのレオンチェフ家だからなぁ。当然かもなー」

 王様と友人の公爵家を敵に回したくない気持ちはわかると男に酒を注いでもらいながら零す。そして、男に特殊な目の娘の話を促されるとつらつらとフェオドラの知りうることを男に伝えていく。

「そうですか、そうですか、星は六条ですか、素晴らしいですね」
「言ってもよ、本邸のメイド曰くそう見えるように目に細工してんだとか」
「ほぉ、そうなのですか。ちなみにそのメイドのことも教えていただけますか」
「ん? まぁ、別に関係ないやつだから、いいけど」
「ありがとうございます」

 ふふと笑って男はささ、どんどん飲んでくださいとチムールに酒を注いだ。

「星を持つ娘、是非とも欲しいですねぇ」
「なに?」
「いいえ、なんでも」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【本編は完結】番の手紙

結々花
恋愛
人族の女性フェリシアは、龍人の男性であるアウロの番である。 二人は幸せな日々を過ごしていたが、人族と龍人の寿命は、あまりにも違いすぎた。 アウロが恐れていた最後の時がやってきた…

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...