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暁 星が宿り、縁が交わる
零れる秘密
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とある酒場で、友人たちと飲みに来ていた男は酒を煽り、項垂れる。
「あー、もう、ほんと、めっちゃ好みだったんだけどなぁ」
「なんだ、チムールとうとう拒否られたか」
玉の輿に乗れるかもとあれだけ騒いでたじゃないかとチムールに彼の友人は声をかける。チムール――フェオドラの診察をした若い医師は友人にそうじゃないんだが、レオンチェフ家のメイドから事実を聞いてなと酒を一気飲みする。
「龍の血が少しばかり濃いくらいの孤児で公爵令息に押し付けられた子らしい」
確かに髪も目も変わってたし、血が濃いんだろうなとは思ってたとチムールは話す。メイド曰く押し付けられた孤児ということもあって、公爵家ではフェオドラは厄介者である。それなのに龍の血が濃いことを笠に女主人気取りなのだとか。
「あんなに清淑な様子も演技だと言われてさぁ」
大人しく慎ましく、夫を立ててくれそうな可愛い女の子という雰囲気だったのにと注いでもらった酒をさらに煽る。それに友人たちは苦笑いを零した。まだ片手ほどしか訪問してなかったと思ったが、随分とのめり込んでしまってるなと顔を見合わせて、残念だったなと慰める。
「まぁ、あれだ、お前には合わなかったってことだ」
「そーそー、そもそも公爵邸に行けたのだって運が良かったんだって」
お前の師匠が主治医じゃなかったらとてもじゃないが行くことなんてなかったんだからさと。それでも、来週も診察があるんだ、どんな顔して見ればいいんだとぶつぶつと零すチムール。
「てか、なんで毎週診察してんだ?」
別に預かるだけだったら、そこまでしなくていいだろと友人の言葉にチムールは阿婆擦れなんだとダンとコップをテーブルに叩きつける。阿婆擦れという言葉にあーそういうことかと友人たちも納得した。
「あー、もー、いっそのこと相手してもらえばいいか」
「いやいやいや、流石にそれはヤバいだろ。公爵家から何言われるかわかんねぇぞ」
「俺らみたいな人間は簡単に潰せるだろ」
「使用人どもは関わりたくなくて見て見ぬふりしてるから平気だって」
止めとけって止める友人たちを他所にチムールはニヒルな笑みを浮かべる。しかし、ふと何を思ったか、笑みを消す。
「チムール?」
「いや、あの子についてるメイドとか執事が邪魔だなと思ってさ」
フェオドラが怖くて従ってるのか美味い蜜が啜れるから傍にいるのかわからないがさっさと自分を追い出してくれたインナという女。それから、ドナートだとか。あいつらがいると手が出せないとぼやき出したチムールにそんな女は放っておいて、酒を飲もうぜとチムールの肩を叩き、空いたコップに強めの酒を注ぐ。
「目に時々、星が現れるんだ」
「星? 光の反射じゃないのか」
「俺も最初はそう思ったけどよー、どうも違う見てぇ。まぁ、よく確認する前にクソメイドどもに引き剥がされるんだけどな」
ボソリと呟かれた言葉に友人が反応するとボソボソとチムールは本当に不思議な目なんだよと話す。
「面白い話ですね」
「な、なんだ」
「あぁ、失礼。随分と面白い話が聞こえたのでつい、声をかけてしまいました」
声をかけられ、振り向けば優男。どこかの貴族かそれに準ずる人間か服装は清楚で落ち着いた雰囲気を纏っていた。それは酒場にはあまりにも不自然で浮いていた。けれど、男はそれを気にした様子もなく、同席させていただいてもと三人に声をかける。
「あんた、どっかのいいとこの坊ちゃんだろ」
「いえいえ、正直なところあちらの神殿のものでして」
さっさと帰った方がいいぞという友人たちに男はご心配なくと窓から覗く神殿の人間だと明かす。いや、むしろ、それなら尚更というが、聖職者でも発散したい時もあるのですよと笑う。
「私の話はともかくとして、先ほどの話を詳しくお聞かせいただけませんか」
「いや、それは、流石に」
「ご友人方には話しておられたではありませんか。何、ここの酒代は私が持ちましょう、どんどん飲んでください」
医師としての守秘義務を思い出したのか口を噤もうとするチムールに男は高い酒をどんどん注文していく。それを注がれ、さぁどうぞと言われると酒の誘惑に抗えない。
「おい、チムール」
「どうせ、孤児の話なんだから、いいだろ」
「いや、それでも、相手は公爵家だろ」
「大丈夫ですよ。ここでのお話はここだけの話」
他に漏れることはありませんからと男は笑い、チムールにフェオドラの話を促す。友人たちは俺らは後が怖いからと先に帰ると酒場をあとに去っていった。
「おやおや、ご友人方随分と心配性なのですね」
「まぁ、その孤児がいるのがあのレオンチェフ家だからなぁ。当然かもなー」
王様と友人の公爵家を敵に回したくない気持ちはわかると男に酒を注いでもらいながら零す。そして、男に特殊な目の娘の話を促されるとつらつらとフェオドラの知りうることを男に伝えていく。
「そうですか、そうですか、星は六条ですか、素晴らしいですね」
「言ってもよ、本邸のメイド曰くそう見えるように目に細工してんだとか」
「ほぉ、そうなのですか。ちなみにそのメイドのことも教えていただけますか」
「ん? まぁ、別に関係ないやつだから、いいけど」
「ありがとうございます」
ふふと笑って男はささ、どんどん飲んでくださいとチムールに酒を注いだ。
「星を持つ娘、是非とも欲しいですねぇ」
「なに?」
「いいえ、なんでも」
「あー、もう、ほんと、めっちゃ好みだったんだけどなぁ」
「なんだ、チムールとうとう拒否られたか」
玉の輿に乗れるかもとあれだけ騒いでたじゃないかとチムールに彼の友人は声をかける。チムール――フェオドラの診察をした若い医師は友人にそうじゃないんだが、レオンチェフ家のメイドから事実を聞いてなと酒を一気飲みする。
「龍の血が少しばかり濃いくらいの孤児で公爵令息に押し付けられた子らしい」
確かに髪も目も変わってたし、血が濃いんだろうなとは思ってたとチムールは話す。メイド曰く押し付けられた孤児ということもあって、公爵家ではフェオドラは厄介者である。それなのに龍の血が濃いことを笠に女主人気取りなのだとか。
「あんなに清淑な様子も演技だと言われてさぁ」
大人しく慎ましく、夫を立ててくれそうな可愛い女の子という雰囲気だったのにと注いでもらった酒をさらに煽る。それに友人たちは苦笑いを零した。まだ片手ほどしか訪問してなかったと思ったが、随分とのめり込んでしまってるなと顔を見合わせて、残念だったなと慰める。
「まぁ、あれだ、お前には合わなかったってことだ」
「そーそー、そもそも公爵邸に行けたのだって運が良かったんだって」
お前の師匠が主治医じゃなかったらとてもじゃないが行くことなんてなかったんだからさと。それでも、来週も診察があるんだ、どんな顔して見ればいいんだとぶつぶつと零すチムール。
「てか、なんで毎週診察してんだ?」
別に預かるだけだったら、そこまでしなくていいだろと友人の言葉にチムールは阿婆擦れなんだとダンとコップをテーブルに叩きつける。阿婆擦れという言葉にあーそういうことかと友人たちも納得した。
「あー、もー、いっそのこと相手してもらえばいいか」
「いやいやいや、流石にそれはヤバいだろ。公爵家から何言われるかわかんねぇぞ」
「俺らみたいな人間は簡単に潰せるだろ」
「使用人どもは関わりたくなくて見て見ぬふりしてるから平気だって」
止めとけって止める友人たちを他所にチムールはニヒルな笑みを浮かべる。しかし、ふと何を思ったか、笑みを消す。
「チムール?」
「いや、あの子についてるメイドとか執事が邪魔だなと思ってさ」
フェオドラが怖くて従ってるのか美味い蜜が啜れるから傍にいるのかわからないがさっさと自分を追い出してくれたインナという女。それから、ドナートだとか。あいつらがいると手が出せないとぼやき出したチムールにそんな女は放っておいて、酒を飲もうぜとチムールの肩を叩き、空いたコップに強めの酒を注ぐ。
「目に時々、星が現れるんだ」
「星? 光の反射じゃないのか」
「俺も最初はそう思ったけどよー、どうも違う見てぇ。まぁ、よく確認する前にクソメイドどもに引き剥がされるんだけどな」
ボソリと呟かれた言葉に友人が反応するとボソボソとチムールは本当に不思議な目なんだよと話す。
「面白い話ですね」
「な、なんだ」
「あぁ、失礼。随分と面白い話が聞こえたのでつい、声をかけてしまいました」
声をかけられ、振り向けば優男。どこかの貴族かそれに準ずる人間か服装は清楚で落ち着いた雰囲気を纏っていた。それは酒場にはあまりにも不自然で浮いていた。けれど、男はそれを気にした様子もなく、同席させていただいてもと三人に声をかける。
「あんた、どっかのいいとこの坊ちゃんだろ」
「いえいえ、正直なところあちらの神殿のものでして」
さっさと帰った方がいいぞという友人たちに男はご心配なくと窓から覗く神殿の人間だと明かす。いや、むしろ、それなら尚更というが、聖職者でも発散したい時もあるのですよと笑う。
「私の話はともかくとして、先ほどの話を詳しくお聞かせいただけませんか」
「いや、それは、流石に」
「ご友人方には話しておられたではありませんか。何、ここの酒代は私が持ちましょう、どんどん飲んでください」
医師としての守秘義務を思い出したのか口を噤もうとするチムールに男は高い酒をどんどん注文していく。それを注がれ、さぁどうぞと言われると酒の誘惑に抗えない。
「おい、チムール」
「どうせ、孤児の話なんだから、いいだろ」
「いや、それでも、相手は公爵家だろ」
「大丈夫ですよ。ここでのお話はここだけの話」
他に漏れることはありませんからと男は笑い、チムールにフェオドラの話を促す。友人たちは俺らは後が怖いからと先に帰ると酒場をあとに去っていった。
「おやおや、ご友人方随分と心配性なのですね」
「まぁ、その孤児がいるのがあのレオンチェフ家だからなぁ。当然かもなー」
王様と友人の公爵家を敵に回したくない気持ちはわかると男に酒を注いでもらいながら零す。そして、男に特殊な目の娘の話を促されるとつらつらとフェオドラの知りうることを男に伝えていく。
「そうですか、そうですか、星は六条ですか、素晴らしいですね」
「言ってもよ、本邸のメイド曰くそう見えるように目に細工してんだとか」
「ほぉ、そうなのですか。ちなみにそのメイドのことも教えていただけますか」
「ん? まぁ、別に関係ないやつだから、いいけど」
「ありがとうございます」
ふふと笑って男はささ、どんどん飲んでくださいとチムールに酒を注いだ。
「星を持つ娘、是非とも欲しいですねぇ」
「なに?」
「いいえ、なんでも」
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