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暁 星が宿り、縁が交わる

公爵家別邸

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 最初こそ問題があったが、その後は特にジナイーダがフェオドラに突っかかることなく、朝食は終了した。

「この後、俺は仕事があるため出るが、母上が別邸を案内してくれるはずだ」
「……あい」
「ジーニャに対してもちゃんと顔を見られたから大丈夫だ」

 離れたくないとばかりに気落ちしているフェオドラにアルトゥールは額を合わせ、大丈夫と言い聞かせる。その後ろではもうあの二人くっつけた方がいいんじゃないかと夫婦が言葉を交わしていた。

「フェオドラ君、是非ともいってらっしゃいと送り出してあげるといい」
「ん、あうとぅーりゅしゃま、いってらっひゃい」

 ヴィークトルに促され、フェオドラはそう言いながら控えめに手を振る。ふぐっと何かを我慢するような声を出し、アルトゥールは仕事場へと向かった。そして、それに続くようにジナイーダは学園に、ヴィークトルは王宮へと出ていった。

「さて、フェオドラちゃん、私たちも行きましょうか」
「……ん、パパも」
「えぇ、そうね。連れていってあげましょうね」

 ヴェーラから差し出された手をおずおずと握り、ぬいぐるみを迎えに行く。客室へと入れば、インナが既にぬいぐるみとバッグを並べており、フェオドラはヤーラからもらったバッグの中身が空なのを確認して、ぬいぐるみを詰め込む。そんなフェオドラを他所にインナはヴェーラにおずおずと声をかけた。

「あの、奥様、少しよろしいでしょうか」
「あら、なにかしら」
「えっと、その、可能であるのならば、別邸へ戻らせていただきたいのです」
「もしかして、フェオドラちゃんの為かしら」
「……はい、フェオドラ様がいらっしゃる間だけでもと思うのですが」

 せっかく本邸勤務にしていただいたのにと頭を下げるインナ。けれど、ヴェーラは嬉しそうにいいわよと快諾。

「貴女みたいないい子があの子の傍についていてくれるなら安心だわ。家政婦長にはこちらから伝えておくわ」

 明日からでも大丈夫かしらと尋ねれば、はい勿論と元気に答えてします。

「いんあ?」
「あ、なんでもありませんよ。準備はできましたか」
「ん」
「それじゃあ、インナも一緒に別邸に行きましょうか」
「承知いたしました」
「あい!」

 不思議そうに首を傾げたフェオドラには問題はないと伝え、準備を確認。しっかりとバッグに詰められたぬいぐるみを確認するとそれをフェオドラの肩にかけてやる。そして、ヴェーラの声で敷地内になる別邸へと向かった。




「お待ちしておりました」

 そう言って、別邸入口外階段の前でフェオドラたちを迎えたのは好々爺の執事。他にも数人の使用人が控えてはいたものの最小限といったような形だった。

「あら、マルクたちだけなのね」
「えぇ、坊ちゃまからお嬢様について伺っておりましたので、大勢で迎えても緊張させてしまうと思い、このようにさせていただきました」

 老執事――マルクはそういってヴェーラに頭を下げる。しかし、その理由も元からわかっていたのだろうヴェーラは構わないと答え、フェオドラの案内を任せる。

「それじゃあ、フェオドラちゃん、私はここまで。また、遊びに来るわ。その時はいっぱいお話しましょうね」
「ん。うぇーらしゃま、いってらっひゃい」
「えぇ、行ってくるわ」

 アルトゥールにしたように手を振れば、ヴェーラはおかしそうに笑って別邸を後にした。残されたフェオドラはインナに手を引かれ、マルクが開けてくれた別邸の扉を潜る。

「まずはお嬢様のお部屋をご案内いたしましょう」
「テオのお部屋?」
「えぇ、そうです。そこがお嬢様のお部屋になります」

 一番最初に案内されたのは二階にある日当たりのよい部屋。青と白を基調とした部屋になっており、青いカーテンには星のラインドロップが飾られていた。カーテンを動かせばシャララと音が鳴る。面白くてしゃっしゃっと動かしてると痛んでしまいますのでとインナに止められた。そんなインナにフェオドラは他にも気になるモノが色々あるのだろう、これは? あれは? と質問し、家具などを確認していく。

「侍女にはそちらのインナをお付けしましょう」
「へ、私ですか」
「当然でしょう。貴女はそのためにこちらに来たのでしょう」

 フェオドラとインナが話をしている間にインナの事を聞いたらしいマルクは笑顔でそう告げる。とはいえ、一介のメイドから侍女への出世。異動してからはまた下働きから頑張ろうと思っていただけに驚くインナ。

「それにお嬢様の身近に安心できる人がいる方がよいでしょう」
「それもそうですが……かしこまりました。精一杯させていただきます」

 私には荷が重いと伝えようとするも貴女なら大丈夫ですよとマルクの目がそう伝えてきて、インナは決めた。

「いんあ、いっしょ?」
「えぇ、フェオドラ様のお世話をさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
「ん、よろしく、ね」

 嬉しいと頬を緩ませたフェオドラにインナもふわりと笑みを零した。
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