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暁 星が宿り、縁が交わる
朝食≠マナー教室
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部屋に入ったフェオドラはインナにエプロンドレスを数着見せられていた。
「どれにいたしましょう」
「きれたらいいよ。これでもいい」
これ、すなわちネグリジェのことだ。アルトゥールから当初フェオドラが着ていたものも聞いていたが、ここまで無頓着とは思いもよらなかった。インナは深呼吸をするとネグリジェがどういうものか、ココに用意しているドレスはどういうものなのかをゆっくり丁寧に教える。きっとこの子は物事が分かっていないわけではない。知らないだけなのだと。
そこから、インナは度々フェオドラに声をかけ、言葉を交わす。インナに対しては慣れてきたのかアルトゥールよりは格段に劣るが話すようになった。
「ヴィーしゃま、いってたの。テオも、もっと、れきること、ふえるって」
「えぇ、増えるでしょうね。はい、万歳してください」
「ん」
決めたエプロンドレスに着替えが終われば、次になにしたらいいのかわからないフェオドラ。椅子に座って足をぷらんぷらん。そうやって遊んでいるとノックの音。そして、失礼するとアルトゥールの声。
「どうぞ、着替えは済んでおります」
「あぁ」
「あ、あうとぅーりゅしゃま」
「及第点だな。正確にはアルトゥール、だ」
「あぅ」
「まぁ、初めてにしてはよく呼べている。フェオドラの事だ、すぐに呼べるようになるだろ」
むぅと頬を膨らませるフェオドラにアルトゥールは愉快そうにクツクツと笑った。さて、行こうと手を差し出せば、フェオドラは何を疑うこともなく、その手を握る。
「これから、食事だが、ジーニャや母上もいる」
「ん」
「昨日の二回目ような服装ではなく、最初の服装に近い」
「うっ」
「固まってもいい、怖がってもいい、でも、必ず顔を見ろ。大丈夫だ」
ドレス姿であるということにピタリと足を止めてしまうフェオドラ。それにアルトゥールはフェオドラの手を握ったままフェオドラの頬を包む。大丈夫だ、そうアルトゥールに言われると大丈夫な気がする。フェオドラのはアルトゥールの手をぎゅっと頑張るという意思表示のように握りしめるとこくりと頷いた。
一階の食堂に入れば既にヴィークトル、ヴェーラ、ジナイーダは席についていた。壁際にはずらりと給仕を担当するメイドと従僕が並んでいる。アルトゥールと共に入った瞬間、一部冷たい視線がフェオドラに突き刺さった。ビクッと体を強ばらせたフェオドラ。
「彼女は我々の客人だ。お前たちはいつから主人よりも偉くなったのだ?」
低い声が食堂に響き、冷たい視線を向けていた者たちはバツが悪そうに視線をフェオドラから外した。
「さ、フェオドラ君も席につきなさい」
「あい」
「返事は『はい』よ。『あい』ではないわ」
「あい」
「ちょっとだけ、はいに近くなったじゃないの。って違う、全然だわ」
ヴィークトルの言葉にしっかりとした返事をすれば、ジナイーダがびしりと扇を突きつけて、指摘。それに、それにモゴモゴと口の中でイメージして、再度返答すれば、少し満足げな顔をするもジナイーダはすぐ自分の発言を訂正した。フェオドラはこの際、ジナイーダを見ていなかったため、普通に反応をしたが、気づくと体を強ばらせた。こそりとアルトゥールがどこを見るんだったかと尋ねれば小さな声でかおと答え、ゆっくりとジナイーダの顔を見つめる。
「大丈夫だろ」
「ん」
強ばりがとれたとは言え、ぎゅっと手を握る程にはまだ緊張はしているようだった。ただ、注意を促すためとは言え昨日のドレスと同じようなとは言ったが、ジナイーダが着ていたのは学園の制服。それなのにフェオドラは反応した。
「学園に通う令嬢か」
新たな情報を頭に叩き込み、アルトゥールはフェオドラを自分の隣の席に座らせる。全員が席に座り、朝食が運ばれる。フェオドラはいきなり多くはということでスープになっていた。
「ちょっと、持ち方がなってないわ」
「ジーニャ」
「お兄様、甘やかしはダメよ。我が家の客人ならそのくらいは出来てもらわないと」
食事中失礼しますといって、席をたつとつかつかと歩いてフェオドラの傍に行く。吃驚して目をさ迷わせるも、どうしていいかわからず固まるフェオドラ。
「痛くするつもりはないわ。安心なさい」
スプーンの持ち方はこうよと言って上手で握っていた手を開かせるとペンを持つようにスプーンを持たせる。ただ、何かを器用に使うということをしたことがなかったフェオドラの手はプルプルと震えていた。
「あぅ」
「これで掬って飲むのよ」
どうよというようなジナイーダにフェオドラはプルプルと震える手で頑張って、スープを掬うもプルプル震えているせいで、スープが零れてしまう。くしゅっと顔が悲しみで歪む。
「フェオドラ、無理はする必要はない。さっきの持ち方で大丈夫だ」
「お兄様! ダメよ」
「ジーニャ、お前の方がダメだ。持ち方にしても順序というものがあるのだぞ」
「貴女だって、いきなりこれから古語で喋るからこれで喋りなさいと言われてできないでしょう?」
「わからないのに、いきなりなんて出来るわけないじゃない」
「フェオドラ君は今、その状態だ。お前だって順番に教えて、その持ち方が出来ているのだぞ」
アルトゥールに上手持ちに戻される中、ヴィークトルとヴィーラにそう諭されるジナイーダ。さ、席に戻りなさいと言われ、ジナイーダは反論したいけど反論できず、ムッと眉を寄せたまま席へと戻った。
「あ、の、テオ、れきなくて、おめんなしゃい」
「……いいわよ、出来なくて。でも、絶対に出来るようになってもらうんだから、覚悟しておくことね!」
「あい」
「返事は『はい』よ」
恐る恐る謝ったフェオドラにジナイーダは声を震わせてそう宣言する。それに返事はすれば、訂正を入れる。
「ジーニャはあまり近寄らせないほうがいいでしょうか」
「いや、あの子の成長にもなるから、関わらせてやれ。それにフェオドラにも友人となる子がいてもいいだろう」
「ジーニャはアーテャをとられると思ったからあんな態度なのよ。大丈夫、そのうち、素直になるわ」
「どれにいたしましょう」
「きれたらいいよ。これでもいい」
これ、すなわちネグリジェのことだ。アルトゥールから当初フェオドラが着ていたものも聞いていたが、ここまで無頓着とは思いもよらなかった。インナは深呼吸をするとネグリジェがどういうものか、ココに用意しているドレスはどういうものなのかをゆっくり丁寧に教える。きっとこの子は物事が分かっていないわけではない。知らないだけなのだと。
そこから、インナは度々フェオドラに声をかけ、言葉を交わす。インナに対しては慣れてきたのかアルトゥールよりは格段に劣るが話すようになった。
「ヴィーしゃま、いってたの。テオも、もっと、れきること、ふえるって」
「えぇ、増えるでしょうね。はい、万歳してください」
「ん」
決めたエプロンドレスに着替えが終われば、次になにしたらいいのかわからないフェオドラ。椅子に座って足をぷらんぷらん。そうやって遊んでいるとノックの音。そして、失礼するとアルトゥールの声。
「どうぞ、着替えは済んでおります」
「あぁ」
「あ、あうとぅーりゅしゃま」
「及第点だな。正確にはアルトゥール、だ」
「あぅ」
「まぁ、初めてにしてはよく呼べている。フェオドラの事だ、すぐに呼べるようになるだろ」
むぅと頬を膨らませるフェオドラにアルトゥールは愉快そうにクツクツと笑った。さて、行こうと手を差し出せば、フェオドラは何を疑うこともなく、その手を握る。
「これから、食事だが、ジーニャや母上もいる」
「ん」
「昨日の二回目ような服装ではなく、最初の服装に近い」
「うっ」
「固まってもいい、怖がってもいい、でも、必ず顔を見ろ。大丈夫だ」
ドレス姿であるということにピタリと足を止めてしまうフェオドラ。それにアルトゥールはフェオドラの手を握ったままフェオドラの頬を包む。大丈夫だ、そうアルトゥールに言われると大丈夫な気がする。フェオドラのはアルトゥールの手をぎゅっと頑張るという意思表示のように握りしめるとこくりと頷いた。
一階の食堂に入れば既にヴィークトル、ヴェーラ、ジナイーダは席についていた。壁際にはずらりと給仕を担当するメイドと従僕が並んでいる。アルトゥールと共に入った瞬間、一部冷たい視線がフェオドラに突き刺さった。ビクッと体を強ばらせたフェオドラ。
「彼女は我々の客人だ。お前たちはいつから主人よりも偉くなったのだ?」
低い声が食堂に響き、冷たい視線を向けていた者たちはバツが悪そうに視線をフェオドラから外した。
「さ、フェオドラ君も席につきなさい」
「あい」
「返事は『はい』よ。『あい』ではないわ」
「あい」
「ちょっとだけ、はいに近くなったじゃないの。って違う、全然だわ」
ヴィークトルの言葉にしっかりとした返事をすれば、ジナイーダがびしりと扇を突きつけて、指摘。それに、それにモゴモゴと口の中でイメージして、再度返答すれば、少し満足げな顔をするもジナイーダはすぐ自分の発言を訂正した。フェオドラはこの際、ジナイーダを見ていなかったため、普通に反応をしたが、気づくと体を強ばらせた。こそりとアルトゥールがどこを見るんだったかと尋ねれば小さな声でかおと答え、ゆっくりとジナイーダの顔を見つめる。
「大丈夫だろ」
「ん」
強ばりがとれたとは言え、ぎゅっと手を握る程にはまだ緊張はしているようだった。ただ、注意を促すためとは言え昨日のドレスと同じようなとは言ったが、ジナイーダが着ていたのは学園の制服。それなのにフェオドラは反応した。
「学園に通う令嬢か」
新たな情報を頭に叩き込み、アルトゥールはフェオドラを自分の隣の席に座らせる。全員が席に座り、朝食が運ばれる。フェオドラはいきなり多くはということでスープになっていた。
「ちょっと、持ち方がなってないわ」
「ジーニャ」
「お兄様、甘やかしはダメよ。我が家の客人ならそのくらいは出来てもらわないと」
食事中失礼しますといって、席をたつとつかつかと歩いてフェオドラの傍に行く。吃驚して目をさ迷わせるも、どうしていいかわからず固まるフェオドラ。
「痛くするつもりはないわ。安心なさい」
スプーンの持ち方はこうよと言って上手で握っていた手を開かせるとペンを持つようにスプーンを持たせる。ただ、何かを器用に使うということをしたことがなかったフェオドラの手はプルプルと震えていた。
「あぅ」
「これで掬って飲むのよ」
どうよというようなジナイーダにフェオドラはプルプルと震える手で頑張って、スープを掬うもプルプル震えているせいで、スープが零れてしまう。くしゅっと顔が悲しみで歪む。
「フェオドラ、無理はする必要はない。さっきの持ち方で大丈夫だ」
「お兄様! ダメよ」
「ジーニャ、お前の方がダメだ。持ち方にしても順序というものがあるのだぞ」
「貴女だって、いきなりこれから古語で喋るからこれで喋りなさいと言われてできないでしょう?」
「わからないのに、いきなりなんて出来るわけないじゃない」
「フェオドラ君は今、その状態だ。お前だって順番に教えて、その持ち方が出来ているのだぞ」
アルトゥールに上手持ちに戻される中、ヴィークトルとヴィーラにそう諭されるジナイーダ。さ、席に戻りなさいと言われ、ジナイーダは反論したいけど反論できず、ムッと眉を寄せたまま席へと戻った。
「あ、の、テオ、れきなくて、おめんなしゃい」
「……いいわよ、出来なくて。でも、絶対に出来るようになってもらうんだから、覚悟しておくことね!」
「あい」
「返事は『はい』よ」
恐る恐る謝ったフェオドラにジナイーダは声を震わせてそう宣言する。それに返事はすれば、訂正を入れる。
「ジーニャはあまり近寄らせないほうがいいでしょうか」
「いや、あの子の成長にもなるから、関わらせてやれ。それにフェオドラにも友人となる子がいてもいいだろう」
「ジーニャはアーテャをとられると思ったからあんな態度なのよ。大丈夫、そのうち、素直になるわ」
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