黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

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暁 星が宿り、縁が交わる

宰相と王と番の話

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 王宮。宰相執務室。ヴィークトルは只管積まれた嘆願書、稟議書に決裁書と様々な書類を処理していた。

「クジマ君、これを総務に」
「はい」
「あぁ、それからついでに監査から報告書をもらってきてくれ」
「かしこまりました。では、行って参ります」

 補佐である青年クジマにそう指示し、彼の姿を見送るとふぅと大きな一息を吐く。前屈みになっていたせいか少し肩が凝ったような、腰が痛いようなそんなことを感じ、首を回したあとに背もたれで思いっきり背伸びをすれば、少し気持ちが楽になる。

「随分とお疲れではないか」

 コンコンと軽いノックをして、ヴィークトルが許可を出す前に執務室に顔を出したのは青からオレンジの長髪を頭頂部で結わえた男。男に対し、ヴィークトルは慌てて立ち上がろうとするもそれを手で制した。

「よい、私も休憩中だ。それにここには友人として顔を出したに過ぎない」
「……護衛は」
「撒いた」
「撒くな」

 はっはっはと笑う男にヴィークトルは頭が痛いとばかりに大きな溜息を零す。

「で、陛下……いや、ヴァーリャ、本当の要件は何だね」
「いや、なに、特に何も? ただ単に君が少々悩んでいる様子だったからな」

 君が登城してきた際に悩みを抱えてそうな顔をしてたからどうしたのか気になっていてね、こうしてきたのだよと胸を張る男――ヴァーリャもといヴァレーリィ。冠を戴くものであるのだが、ヴィークトルとは古くからの友人で親しい仲。こうして、何かあれば休憩中と称してヴィークトルの許に姿を現す。護衛しているものは城の中であっても撒かれてしまうのだから、なんとも情けない。とはいえ、いる場所は大体ヴィークトルの執務室であることは把握しているので、すぐに合流することはできるのだが。
 さて、ヴィークトルは困った。内に入れた人間に対しては色々と察してしまうこの男。恐らく、そのせいで今回やってきてしまったのだろう。

「で、悩みとは何かな? ほら、私も君も子を持つ親じゃないか」
「悩みが何故、子供だと思う」
「ん? 何となく。しかし、子供のことのようだな。さぁ、話してみるといい」

 言ってみるものだなと笑うヴァレーリィに先程から溜息しか出てこないヴィークトル。ただ、確かに子供――息子のことで悩んでいるのだから、話してみるのもいいかと、口を開く。

「息子の態度、いや、行動がな、変なのだ」
「息子というとあの真面目で誰に対しても入れ込むことなくクールだとモテてるアルトゥールかい。で、変とは?」
「ヴァーリャも知っての通りのアレなのだが、故あって預かることになった少女に対してやたらと過保護になっていてな。娘なんかは『お兄様が壊れた』などと驚くほどだ」

 そう話を聞いて、そういう気分だったのではと問うも、ヴィークトルはそんなのではないと力なく首を振る。

「人が変わったようだな」
「いや、少女に対してだけだ。私などには全く態度は変わらん。いつも通りだ」

 例えばどんなと問えば、昨日のことと今日の朝のことを語る。

「……あー、そうか、うん」
「ヴァーリャ?」

 両手で顔を覆ったヴァレーリィにヴィークトルは眉を顰める。もしかして、思い当たる節があるのかと名前を呼べば、心当たりがあると小さく零された。

「その、なんだ、相手が少女だというのが凄く気にかかるが恐らく彼らは『つがい』だろう」
「は?」
「思えばだ、アルトゥールは元々は監査官ではなく巡回騎士を希望していたな。近衛騎士にまで上り詰めれる実力も権力もありながら、だ」

 折角の推薦状を近衛騎士ではなく、平民までも入り雑じる巡回騎士に使用したものだから、当時は騒然となったものだ。そして、今ヴァレーリィとしてはヴィークトルの話を聞いて腑に落ちた。

「私の親友がそうだった。ただ、一人の女性にだけやたら過保護で甘かった。そして、なにより実力があるのに彼女に出会うまでずっと昇進を断り続けた男だった」

 懐かしそうに語るヴァレーリィにいやまさか、つがいはお伽噺の一種だろうと信じきれない。

「今では知ってるものは少ないがつがい専用の法もある」
「へ?」
「ほら、昔、君がボヤいてたじゃないか、『現在では実例がないのになぜ廃止されてないのだろうか』と。それが、つがい専用のものだった」

 失くすことは簡単だ。けれど、つがいというものは我が国ではないが少例ほど現在でも確認されているとヴァレーリィは説明する。つがいの法はつがいを守るだけではなく、国を守るために必要なものなのだとも語る。

「書庫に実例を記したものがある。それを読んでみるといい。酷いものは凄惨だ」

 それにもしアルトゥールとその少女がつがいであった場合役に立つだろうとヴァレーリィは言う。

「あぁ、それから、メスのつがいに何かあった際にオスのつがい、恐らくはではあるがアルトゥールの瞳孔が縦長にキュッと細くなったら、これはもう確定事項だ。出来るだけ早くつがい契約をすることをオススメする」

 一応はつがい契約をしなくても専用の法が適応できる場合もあるけど、確実なのは契約を交わしておくことだとアドバイスを口にする。まだまだ納得できてないヴィークトルにくすりと笑い、私も昔そうだったと懐かしそうに寂しそうにヴァレーリィは零した。
 何か声をかけようと口を開くもクジマが戻ってきたため、ヴァレーリィはそれじゃと執務室を後にする。

「クジマ君、済まない、少し席を外す」
「あ、はい、えーと、どちらに」
「少しばかり書庫にいってくる」
「かしこまりました」
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