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暁 星が宿り、縁が交わる
龍の血の第一人者
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フェオドラが起き上がれるようになって数日後。
「おひょひょひょひょ」
部屋の中を奇声を上げながら、飛び回る背丈の小さなそれにフェオドラは目を大きく見開いて、身を引いていた。
「おぉ、目を見開くと、よく星が見える! 素晴らしい! 東国の皇帝も星を持つと言われておるが、実物をこうして目にできるとは」
ずずいと瞬時に寄ってきたそれはしげしげとフェオドラの目を見つめながら、言葉を撒き散らす。
「ドラガノフ殿、近すぎる」
そう言って、ひょいと目の前にいたそれはアルトゥールの手によってフェオドラからひっぺがす。目の前からそれもといドラガノフが居なくなったことにホッと胸を撫で下ろすフェオドラ。それに当然の反応だなと思うもレオンチェフ家に来た時のような反応は見られず、安心もした。とはいえ、奇怪な行動には引いていたわけだが、それはこの場にいる本人以外が皆そうだった。
ソゾン・ドラガノフ。王宮医師にして龍の血の第一人者とされている人物。アルトゥールも王宮で何度か擦れ違うことはあり、物静かで生きている空間が違うのではないかと思える程の神秘的な空気を纏う人物だと記憶していた。奇怪な行動でそんな記憶は霧散したが。
「失敬失敬、改めて、儂の名はソゾン・ドラガノフ。龍の血の研究がてら医者もやっておる変わり者よ。この屋敷から強い龍の気を感じたものでな、年甲斐もなくはしゃいでしもうたわい」
おひょひょと笑うソゾンは悪びれる様子もなく、自己紹介をフェオドラに始める。あれははしゃぐというレベルのものではなかった気がするのだがと思うも言葉に出さず、アルトゥール、フェオドラとこちらの名を告げる。
「えっと、このような姿勢で、失礼いたします。フェオドラ・スヴャ――フェオドラと申します」
途中まででかかった言葉を切り、フェオドラは改めて自分の名だけを伝える。父姓も姓も母から教えてもらっており、それは筆記を教えたマルクを通してヴィークトルまで報告がいっていた。しかし、ヴィークトルは確証が得られるまでそれを秘することをフェオドラに頼んだ。万が一のことを考えてのことでフェオドラには疑いたくはないだろうがそういう可能性もあるということを話してある。
名を全て告げなかったが、ソゾンは気にした様子もなく、レオンチェフ家の主治医が記したカルテを読み、先程までの奇人の雰囲気は消し去り医師らしく現在の体の様子を尋ねる。
「ふむふむ、それで、急激に成長した、のだったかな。予兆などはあったかね?」
「はい、予兆と言いますか、少しばかり、えっと、成長は早かった、と思います」
辿々しく慣れない口調で話すフェオドラ。成長したこともあり、子供らしい喋りは卒業した方がいいというジナイーダの提案もあって、体を慣らす傍らで言葉の矯正も始めていた。こうして、知らない人と話すのが初めてなフェオドラはおかしなところは無いだろうかとドキドキしていた。
「ちなみにここに来るまではどんな生活をしてたかね? できれば教えてもらいたいのだが、難しければ構わんよ」
「えっと、多分、森だと思います。森で主には生活、してました。食べ物は、落ちてたきのみで」
このぐらいの大きさのちょっと苦いきのみでした。でも、たまに甘くて美味しいのもありましたと手振りを交えながら答えるフェオドラにインナは気が遠くなる思いがした。だから、あんなに痩せ細っていたのかと納得もできた。そんなインナに対し、一応出会った当初に話を聞いていたアルトゥールは厳しい顔をしている。それでも何も言わないのはフェオドラがそれを少し楽しそうに話していたからだった。
「なるほどねぇ。フェオドラくん、ありがとう」
礼を告げたソゾンはやれさてそれならば……という考えもあるねとボソボソと口の中で呟く。そして、ソゾンは自分が持って来た荷物から中央に半球の水晶があり、その周りに十本の溝が掘られた魔導具を取り出した。
「少し魔力を測らせてもらっても良いかね?」
「魔力測定なら今度、してもらう予定ですが」
「あー、あの魔力測定は本人の持つ魔力量を測定するもの。で、これはちょっと違ってね、魔力から実年齢を測定する魔導具なんだよ。孤児の子供などを養子縁組する際によく使用されているよ」
不安だったら、後で確認でもなんでも取りなさいとばかりに説明され、アルトゥールは口を噤んだ。この魔導具自体は誰にでも使用できるが、承認できるのは許可を得ている医師もしくは高位の神官のみとされている。そのため、一般的には出回ることはなくなった。
「魔力、流せばいいの、ですか?」
「魔力は流さなくて大丈夫だよ。人体からはみ出た微量な魔力を読み取るからね」
孤児もだが、平民でも魔力操作を学んでいないものは多い。けれど、魔力は微量ながらも体から放出されている。それをこの魔導具は利用するのだという。
半球体の上に手をおいてと説明され、恐る恐るフェオドラはそこに手を置く。その際、不安を和らげるために肩を抱こうとしたアルトゥールだったが、魔力が混ざるからとその手をソゾンに叩き落とされていた。
ピピと十本の溝が一巡点灯する。ただ、それだけでは終わらず、溝の半分の色が変わって五本点灯した。
「ふむ、なるほどの」
「ドラガノフ殿」
「あぁ、うん、わかっておるよ。そんなに急かさないでちょうだい」
全く最近の若いのはせっかちで堪らないとぼやき、うぉっほんと咳を一つ。姿勢を正し、フェオドラに向いた。
「おひょひょひょひょ」
部屋の中を奇声を上げながら、飛び回る背丈の小さなそれにフェオドラは目を大きく見開いて、身を引いていた。
「おぉ、目を見開くと、よく星が見える! 素晴らしい! 東国の皇帝も星を持つと言われておるが、実物をこうして目にできるとは」
ずずいと瞬時に寄ってきたそれはしげしげとフェオドラの目を見つめながら、言葉を撒き散らす。
「ドラガノフ殿、近すぎる」
そう言って、ひょいと目の前にいたそれはアルトゥールの手によってフェオドラからひっぺがす。目の前からそれもといドラガノフが居なくなったことにホッと胸を撫で下ろすフェオドラ。それに当然の反応だなと思うもレオンチェフ家に来た時のような反応は見られず、安心もした。とはいえ、奇怪な行動には引いていたわけだが、それはこの場にいる本人以外が皆そうだった。
ソゾン・ドラガノフ。王宮医師にして龍の血の第一人者とされている人物。アルトゥールも王宮で何度か擦れ違うことはあり、物静かで生きている空間が違うのではないかと思える程の神秘的な空気を纏う人物だと記憶していた。奇怪な行動でそんな記憶は霧散したが。
「失敬失敬、改めて、儂の名はソゾン・ドラガノフ。龍の血の研究がてら医者もやっておる変わり者よ。この屋敷から強い龍の気を感じたものでな、年甲斐もなくはしゃいでしもうたわい」
おひょひょと笑うソゾンは悪びれる様子もなく、自己紹介をフェオドラに始める。あれははしゃぐというレベルのものではなかった気がするのだがと思うも言葉に出さず、アルトゥール、フェオドラとこちらの名を告げる。
「えっと、このような姿勢で、失礼いたします。フェオドラ・スヴャ――フェオドラと申します」
途中まででかかった言葉を切り、フェオドラは改めて自分の名だけを伝える。父姓も姓も母から教えてもらっており、それは筆記を教えたマルクを通してヴィークトルまで報告がいっていた。しかし、ヴィークトルは確証が得られるまでそれを秘することをフェオドラに頼んだ。万が一のことを考えてのことでフェオドラには疑いたくはないだろうがそういう可能性もあるということを話してある。
名を全て告げなかったが、ソゾンは気にした様子もなく、レオンチェフ家の主治医が記したカルテを読み、先程までの奇人の雰囲気は消し去り医師らしく現在の体の様子を尋ねる。
「ふむふむ、それで、急激に成長した、のだったかな。予兆などはあったかね?」
「はい、予兆と言いますか、少しばかり、えっと、成長は早かった、と思います」
辿々しく慣れない口調で話すフェオドラ。成長したこともあり、子供らしい喋りは卒業した方がいいというジナイーダの提案もあって、体を慣らす傍らで言葉の矯正も始めていた。こうして、知らない人と話すのが初めてなフェオドラはおかしなところは無いだろうかとドキドキしていた。
「ちなみにここに来るまではどんな生活をしてたかね? できれば教えてもらいたいのだが、難しければ構わんよ」
「えっと、多分、森だと思います。森で主には生活、してました。食べ物は、落ちてたきのみで」
このぐらいの大きさのちょっと苦いきのみでした。でも、たまに甘くて美味しいのもありましたと手振りを交えながら答えるフェオドラにインナは気が遠くなる思いがした。だから、あんなに痩せ細っていたのかと納得もできた。そんなインナに対し、一応出会った当初に話を聞いていたアルトゥールは厳しい顔をしている。それでも何も言わないのはフェオドラがそれを少し楽しそうに話していたからだった。
「なるほどねぇ。フェオドラくん、ありがとう」
礼を告げたソゾンはやれさてそれならば……という考えもあるねとボソボソと口の中で呟く。そして、ソゾンは自分が持って来た荷物から中央に半球の水晶があり、その周りに十本の溝が掘られた魔導具を取り出した。
「少し魔力を測らせてもらっても良いかね?」
「魔力測定なら今度、してもらう予定ですが」
「あー、あの魔力測定は本人の持つ魔力量を測定するもの。で、これはちょっと違ってね、魔力から実年齢を測定する魔導具なんだよ。孤児の子供などを養子縁組する際によく使用されているよ」
不安だったら、後で確認でもなんでも取りなさいとばかりに説明され、アルトゥールは口を噤んだ。この魔導具自体は誰にでも使用できるが、承認できるのは許可を得ている医師もしくは高位の神官のみとされている。そのため、一般的には出回ることはなくなった。
「魔力、流せばいいの、ですか?」
「魔力は流さなくて大丈夫だよ。人体からはみ出た微量な魔力を読み取るからね」
孤児もだが、平民でも魔力操作を学んでいないものは多い。けれど、魔力は微量ながらも体から放出されている。それをこの魔導具は利用するのだという。
半球体の上に手をおいてと説明され、恐る恐るフェオドラはそこに手を置く。その際、不安を和らげるために肩を抱こうとしたアルトゥールだったが、魔力が混ざるからとその手をソゾンに叩き落とされていた。
ピピと十本の溝が一巡点灯する。ただ、それだけでは終わらず、溝の半分の色が変わって五本点灯した。
「ふむ、なるほどの」
「ドラガノフ殿」
「あぁ、うん、わかっておるよ。そんなに急かさないでちょうだい」
全く最近の若いのはせっかちで堪らないとぼやき、うぉっほんと咳を一つ。姿勢を正し、フェオドラに向いた。
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